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CELLOLOGUE

エンリコ・マイナルディの『無伴奏チェロ組曲』を聴く

初めてエンリコ・マイナルディ(1897-1976)の「無伴奏」を聴いたとたん,あれっと思った。淡々とした弾き進め方がペレーニの演奏によく似ていたからだ。マイナルディではなくペレーニが弾いているのかとさえ思った。が,それは誤解で,実はマイナルディはペレーニの師匠筋なのだ(解説書による)。

これはマリア・クリーゲルの演奏とは対極にある演奏と言ってもよい。クリーゲルの情熱的な発露はここにはない。個人的にはマイナルディの演奏の方があらまほしいと思うが。
古楽や古い音楽の演奏法がまだ知られていなかった時代にこれだけの普遍性を持った演奏を残したのは立派だと思う。淡々とした中にも求心力があり虚飾を捨てた美しさが感じられる。バッハを特定の色で染めずに音楽それ自体に語らせていく風で引き込まれる。2番や5番の暗く重い曲も大袈裟になることがなく,それがかえって胸に迫る。
一部の装飾音の解釈など時代を感じさせるものがあったり,多少の音程の甘さもあるが,それがかえって心地よいかも(笑)。

全体的に,特に長調系の曲は脱力した落ち着きがあり気持ちよく聴ける。現代の多くのチェリストの録音のように高速で飛ばすことはなく,テンポは遅め(第1番のプレリュードは2分56秒。2分40秒の私より遅い(爆))。いや,かなり遅い。例えば,私が今練習している第3番のクーラントは別の曲のように遅い(5分4秒)。かなり速いビルスマ(2分28秒)と比べると2倍も違う。このため次のサラバンドと違いが無くなってしまっている(笑)。サラバンドが2つある感じ。概して,クーラントやブーレ,ジーグなどの快速とされる舞曲は遅め。第3番全体をビルスマと比べると1.5倍もかかっている。それでも納得がいってしまうところがマイナルディだ。シンプルに弾くことは卓越した技術と精神がなければならないということの例証でもあろう。

50年以上も前のモノラル録音ながら古さを感じさせないのはアルヒーフの録音スタッフが優秀だったからか(彼らはこの6年後にステレオでフルニエの無伴奏を録音することになる)。
そんな貴重な録音が聴けるのもタワー・レコードの企画のお陰。だが,演奏が遅くてCD3枚分になってしまったのはいいとしても,楽曲名表示だけで解説書を3ページも費やすのはやめてほしい。また,解説文自体が別のものからの転用らしい(「このハレルの演奏…」という箇所がある。これって?)のもいただけないではないか。

■J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲.エンリコ・マイナルディ(チェロ).ユニバーサルミュージック(Tower Records vintage collection, vol.3),1954-55年録音(モノラル).PROA-59-61

参考
無伴奏組曲第3番の演奏時間 ※( )内は録音年
(1)カザルス(1936) 20分14秒
(2)マイナルディ(1954) 25分00秒
(3)フルニエ(1960) 23分04秒
(4)シフ(1984) 20分46秒
(5)ビルスマ(1992) 17分38秒
(6)イッサーリス(2005) 19分46秒
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