Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

10月27日全国公開『009 RE:CYBORG』感想

2012年10月28日 | アニメ
神山健治監督作品『009 RE:CYBORG』公開初日に新宿バルト9で観てきました。


こちらの写真は劇場内の様子。ロビー上には009の特設売店が設置されてます。


売店ではPatisserie Swallowtailとのコラボレーション焼き菓子も販売。

デザインは009、002、003の3タイプがありますが、やはり一番人気は009のようです。

10Fの「009カフェ」にはEL発光ポスターや作品ロゴつきのテーブルが置かれてました。

ここでは各キャラをイメージした9種類のドリンク販売に加え、名前が入れられる千社札の発行機があったり、
公式HPで見られる作家さんたちのイラスト色紙が飾られたりしています。
ディスプレイも含めて009一色なので、バルト9で009を観るならぜひ寄っておきたいところです。

さて、作品の内容についてですが、細部に触れると絶対にネタバレになるのが苦しいところ。
ざっくりまとめて言ってしまうと、今回は「原作と人類史という二重のミッシングリンクに触れつつ、
サイボーグ戦士が再集結するまでの物語」ということになるのかな。
現在の世界情勢にあわせて大きくアレンジされた部分はありますが、基本の設定はできるだけ活かし、
取り込める部分はなるべく取り込もうとした努力が、随所に見られたと思います。
全体の中に散りばめられたエピソードには、原作に疎い私にも「あ、これは原作準拠のアレンジね」と
わかるところがあるので、元ネタがわかるファンには結構うれしいんじゃないでしょうか。

ジョーとフランソワーズの関係も「001の次に生身の部分が多い」という003の設定をうまく生かしてるし、
これまでの「清楚なヒロイン」というイメージを残しつつ、うまく妖艶さを加えることに成功しています。
それに「清楚なヒロイン」の部分はまた別に…ごにょごにょ。(そこは特に重要なネタバレなので)

作品を振り返ってみれば、今回のストーリーで009と002の次に重要な役回りだったのは、やっぱり003。
今回の003は神山監督の得意とする「電脳世界」にまで精通する存在と位置づけられたことで、これまでの
どのシリーズにも増して、圧倒的な存在感を持っていたと思います。
…ちなみに、肉体面での存在感も圧倒的でした(笑)。
一部で「009ノ1」とか「009-1」と言われてるのも無理ないわな…私もそう思ったし(^^;

今回の『009』が取り上げたテーマについてですが、神山監督が長くこだわってきた「9.11」と、昨年から
監督が何度も言及している「3.11」という二つの大事件を「神」と「人間」の関係から読み解くことにより
関連付けようとしたのではないか…と思います。
(ちなみに「神」の部分に入る名称は、様々に読み替えることが可能。)
私は人の愚行と自然の猛威を同列に考えたくないので(そういう発想自体が人類の驕りだと思うから)、
同時多発テロと東日本大震災を並べて論じるのは好きじゃないのですが、今回の『009』が示した
やや特殊なアプローチについては、ある程度納得できるところがありました。

しかし、それを論じる過程で宗教人類学の視点を持ち込んではみたものの、アルベルトの一方的な語りで
やや中途半端な見解が示されたことについては、ちょっと残念です。
「〇〇論」(あえて伏せ字)では、全体の謎解きとしてちょっと弱すぎるんじゃないかと…。

それに世界中から集結したサイボーグ戦士は、いわば人種のるつぼなわけですから、それぞれの
相反する宗教観をぶつけ合う、という展開があってもよかったと思うのです。
ジェロニモとピュンマと張々湖が民族的な宗教観を語り、そこに合理主義者としてのアルベルトと
愛国者のジェットが絡み、無神論者のジョーやグレート、女性であるフランソワーズ、さらには
旧共産主義国出身のイワンが意見を述べる…というのは、攻殻SACの「ネットの闇に棲む男」ぽくて、
なかなかエキサイティングじゃないでしょうか。
まあそれをやっちゃうと、劇場映画じゃなくてTVシリーズの1話になってしまうわけですが…。

今作のサイボーグ戦士たちについては「もしヒーローが現実に存在していたら」というコンセプトが
徹底していたように感じました。
これは映画版も含めて『ウォッチメン』に関してよく語られるコンセプトですし、私がムーア好きなせいで
類似性を見てしまうのかもしれませんが、それでもやっぱり「影響を受けている」可能性はあると思います。
なにしろ『東のエデン』も、「現実的かつ等身大のヒーロー像」を描こうとする試みだったわけですからね。

こうしたコンセプトだけでなく、映像面についても「ハリウッド映画からのインスパイア」と思われる点が
いくつも見られました。
特にジェットの飛行シーンは、やはりリアルなヒーロー像を指向した『アイアンマン』を思わせるところが
多かったですが、ライバル視すべき作品と表現が似てしまうことについては、やや微妙な思いがあります。

映像は最初から3Dを前提としたので、映像設計においても建造物などの存在感を強調するレイアウトが
多用されていたように見えました。
人物の描き方やカメラアングルでも、3Dを想定した強めのパースが意識されていたように思えます。
とはいえ、立体視の効果が一番よく出ていたのは、なんといっても加速装置の発動シーンでしょうね。
私は3Dに「リアルさの中にある浮遊感」を感じる人なので、これが「フラットなアニメ絵なのに3D」
という不思議さと組み合わさることで、加速中の超現実的な感覚が生々しく体感できました。
…できれば、こういうシーンをもっとたくさん見せて欲しかったですけど。

