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2017-12-10 | 山と渓谷社、関連本



羽根田治
『ドキュメント 単独行遭難』★★★★



衝撃的なシリーズ四作目

山の寒さの厳しさを肌身を持って実感した昨日(in富士山)
深夜1時で御殿場はマイナス4℃
さすがにボードで身体を動かしていても本当に寒かった。
吐く息の白さと耳の冷たさ
ピーンと張り詰めた空気にくっきり見えたオリオン座
半月にぼんやり浮かぶ白い山頂










今朝の完璧な富士山



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*奥秩父・唐松尾山

「たぶんこっちでいいのだろう」と、あまり深く考えないで再び下りはじめた。

生まれて初めて幻覚を経験したのはこのときだ。20~30メートル先に人がいるのが見えたので、思わずストックを振りながら、「そこに誰かいますか?」「おーい、こっちだ。助けてくれ」と叫んだ。人は成人のハイカー二人であったり、少年と老人であったりした。しかし、いくら叫んでもこちらに気づいてくれない。よくよく見てみると、それは老木やガレであった。
そんなことが何度かあり、併せて幻聴も聞こえてくるようになった。沢水の轟音が、人の会話や子供の声、童謡のように聞こえてくるのだ。耳に入ってくる音はきわめて明瞭で、童謡は歌詞が聞き取れるほどであった。

ちょうど標高1900メートルあたりのところを登っているときだった。たまたまクマの住処の穴の前出てしまい、突如その穴から体調1メートル弱のクマが飛び出してきた。距離はわずか3、4メートル無我夢中でストックを頭上に掲げながら「ワーッ」と怒鳴ると、クマは一目散に逃げ出していった。

通い慣れた山域でも過信

「遭難の要因は、ひとことで言えば過信だったと思います。この年は例年にない残雪で、山頂付近の登山道が雪で隠されていてわかりにくかったということもありますが、それにしれももっと慎重にルートを確認すべきでした」

地図とコンパスは、道に迷ってから初めて取り出したのでは遅い。本来は、道に迷う前に活用すべきアイテムであり、そのためには地図とコンパスで現在地を確認しながら行動する必要がある。それをしなかったのも、とどのつまりは過信に起因する強い思い込みがあったからにはほかならないのだが。
その結果、道迷い遭難のタブーとされる沢を下っていくことになってしまった。



*北海道・羅臼岳

予想以上に急な雪渓

「ほんとうにこのルートでいいのだろうか」
「さっきの分岐点までもどったほうがいいんじゃないのか」

このときも「すぐに止まるだろう」と思っていた。だが、一度滑りだしたらあれよあれよという間に加速していき、止めようにもまったく止まらず、雪渓の上を勢いよく滑り落ちていった。

トレースを失い沢を下る

「急がなければ」という焦りもあったのかもしれない。

携帯電話での連絡

「クマが寄ってくるから、食べ物は食べるな」

本来、遭難者が残置したザックは回収しないのだが、ザックの中に入っている食料が羅臼岳周辺に棲息するクマを引きつけてしまう恐れがあるため、回収を決めた。

判断ミスと技量不足








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*秩父・両神山

多田純一(30歳)

「時間に迫られて、深く考えずにチョイスしてしまった」

登山届のポストが設置されているが、多田はこれを見落としてしまう。これまでの山行では、ポストがあるところでは必ず登山届を提出していたので、もし気がついていれば同様にしていただろう。そのことを、のちに多田は深く悔やむことになる。

予定を変更して沢コースへ

「山に来られる時間もなかなかとれなかったので、せっかくだから登りと別のルートで下ってみようかと思ってしまったんです。」

「それがほんとうに道だったのかと言われると、自信がありません」

40メートルの滑落

落ちている間はなにがなんだかわからず、「やばい、このまま死ぬかもしれない」「まだ転がるのか」といった思いが頭をよぎった。
滑落している時間はずいぶん長く感じられた。
真っ先に思ったのは、「とてもまずいことになった」ということだった。

「これは間違いなく骨が折れている」

パニックに陥りそうになった。しかし、ここでパニックになったら取り返しのつかないことになってしまうと思い、まずは冷静になって考えなければと、自分自身に言い聞かせた。
「いちばん恐怖を感じたのがこのときでした。ふだんの生活のなかでは、『死ぬかもしれない』なんて目にはまず遭わないじゃないですか。ふつうに歳をとって、病気か老衰で死ぬだろうという漠然としたイメージを、私は持っていました。それが、『ひょっとしたらこのまま死んじゃうかもしれないんだなあ』と思ったら、すごく怖くなったんです。死に対する、どうしようもないほどの恐怖でした」
その恐怖を懸命に抑え込んだ。

