夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

たのしみは

2017-05-03 21:53:07 | 日記
今日、研究室で調べ物をしていたら、『幕末の歌人』(福井久蔵著)に橘曙覧(たちばな・あけみ)の「独楽吟」五十二首がまるごと取り上げられていて、共感しつつ読んだ。

ご存じの方も多いと思うが、五十二首全て「楽しみは……」で始まり、「……時」で終わる連作の和歌である。清貧・清廉な生活信条が伝わり、好ましく感じられる。

  たのしみはまれに魚煮て子ら皆がうましうましと言ひて食ふ時
  たのしみは三人(みたり)の子どもすくすくと大きくなれる姿見る時

が有名だが、今日私が読んでいてなるほど、と思ったのは、

  たのしみは草の庵(いほり)の莚敷きひとり心を静めをる時
  たのしみはそぞろ読みゆく書(ふみ)の中に我とひとしき人を見し時
  たのしみは人も訪ひ来ず事もなく心を入れて書を見る時
  
などである。

  楽しみは嫌なる人の来たりしが長くもをらで帰りける時

には、思わず笑ってしまった。気持ちはよく分かる。

曙覧を真似て、私も一首作ってみた。

  たのしみは研究室にひとりゐて書(ふみ)広げつつ想を練る時