シーンといえば、空戦シーンで出てくる「プガチョフ・コブラ」はよかった!
ぶっちゃけ空戦の見せ方では『スカイ・クロラ』よりデキがいいかもしれません(笑)。

スケールが大きくて扱いが難しいテーマであることや、原作尊重の縛りをかけてるためか、
全体としては「意あまって描き切れず」な感じもありますが、神山監督の原作への想いと、
作品に託した熱いメッセージは、しっかりと伝わりました。
私の評価はやや辛めかもしれませんが、これは原作や3Dに思い入れが薄い人の感想であって、
昔からの009ファンや3Dアニメに強い関心を持つ人なら、また違った見方になるでしょうね。

さて、私の見た回では、ゼロゼロナンバーズ役がそろい踏みの舞台挨拶が行われました。
全員がサイボーグ戦士のユニフォーム(風のTシャツ)を着て勢ぞろいする様子は、まさに壮観。
各声優さんが生で名セリフを述べられたほか、宮野真守さんの決めポーズや小野大輔さんの「飛行!」
(やりすぎて宮野さんに怒られるというコントもあり)、緊張で何度も噛みまくる杉山紀彰さんなど、
短いながらとても楽しいイベントでした。

そして玉川砂記子さんからの一言は「私の演じたセリフは、今回も加工音声です。(ニッコリ)」
これには神山ファンなら、みんな苦笑いしつつうなずくと思います(^^;

館内ロビーに飾られていた、サイボーグ戦士のサイン入りポスター。


こちらは影の主役ともいえるフランソワーズ役・斎藤千和さんのサインのアップ。


そして神山作品におけるキーパーソン・玉川砂記子さんのサインのアップ。

加工なしで玉川さんのセリフを聞けたのが、実は一番レアだったのかもしれません(笑)。
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4 コメント

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原作へのリスペクト (shamon)
2012-10-30 21:02:22
ども^^。

予告編の段階で「天使編」「神々との闘い編」をもってくるのわかってましたが
○○編につなぐとは恐れ入りましたでしたw。
(ジョーを襲うジェロニモで完全にかまされたけど)
原作初期のような冒険活劇的な要素がかなり影を潜めててやや残念でしたがこれはテーマ上仕方ないかな。
全編通して原作へのリスペクトを感じました。

ハインリヒが講釈垂れるところは
突っ込む役割でグレートがいてくれると
もうちょいわかりやすく重くなかった気がしますね。
キャラクターの配置上仕方なかったんでしょうな。
にしてもピュンマが不憫すぎた。

ジョーとフランソワーズのあのシーンは
正直「え?まじ?」w。
年齢が低い客層には目のやり場に困ったかも。
熱烈なジョーファンは拒否反応ですよ、きっと。

>ぶっちゃけ空戦の見せ方では『スカイ・クロラ』よりデキがいいかもしれません(笑)。
技術の進歩があるとはいえ上手かったと思います。
CGではジョーがドバイのビルに加速して接触したあと、
ぱーーーーん!とガラスが割れるところが秀逸。

なんにせよもっぺん観てきますw。
返信する
私もいっぱい食わされましたw (青の零号)
2012-10-31 21:04:36
shamon姐さん、コメントどうもですw
私はジョーの服装が予告編と違うのに、まずビックリ。
あれにはいっぱい食わされました(^^;
>原作初期のような冒険活劇的な要素がかなり影を潜めてて
>やや残念でしたがこれはテーマ上仕方ないかな。
わかりやすい勧善懲悪と痛快アクションを期待してた人からは
不満が出るかも知れませんね。

まあこれはあくまで神山監督による再解釈であって、
監督のいま撮りたいテーマと009という素材が折り合った結果が
今回の『RE:CYBORG』だと考えるべきでしょう。
そうでなきゃ、わざわざこの組み合わせにした意味がない。

>にしてもピュンマが不憫すぎた。
終盤の展開を見ると、本当はあそこで出番があったのかも。
尺の関係で削られたなら、杉山さんにも気の毒ですな(^^;

>熱烈なジョーファンは拒否反応ですよ、きっと。
でしょうねー。
でも二人の関係に進展があったのは、それだけの長い時間が
経っているということ。
それに肉体の加齢が避けられないフランソワーズとしては、
ジョーより年上の姿になってしまった自分を強く意識しつつ
振る舞わざるをえないですよね。
そう考えると、ああいう情熱的なシーンも自然に思えてきます。
あと、神山監督がジョーと自分を重ね合わせてた可能性も
ないとは言えないでしょうね。
なにしろどちらも9番ですから(笑)。

>なんにせよもっぺん観てきますw
新しい発見があったら、また教えてくださいー!








返信する
新しいかはわかんないけど (shamon)
2012-11-03 20:42:13
イワンがラストでぐーすか寝てるの見て「やっぱりお前か」でしたw
火事場のバカ力は疲れるからね。

それとジョーが女に対して受け身ってのをこれだけはっきりアニメて描いたのは過去に例がないかも、
助けをもとめられてはあるけど、
恋愛描写でここまでやるとは思わなんだ。
あ、2Dでもフランはセクシーでしたよ。
返信する
2D版も見てきたんですね! (青の零号)
2012-11-04 23:56:51
もう2D版も見てくるとは、姐さん早いな!

ラストのアレは、テーマ的に考るとイワンの力なのか微妙ですけど。
というか、私は別の解釈。なんといっても神山作品ですからね。

2D版はTV映像でチラッと見たけど、3D版の奥行きがない分
なんとなくカメラアングルに不自然さを感じました。
やはり3Dに最適化された作品なのかもしれませんね。

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