「ケガの痛みはそうとうひどかったと思います。でも、不思議なもので、時間が経つと痛みの記憶って薄らいでしまうんですよ。状況が状況だったので、痛がってる場合じゃないという気持ちも強かったんだと思います」

生き延びるための苦闘

「発見されるには、このまま動かないほうがいいのか、それとも上に登っていったほうがいいのか、ものすごく葛藤がありました。でも最終的に、まだ体力があるうちにトライすることにしました」

わからない足取り

両神山で行方不明になった登山者は、これまでもケースならだいたい3日以内、長くてもせいぜい5日のうちに発見できていたという。
山での遭難事故で行方不明者を捜査する場合、長くて一週間ほど捜して見つからなければ、通常は捜査が打ち切られてしまう。

死を考える

遭難6日から10日目までは、その場から動かず、ただ横になっているだけだった。

長い一日のなかで、覚醒している時間とまどろんでいる時間が短いスパンで交互に繰り返された。

幻覚は見なかったが、幻聴は体験した。沢の音がヘリコプターの音のように聞こえてきて、ヘッドライトを上空に向けたり、笛を吹いたりしたことが何度かあった。

一週間過ぎたあたりから、「このまま発見されないで死んでしまうのも仕方ないのかな」と思うようになった。

増水に流されそうになった10日目以降は、ほとんど体の自由がもきかなくなり、苦しさのほうが先に立つようになっていた。いっそ死んだほうが楽なのではないかという気がして、自分で命を絶つことができるのだろうかと何度か考えた。だが、舌を噛み切ることなんてとてもできそうになかったし、目の前の沢に身を投げることもためらわれた。

生存だぞ!

遭難から二週間近くが経過しようとしても、多田は発見できなかった。

遭難して14日目の午後3時過ぎ、意識が朦朧とした状態で、レジャーシートを羽織って寝そべっていたときだった。
「人の声が聞こえる」と思ってうっすらと目を開けたが、「どうせまた助かる夢を見たんだろう」と思ってすぐに閉じてしまった。すると再び声がした。
「多田さんですか。大丈夫ですか」
もう一度目を開けてみると、すぐ目の前に二人の男の人が立っていた。ずっと捜索を続けていた埼玉県警の救助隊員が、多田を発見した瞬間だった。
「これは現実ですか」と尋ねると、相手は「もう大丈夫ですよ」と言った。それを確かめるために「手を握ってもらえますか」と言って、差し出してきた相手の手を握りしめた。
人の体のぬくもりが手を通して伝わってくると、感極まって涙がこぼれ落ちた。

増水のなか、間一髪の救助

まさにギリギリのタイミングでの救助だった。

左足切断の危機

この事故を通して多田がつくづく感じたのは“生きていることのありがたみ”だ。
もうひとつ痛感したのは、自然のなかにぽんと放り込まれたときの人間の無力さである。
今、あらためて思う。人はいろいろなものに守られて、やっと生きていけるものなのだということを。







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*北アルプス・徳本峠

通行止めの登山道

いろいろな情報を集めて検討してみたところ、なんとかなりそうだという感触を持った。

転落

「まずいな」と思ってもどろうとしたときに、草付きが崩れた。落ちた高さは3メートルぐらいだっただろうか。もっと長かったような気もする。
落ちていく途中、橋の支柱や岩もいっしょに崩落していくのがわかった。なぜだかわからないが、このとき足が折れたことを実感した。

最初に口から出た言葉は「どうしよう」だった。実際に大きな声でそう言った。
人が通りかかることなど、まったくといっていいほど期待できない道だ。

今回の事故は、ふつうなら起きない場所で起きており、もし救助される前に自分が死んでしまったら、それを説明できず、関係者は「なんで?」と思うだろう。

捜査開始を待つ

心のどこかで、ダメなときはダメだという開き直った気持ちと、それでも誰か通ってくれないかなあという都合のいい気持ちがせめぎ合っている。

痛みに耐える夜

背後のほうで、なにかががさがさ動く気配がする。シカやタヌキだったら問題ない。いちばん怖いのはクマだ。クマだけは困るなあと思ったが、来たら来たで仕方ない。

救出

単独行のリスク

「無理をしないこと」と肝に銘じながら、これからも山登りを続けていくつもりだという。



*加越山地・白山

通い慣れた山の未知のコース

油断

「『しまった。やってしまった』と思った次の瞬間には、バランスを崩して転倒していました」

勘違いしていたコースタイム

地図上には「2:00」と記されている。ところが、それを「20分」だと思い込んでしまっていたのだ。完全なうっかりミスである。

「このまま痙攣が収まらなかったらどうしよう」
いちばんの不安だったのはそのことだ。最悪の場合、救助を要請するしかないという考えが頭をよぎったが、なるべくならそれは避けたかった。

