【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

現代の探検家《田邊優貴子》 =62=

2017-02-14 14:46:23 | 冒険記譜・挑戦者達

○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 果てしない南極海の氷原で = 3/3 = ◇◆

  船室に置いている荷物や椅子はすべてロープや金具でしっかりと固定し、机には滑り止めマットを敷く。 私のベッドは過去2回とも二段ベッドの上だったので、船の揺れで床に転げ落ちてしまわないよう壁に貼り付くようにして寝た(余談だが、1度目は先代しらせの南極航海最後の隊で、2度目は新生しらせの処女航海の隊だった)。

 夜中じゅう、床に落ちてしまわないように無意識のうちに身体に力を入れて固定しているせいか、確実に眠りは浅くなっているのが自分でもわかる。 初めての航海では、なんと船が43度まで傾き、荒れ狂う南極海の凄まじさを身をもって体験することとなった。 その時の荒れ狂う海と波はまるで刻一刻と姿かたちを変える壁のようで、私には初めて海というものが自分の意志を持った生きもののように見えたのだった。

  幸い、私は船酔いをしない体質のため気分が悪くなることはなく、いたって平気なのだが、もちろん船酔いをする者が続出する。 船酔いする人達の多くは、体調が優れない状態が航海中ずっと続くようだった。 自分の部屋から出て来ることさえできず、食事をとれなくなる者もいて、見ていて可哀想になってくる。

 ただ、私もあまりに揺れが激しくなると、物理的にパソコンで作業をしたり本を読んだりできなくなる。 けれど、船酔いをする人からすれば、そんなことは論外なのだろう。ある時、椅子から転げ落ちない程度の揺れの中で読書をしていると、そんな私の姿を見ているだけで気持ちが悪くなってくると言われたこともあった。

  ある朝、船が揺れなくなったと思い外へ出ると、海には流氷がポツポツと浮かんでいた。 横から差す光が氷の海に映り、とても美しい朝だった。 それまで空を悠々と滑空していたワタリアホウドリやオオフルマカモメ、マダラフルマカモメはもうどこにも見当たらなくなり、ナンキョクフルマカモメや真っ白なユキドリが海面近くをヒラヒラと舞っている。

  暴風圏という壁を抜けると、突然、そこはこれまでとはまったく違う世界で、本当に異次元に迷い込んだのではない

  かと疑いたくなる。 海は一面鏡のように静まり返り、空の色が信じられないほどに透き通っている。 と同時に、これまで自分が見ていた空は、灰色がかった黄色っぽいフィルターに覆われていたことに気づかされる。

  南下していくうちに、どんどん夜が短くなっていき、いつの間にか夜がなくなってしまった。 とうとう、太陽が一日中支配する世界に入ったのである。 徐々に氷が増え白い世界になっていくが、依然として陸地が見えることはない。 こうやって時間がかかりながら、船は南極大陸に近づいていく。

  効率的ではない南極への旅路は、心をどこかに置いていってしまうことはない。

 日本にいると、時間に追われる生活をしているせいか、どうしても合理的に物事を考えてしまい、南極へ出発する前は飛行機で行きたいと思ってしまうことも少なからずある。 けれど、いざ、果てしない氷原が広がる光景を目の当たりにすると、船で来てよかったと心から思うのである。 そして、船を使った南極行は、 やはり世界とは無限の広がりを持ち、現実的な感覚で捉えることができないものであることを、嫌がおうにも私に実感させてくれるのだった。

  ちょうど定着氷に突入する2日前の12月13日、私は誕生日を迎えた。

 今のところ、南極へ来るときはいつも、南極海の氷の上で誕生日を迎えることが続いている。 だいたいその日から太陽は沈まなくなり、それから1か月以上もの期間にわたって白夜が続くので、毎回なんとなく感慨深いものを感じる。 日本の南極観測隊が、毎年11月末に南極へ向けてオーストラリアを出航するという日程や、船を使った運行スタイルを変えない限り、今後もちょうど南極大陸に到着する寸前に私はいつも誕生日を迎えることになるのだろう。

 これから私は、何度この光景を見ることができるのだろうか。 深夜、といっても白夜の明るい夜、海と氷が一面、鏡のように空を映し出していた。 水平線を転がるオレンジ色の太陽が、海と氷の世界に深い影を作り出し、世界を強く際立たせている。 氷原と鏡のような水面が太陽に照らされ、青色とピンク色とオレンジ色が混じり合う幻想的な淡い青紫色の世界になった。

 南極海の刺すような冷たい風の中、時折、羽ばたいていく海鳥の羽が美しく輝き、その光景に言葉を失い、ただただ心を奪われ見とれていた。 時の流れが止まったかのような、南極海の初夏の夜だった。


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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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