Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

今こそ読まれるべき傑作、『WATCHMEN』

2009年03月14日 | アラン・ムーア関連
復刊が待たれていたアメリカンコミック(というより、グラフィックノべル)の
大傑作『WATCHMEN』(ウォッチメン)が、ついに!復刊されました。

今回の表紙は洋書っぽく、カバーのつかないペーパーバックスタイル。
デザインはアメリカで2005年に刊行されたAbsolute Editionと同じです。



表紙のデザインだけでなく、内容についてもAbsolute Editionに準じているので
かつてメディアワークスから出ていた旧版とは細部がやや異なっています。
どこがどう変わったかは、翻訳者の一人である石川裕人氏による説明
小学館集英社プロダクションのHPにありますので、そちらでご確認ください。
なお、これに関して特に残念な変更点がひとつ。
原作者の強い意向で、今回の訳書はAbsolute Editionの忠実な再現となり、
旧版で物語を読み解く助けになった日本独自の巻末解説がついてません。

しかしご安心ください、それをフォローする好企画が登場しました!
こちらの「PLANETCOMICS.JP出張版 WATCHMEN特集サイト」がそれ。
旧版から割愛された序文や巻末解説を収録し、さらにネットの特性を活かして
関連図版等を大幅に増強、そして新たな情報も順次追加されるとか。
『WATCHMEN』を読みこむために必須のサイトとなるのは、間違いないでしょう。


さて、こちらはカバーの代わりに今回からついた、紙製の黒い収納ケースです。



旧版の読者にとって、やはりウォッチメンのシンボルカラーは黄色なので
この箱のデザインにはシンプルだけどグッとくるものがあります。

そしてこのケースにメタリック仕上げな銀色のオビが巻かれるのですが、
そこに推薦文を書いているのが、なんと岡田斗司夫氏。



「“日本のコミックは世界イチ”と浮かれるなかれ。
  とんでもない黒船がやってきた。世界一のSFコミックに戦慄した!」

この文章だけ見ると、なんだか意気込みのピントがずれてるようにも見えますが
実は岡田氏はかつて第3回手塚治虫文化賞の選考でただ一人『WATCHMEN』を、
しかも満点の5点をつけて推薦していた人。
それを知ってからこの推薦文を読むと、日本のマンガとの優劣うんぬんよりも
むしろ岡田氏の当時の無念さがうかがえるようで、なかなか感慨深いです。
(ちなみに第3回の選評得点については、今でもネット上で読むことができます。)

あらすじについては以前の記事に書いたので省略しますが、ストーリー担当の
鬼才アラン・ムーアは、スーパーヒーローたちの黄金時代とその翳りを通じて、
アメリカという国がたどってきた光と影の歴史を、見事に描きだしています。
作中に登場するスーパーヒーローたちの姿は、第二次世界大戦以降に延々と
「世界の自警団」を演じてきた、アメリカ自身の自画像でもあるのです。

現実のアメリカがベトナム戦争とウォーターゲート事件で挫折を知ったのに比べ、
『WATCHMEN』の世界では、スーパーヒーローたちがアメリカに勝利をもたらし、
おかげでニクソン大統領は歴史的な長期政権を築いています。
閉鎖的で愛国的で、他国に対し疑心暗鬼、そして強硬手段もいとわない国家。
この「もうひとつのアメリカ」の姿が、9.11以降の同国の姿に重なるんですよね。
時代設定が1985年なので、物語の背景となるソ連との冷戦や全面核戦争などは
やや時代遅れにも見えますが、一般市民の生活を覆う戦争への漠然とした不安や
それと連動する不穏な社会情勢には、むしろ今の時代との強い共通性を感じます。

ヒーローと市民、個人と国家、正義と真実、そして戦争と平和。
ヒーローコミックにとっての固定観念を問い直し、その存在意義すらも揺るがす
究極の問いを提起しつつ、人類が抱える宿業にまで斬り込む『WATCHMEN』。
そのすばらしさについて、緻密な構成、圧倒的な情報量、個性的なキャラクター、
そして驚くべきラストといった要因に分けて語ることもできるでしょう。
しかし本作品の真の凄さは、先に書いた個々の要素が組み合わさることによって
巨大な時計仕掛けのように完璧に動作する、その構築美にあると思います。
その作品名も含めて一個の総合芸術であり、ミックスドメディアであるという姿を
完璧に体現しているまれな作品こそ、この『WATCHMEN』なのです。

物語全体をスマイルバッジひとつで象徴させるのをはじめ、時計を連想させる
数々のシンボルを効果的に使うなど、「グラフィック・ノベル」の呼び名のとおり
視覚から「読ませる」演出も随所に施されているため、読み手は細かい部分も
おろそかに読み飛ばせないという、刺激的な読書体験を堪能できます。
まあ細部については2度目以降の再読で追いかけてもらうとして、初読の方には
この大作を一個の巨大なカタマリと思って、真正面から受け止めて欲しいですね。
値段も情報量も相当な物ですが、何度も読み返す値打ちのある数少ない作品です。
社会の不安が高まっている今だからこそ、多くの人に読んで欲しいと思います。

・・・と薦めておいてアレですが、Amazonでも小・集プロのHPでもただいま品切れ中。
3月末の映画公開にあわせて増刷がかかると思うので、これから買おうという方は
どこかで新刊を見かけたらお買い逃しの無いように。
ここで買っとかないと、またウン万円のプレミアがついちゃうかも知れません。

というか、そんな悲しい事態を繰り返さないためにも、出版社側は責任を持って
今度こそ絶版にしないように!
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2 コメント

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解説に感謝します。 (nobio)
2015-12-10 22:20:41
解説に感謝します。ヒーローたちはアメリカ自身の自画像である、と言われると、なるほどそう言われてみればたしかにそうですね。老眼鏡を新調して、もう一度読んでみます。目が悪くなってみると、小さい字ってほんとに厳しいんですよね。「攻殻機動隊」のよさも私にはさっぱりなんですが、眼鏡を作り直すと世界が変わるのかもしれません。

ところで、

絶版にするな、と呼びかけるべき相手は出版社ではなく、未購読の消費者ですよ。動きがない本は絶版になります。出版社の運転資金が無尽蔵でない以上、いかんともしがたいことです。逆にいうと、絶版にならない本は出版社の良心によって守られてるわけではさらさらなく、単に売れ続けてるのです。
コメントありがとうございます (青の零号)
2015-12-11 00:25:08
nobioさん、コメントありがとうございます。
「絶版にするな、と呼びかけるべき相手は出版社ではなく、未購読の消費者ですよ。」
というくだりは耳が痛いですね。確かにそのとおりですし、
今は状況も変わって出版社さんが頑張ってくれてますね。

攻殻は原作マンガを含め多様な展開をしてますので、それぞれ
受け止め方が違ってくると思います。
私自身は神山監督のSACが一番好みに合いますが、
よろしければいろいろ試してみていただけたらと思います。

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