数時間が経過しても痙攣はいっこうに収まらない。

診断の結果は「熱中症」であった。
筋肉の痙攣が熱中症の症状のひとつだとは、思ってもみなかった。

単独行には単独行のよさがある。行動の意思決定ができること、時間に追われないことは、単独行ならではの醍醐味だ。高山植物を愛でながらウイスキーを飲んで昼寝をする、なんてことは、パーティを組んでいたら絶対にできやしない。



*北アルプス・奥穂高岳

ひとりの山の魅力

「たとえば仕事で嫌なことがあったときなどは、ひとりで山に行くとすべて吹っ飛んでしまいます。それが単独行のいいとことでしょうか。」

強気の計画変更

「先に進む」という選択をしてしまう。

「今から考えると、軽い気持ちで『行っちゃえ』って決めちゃったと思います」

岩尾根から転落

「激痛のあまり、ギャーッと大声で叫んだのは、生まれて初めてのことでした。でも、心のどこかに冷静な部分もあったようで、あわよくばその叫び声が誰かに聞こえてくれればいいなと思っていました」
激痛に耐えながら、しばらくその場でうずくまっていた。自分でも気が動転しているのがわかった。

行動不能とまでは至っていないが、体に受けたダメージは大きく、自力下山はできそうになかった。このときすぐ救助要請しなかったのは、目印になるものが周囲になにもなく、ヘリコプターでの捜索・救助は難しそうに思えたからだ。また、もう少し自分でどうにかしなくちゃという気持ちもあった。とにかくこのままここにいたら、誰にも発見されずに死んでしまうだろうと思い、この場からの脱出する方法を考えた。

厳寒のビバーク

息子からいきなり「山で遭難した」と言われ、母親はどれだけ驚き、心配したことか。

見上げれば、満天の星が広がっていた。その美しさは、かつて見たことのないほどだった。「なんでこんなときにかぎって」と思うと笑いがこらえきれなくなり、ひとり声を出して笑ってしまった。

朝を待つ間、最も辛かったのは寒さだ。とにかく寒さが厳しく、ずっと震え続けていたため、あとになって全身筋肉痛になった。

落石に怯え、ガタガタ震えながら明るくなるのを待つ間に、二回ほど意識を失った。

『絶対に死なないぞ』

「やっぱり山をナメていたと思う」



*尾瀬・尾瀬ヶ原

トレーニング山行

降り続く雪

「尾瀬でこんな雪の降り方をしたのは、何年かぶりぐらいだったんじゃないでしょうか」

想定外の積雪に、つい溜め息が漏れた。

激しい積雪により、視界は20メートルほどだっただろうか。立ち木がかすかに見える程度で、その木がみんな同じように見えた。たどっているルートには緩い傾斜がついているのだが、ホワイトアウトに近い状況のなかで、傾斜がついているのかどうかもわからなくなるぐらいだった。

「同じような景色が続いているなあ」

登山計画書と下山予定日

予備日の設定は答えの出ない厄介な問題
自分ひとりで考え、決断しなければならない単独行の場合はとくに。

「ほかに人がいると、その人との関係にエネルギーを使わなければならないじゃないですか。基本的に人間嫌いなのかもしれませんが、人がいっしょだと要求されることが多くてうるさく感じてしまうんです。」

「単独行はやめましょう」という呼びかけは昔からいわれていることであり、今も単独行に対する風当たりは一部で強い。

単独行に限った話ではないが、山に存在するリスクについての対処がすっぽり抜け落ちたまま山を歩いている人たちが少なからずいることはたしかだと思う。



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単独行についての考察


危機的状況を招く転滑落事故

登山届と下山予定日

「これを遭難といっていいのか。単なる下山遅れではないか」

山に“絶対”はない。

やはり登山届は提出するべきだ。誰も山で遭難したくて遭難しているわけではない。アクシデントは決して人ごとではなく、突如として自分の身に降りかかってくる。そのときに登山計画書の有無が生死を分けるとしたら、それでもあなたは提出しないほうを選ぶだろうか。

単独行の通信手段

リスクマネジメントの点からすれば、ひとりで山に登るときには、なんらかの通信ツールを携行すべきである。

最も多い道迷い

「おかしいな」と感じながらも引き返さず、間違った道をどんどん進んでしまい、「しまった」と思ったときには完全に道に迷っていたというパターン

ひとりだと、間違えたことを認めたくないという心理が働き、引き返す踏ん切りがなかなかつけられないのだと思う。

命にもかかわる熱中症

単独行者の“自由と責任”



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奥多摩に消えた高齢登山者・・・

認められない「特別失踪」・・・

適用されない社会保障制度と下りない保険金



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http://www.media-paradigm.co.jp/~hatoma/


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