
過日、公式Youtubeで最終回を迎え、ウド編から3年かけて全52話が無料配信された。
本放送当時(1984年)、TVの前にラジカセを置いてテープに宇宙編最終回(総集編の一話前)と黒キリコ誕生回(何故か…)の二話を録音して繰り返し聴いていたのだが、最終回は録らなかった(何故か…)。
最終回を見る前に発刊された月刊ボンボンの最終話(雑誌掲載版)で、
カプセルに向かってバニラが、
「あると思うのか、戦争のない世界が」と問うと、
「なければ作ってみせるさ」と微笑むキリコに、
複雑な思いがぐるぐるした。
学校でも家庭でもTVでも映画でも、戦後の平和教育を受けてスクスク育った中学生には、
「戦争のない世界」はそんなにも不可能に近いものなのか、と愕然としたし、
ATの操縦席を心地良い寝床にするキリコに作れるだろうか、否、と思えたし。
結局本放送では、
「あると思うのか、戦争のない世の中が」
「ああ」に変わっていた。
うん、キリコは自ら「作ってみせる」までまだ到達してないよな、と納得した。
キリコに自らを投影していた当時の自分が、とてもそこまで行き着いていなかったから。
つまり、だいぶ不確実な「ああ」なのだ。
コールドカプセルで冬眠するのは、未来に希望を託しているともいえるが、
現世を捨て来世へ旅立つようにも見えた。ハッピーエンド、なのかどうか。
戦争の為に生み出されたのは、イプシロンも同じ。
イプシロンが命を落とした時点で、キリコの運命も決まっていたのだな。
ゴウト、バニラ、ココナと仲良く辺境の星で新婚生活、とはいかない。
クエント編ではイプシロンのイの字も出てこないが、
「やっぱり彼(イプシロン)がいてこそのキリコ、だから」と監督も言われていた(2007年上映会にて)。
・・・
全宇宙を敵に回し、というのはハリボテっぽいのが否めないのでともかくとして、
友人達を文字通り傷付けてまでワイズマンを倒す決意をしたのは何故か?
疲れ切った若き戦争帰還兵が下界で見たのは、
帰還兵の経験を活かしてバトリングで儲けたり、
武器商人や傭兵を生業としたり、革命を起こそうと or 阻止しようと戦ったり、
いずれもたくましく生きる生身の人間達。
「俺の 安息の場は 戦いの中にしか ないんだ」
と、戦争を肯定し、あまつさえ求めていた自分。
それが、50話弱 × 30分を通して、彼に起きた変化。
この世界で、PSやレッドショルダー、異能者をどうすべきなのか。
ゴウト達やゾフィー、クメンやウドの人々の日常に戦争はいらない。
人類を弄ぶ神たる存在を手玉に取れる立場になったキリコの精一杯だったのだろう。
つまるところ、愛と平和の物語。
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動画のコメント欄に「これではカンジェルマンと同じじゃないか」と
キリコの行動を嘆く意見を見つけ、確かに似ている、と気付かされた。
我が国にはびこる悪しき慣習を道連れに、とクーデターを起こした第三王子。
ワイズマンを倒すまでに秘密結社にも二大勢力にも、多くの犠牲者が出た。
平和を願う黒キリコは必死だっただけで、一人の犠牲者も肯定して欲しくない。
アロンは明確にころしてたので言い訳できないのだが。
しかしころしたのは俺ではなくワイズマンだ、と言い訳していた。
良心の呵責、だろうか。
ワイズマンが今わの際にアピールしていた、「神なら罪に問われない」と。
・・・
TV放送を見ながら、月刊ボンボンの最終話(雑誌掲載版)と違うなと思った点。
ボンボンでは、ワイズマンがフィアナの名付け親であると告白し、
キリコは何故自分がフィアナと呼んだのかわからないことに気付く。
そしてワイズマンは
「お前はフィアナを撃った」の後に、
「もし私に近付く為の芝居だとしても、お前は愛する者を撃ったのだ」
と喧嘩を吹っ掛けていたが、TV放送ではカットされていた。
やはり、完全に信じていた方がスッキリする。キリコは神を出し抜いた、と。
同じく完全に騙されていたヒロイン。
ワイズマン、イプシロンとも、人工的に手を加えられたモノは、
繊細な機微や想像力が乏しく、猪突猛進な面がある、ということなのかも知れない。
いつも動じない狸親父のおやっさんが思わずカッとなって「ころしてやる!」と叫んだり、
ファンタムちゃんと呼んでいたバニラが「フィアナ、戻れ!」と何度も呼んだり、
ココナが「キリコは、何か背負い込んじまったんだよ、あの顔はね」と深読みしたり。
そういうのが、とてもとても人間らしくて、いいなぁと思うのだ。
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それにしても乾氏の音楽はスゴイ。
自分がどこにいて何をしていようと、ボトムズ世界に引きずり込まれてしまう。
しかも数日間、そこから抜け出せない。
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蛇足。
最終回視聴後、兄弟姉妹(中2、小6、小2)間で「開けて」という台詞が一時流行した。
「何故ハダカなのか」
「小窓かあるから開けなくても宇宙は見えるはずじゃ?」
とツッコミつつ。
3きょうだいで同じアニメを見てわちゃわちゃした遠い記憶。