Chelsea’s Page

村上宏之のブログです

ツアー編  ~その3~

2006-11-21 13:16:32 | BLIZARD
【冬の風景】

 俺らが回っていたライブハウスは・・・まあ、どこも似たり寄ったりでした。楽屋が狭いのは当たり前で、みんなでくっつく程肩を並べてライブの準備をよくしてました。楽屋の壁や天井はライブをしに来たバンドマンのサインだらけ、バックステージ・パスが所狭しと貼ってあり、お世辞にも綺麗と言えるような場所ではなかったですね。俺はそういうところにサインなんか書くのは好きじゃなかったし書いた記憶も殆どありませんけど、なんとなく書き残して行く気分は分かりました。

 「楽屋が暑くて困った」という記憶は無くて、思い出すのは冬場の、用意が終わってライブが始まるまでの間、楽屋で寒さに耐えていたことばっかりです。あの頃のステージ衣装はノースリーブのシャツに下は薄いスパッツとかだったので、冬場は着替えると寒くて寒くて仕方無かったです。身体を軽く動かしたり、スティックでウィーミングアップをしたりしても暖まらず、我慢出来ない時はドライヤーの熱風を身体にあてたりしてました。

 身体が暖まらないうちに本番が始まると、やっぱり手足の動きも鈍いし、手の平に来るスティックの反動もきつくて痛かったです。それでも曲が進むとそのうち暑くなり、汗が出だして、ライブが終わる頃にはいつも汗だくになってました。最近は30~40分くらいのライブしかやらないのでこういう風になることなんて、多分もう無いでしょうね。ブリザードは基本的にライブは常にワンマンで、20曲・2時間くらいいつもやってました。

 暑い時期のエアコンのあまり効かないような場所でのライブはきつかったです。酸欠気味になるとか、体力的にきつくなりやすい、というのもありましたけど「暑さに負ける」ということも多かったです。そしてやたら汗が出るんですけど、これが驚く程出るんですね、後から後から。目に入ると痛いし、着ている物なんかべったりと肌に張り付き、水でも浴びたようになることが殆どでした。

 本当に苦しくなる時、というのは肘から汗が滴る程で、風呂に入ってのぼせた時のようになってしまうのでした。「これじゃあメイクしようが髪型決めようが全く無意味だな」と思って、途中からメイクもしなくなって、髪もムースとか使うのをやめてしまいました。ムースとかは汗に溶けて目に入るとすごい痛いんですよ。どっちにしたって叩いてる時は髪なんか気にしてられませんでしたし。

 それでも冬場、汗だくになってライブが終わってステージを降り、寒い楽屋に戻った時は、冷気に当たって単純に気持ち良かったです。ある時、楽屋に戻って椅子に座ってがっくりとうなだれながらタバコを吸っていて、ふと顔を上げると向かいにランが座ってた時がありました。

 ランもライブをやるといつも汗だくになってましたが、その時は何と体中から湯気が立ってました。すごく驚いて「ラン、体中から湯気が立ってるよ」と言ったらランもタバコを吸いながらまじまじと俺を見て「・・・宏之もだよ」と言うのでした。「えっ?」と思って自分の腕を見たら確かに同じように湯気が立っていて、見回してみるとメンバー全員、バカ寒い楽屋でステージ衣装のまま、汗だくになって体中から湯気を立てて座っていたのでした。

続く

ツアー編  ~その2~

2006-11-13 13:15:35 | BLIZARD
【最初の地方遠征】

 俺は小さい頃、車に乗るのが大好きでした。電車やバスよりも「家の車」に乗るのが好きで、「ずっと乗っていたい」「どこまでも行ってみたい」とよく思ってました。その希望はバンドマンになったことによって、以外な形で実現したのですが…。

 プロになったら「当然ツアーとか、地方へは新幹線や飛行機で移動するんだろう」と思いこんでました。だから、最初に地方へ「車で行って来い」と言われた時は少なからずショックでした。「移動だけでも相当疲れそうだけど、その後ライブなんてやれるんだろうか?」とか「事故に遭ったらどうするんだろうか?」とか。事務所からは「若い時の苦労は金を払ってでもしろって言うだろ」と言われたのですが「しなくて済む苦労ならしたくないんだが」と思った覚えがあります。

 実はプロになってすぐ、俺は閉所恐怖症になってしまって結構苦労しました。2ドアの車の後部座席や混んでいる地下鉄やバス、止まってしまいそうな古いエレベータとかが本当にダメで、そういう場面に出くわすと動悸がして手にじっとりと汗が出て顔から血の気が引いてしまうのでした。そういうこともあったので「そんなに長時間、狭い車の中でじっとしていられるんだろうか?」という不安もありました。

 そんなわけで最初の地方遠征、確か名古屋・大阪だったと思うんですけど、その出発の時はかなーり憂鬱だった覚えがあります。その時は機材車と普通の乗用車での移動でしたが、まだ見晴らしがよくて解放感があった機材車にマネージャーさんと乗って行った記憶があります。

 そうしたら他のメンバーが気にしてくれて、高速道路で機材車を追い抜きながらみんなで「芸」をやったりして笑わせてくれたのを思い出します。最初にそうしたせいか、何故か機材車に乗るが気に入ってしまって、その後も移動中に飽きたら、よく機材車に乗せてもらいました。椅子も悪いし、決して乗り心地はよくなかったと思うんですけど「旅気分」は機材車での方が強かったと思います。

 出発の時は重くて暗い気分でしたけど、それでも「ライブをやりにみんなで地方へ行く」というのはずっと前から憧れてたことだったし、「今後やって行くには慣れるしかない」とも分かっていました。それと、俺と孝之は両親が関西なので、家の車で東京−京都・神戸とか行ったことも何度かあったので「名古屋は以外に近い」という印象でした。

 ライブは名古屋・E.L.Lでのワンマンだったんですけど、ライブが始まってステージに出て行ってみると、俺が予想してた以上に人が多く来てました。「どうしてこんなに人が来てるんだろう?」と、何だか不思議な気分でしたが、みんなステージ前まで詰めて来て、盛大に騒いでくれました。「待っててくれたんだ」「初めてなのに応援してくれるんだ」「来て良かったな」と思えて、本当に嬉しかったですよ。今でも、その時ステージから見た場面を鮮明に思い出します。

 E.L.Lはその後も何度かお世話になりましたけど、今は改装してしまって全然違うライブハウスになっているようですね。あの頃は天井がやや低くて、ドラムを組むと丁度真上に何かのパイプがあって、ライブ中、よくそれを叩いてしまった記憶があります。

 そんなわけでライブが始まってしまえば気分良かったし気楽だったんですけど、まだライブ慣れしていない頃だったので、後半は相当息もあがってバテた記憶があります。でも、どっちかというと慣れない移動や初めてのライブハウスとか、そういうことの方で緊張していたので終わったらどっと疲れました。しかも記憶もここまでは鮮明なのですが、翌日のことや帰りのことはさっぱり思い出せません。大阪はキャンディー・ホールだったように思うのですが?

 それで、いっぺん行って帰ってきたら地方へ行くのが大好きになり、その後は大いに楽しめるようになりました。ブリザード以降、違うバンドでは念願叶って、新幹線や飛行機での移動もありましたが、何故かその時は感激した覚えや楽しめた記憶もあまりなくて、思い出されるのは延々と車で移動をしていた頃のことですね。とは言う物の、体調を崩してしまったり、車が故障してしまったりと、大変な事もたくさんありました。

続く

ツアー編  ~その1~

2006-11-01 16:11:47 | BLIZARD
【秋空】

 今の所、日々通っている会社は、5月に移転してから門前仲町の運河沿いにあるビルの6Fで、社内のでかい窓に向かって座っています。元々空を見るのは好きだったんだけど、最近は気が付くと空を見てる、という時が多くなりました。

 10月の中頃、雲も全く無く、何もかも輝いていて、やけに遠くの方までくっきりと見える日があったんだけど、夕暮れ近く、仕事が一区切りしたので、目を上げて外を見ると、目の前を無数のトンボが群れ飛んでいました。真下が運河なので自然なことなのかもしれませんけど、都内ではやっぱり珍しく思ってしばらく見入っていましたが、ちょっとしてからまた見た時は嘘のようにいなくなっていました。それは一瞬、夢だったんだろうか?と思うような感覚でした。

 そんな風に空を見ていると、昔、色々な場所で見た景色を思い出します。俺は元々、単なるロック好きな大学生からいきなりブリザードをやることになって色んなところへライブをしに行ったんですけど、所詮売れてない、貧乏バンドの地方公演だったので、ぼろいワゴン車での時間を掛けての行程でした。あの頃は携帯電話もなかったし、メンバーとスタッフだけで、隔絶された、世間ずれした時間を過ごしてました。

 延々と続く車中での時間、手持ち無沙汰になって音楽を聴きながら、ただぼんやりと空を見上げてる時が多かったのを思い出します。東京を起点に西や北へ出掛けて行ったんですけど、目的地までの道は果てしなく感じられて、景色の上に広がる空はさらに果てしなく思えました。日が昇る頃から夕暮れまで、深夜から夜明けまで、平野から山間を縫って、橋を渡り、海を越えと、本当に永い時間を「道」で過ごしていたんだな、と思います。

 地方の高速道路は平日の夕方になるとガラガラになることがあって、そういう時間帯にパーキング・エリアで休むのはとても良い気分でした。そういう時に電話ボックスを使って、彼女とかに連絡を入れるわけですけど、「今、どこどこにいる」とか「もうどこそこまで来ちゃったよ」というのは、聞いてる方は寂しかったかもしれないけど、話してる本人はなんとなく偉くなったような、大人になったような、そしてちょっと自慢したいような気分でした。

 ブリザード時代、メンバー全員で普通に撮った写真なんかはあまり無いのですが、気に入って部屋に飾っているのはツアー真っ最中のオフの写真です。それは結構あちこちを回った長かったツアーの終わり頃で、メンバー全員疲れが顔に出ていてあまり良い写りではないのですが、なんだかみんな自信と充実感が顔に出ていて、とても好きな写真です。

 本当に色んな所へ行き、色んな人達に会って、色んな物を見たんだな、と実感します。そして何もかも、今日見ているのと同じ空の下での出来事だったんだ、と思うと何故か安心します。随分と時間も経ってしまったし、随分と自分も変わったと思います。思い出なんて実体の無い、儚い夢のようなものかもしれませんけど、いつでも思い出せる、いつでも帰って行ける場面を持っている自分は、やっぱり恵まれているのかな、と思います。

続く