恋染紅葉

映画のこと、本のこと、日々の些細なことを綴ります。

「空也上人がいた」

2012-08-31 | 日記
前に、山田太一さんの「空也上人がいた」を読んだとき、
その中に出てくる、京都六波羅密寺の空也上人像に大変興味を覚えました。

「いつか私もその目を観てみたい!」と。

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先日、京都に行く用があり、「これは是非叶えなければ・・」と、お寺を訪れて来ました。

小説の通り(若干、道筋を変えましたが)歩いていくと、

「わざわざ歩いて貰う道ではないけど、この寺はほら道行きがない。参道らしきものがない。ひょっこりある。きょっこり見えたろ」

の言葉通り、ひょっこりあります。

そして、門を入って、宝物館のチケットを買い、本堂横の回廊を回って宝物館に・・。

ドキドキしながら(大袈裟・・笑)入ると、



1米くらいの空也上人さんがいらっしゃいます。

「どこから見ればいいのかな?」
右へ左へしゃがみ込んで像を見ていると、
係りの人が、「もっと前、ここ」と教えてくれました。

まさに、
「正面からばっかり見ていないで、ここらへしゃがんで。しゃがんでお顔を見上げてみなさい。ここら、ほら、ここら、ほら」
です。

しゃがまなかったけれど、見えました。

目が光ってました。

照明が上手い具合に反射してるんでしょうが、目に光が入ると表情が出ます。
かつて、苦しむ人々を救って歩いたそのときのお顔に・・・。

私には、主人公のように自分の心情に直面するほどのことはありませんでしたが、それでも少しばかりの感動がありました。
仏像って、魂が入っているから見るものの心を反映するんでしょうね。
やさしく強くの慈悲の御心で。


京都から帰り、さっそく「空也上人がいた」を再読しました。

人間は、不老不死の苦しみからは逃れられないけれど、どう生き抜くかによって、生きている今やその後が変わってくるんでしょうね。

かぞくのくに(2012年日本)

2012-08-31 | 映画(あ~さ行のタイトル)
ヤン・ヨンヒ監督の実体験をもとに作られた作品。
その日、リエと両親は兄ソンホとの25年ぶりの再会を待っていた。
ソンホは、1950年代から始まった帰国事業で北朝鮮に移住していたのだが、今回、病気治療のため3ヶ月だけ日本への帰国が許されたのだ。
家族との団欒、懐かしい友人たちとの再会。
しかし、ソンホには常に監視人が張り付いていた。
そのことに嫌悪感を見せるリエ。
そんな中、ソンホは日本の病院で検査を受けるが、とても3ヶ月では治療出来ないと診断される。
父親は滞在の延長を申請するが認められず、リエも兄のために別の病院を探す。
ところが、本国から突然の帰国命令が下る。

ちまたでの評判が良く、上映が終わらないうちにと鑑賞してきました。

本当にじっくり見応えのある作品でした。

3ヶ月だけの帰国だとか、たった3ヶ月で治療を受けろとか、急に戻れだとか、このうえなく理不尽なことは私たちには到底理解できません。
が、彼は、彼の家族がいるところが彼の国だから黙って戻る。

井浦さんの静かな演技に、あらがえないお国の事情を察しやるせなくなります。
反し、生まれたときから日本で暮らし、いろいろ(差別感情とか・・)悩み苦しみもあったかとは思うけれども、気ままに生きてきた妹のリエ。それを安藤さんがヘンに大振りにせず好演してました。

兄妹で出掛けて、ショーウィンドウのスーツケースに拘るシーンが、ラストへの伏線で、
ラストへ向けてすっきりしない気分だったけど、最後の最後で少し爽快になりました。
自分には叶えることは出来ないが、妹には自由に羽ばたいてほしいと願う兄。
そして、また息子を送り出す親の気持ち・・・。

じわっときました。


監督のインタビューで、「鑑賞後、聞きなれない言葉を検索してもらえれば知識が広がりますし、映画だから完全に理解できなくても、何かを感じてもらえればいいんです。・・・」とあります。
北朝鮮や在日問題を熱心に論じなくても、家族の絆を感じたりするだけでも、観る価値はあると思います。価値観の違う人同士分かり合えるのは難しいことですが、親が子を、子が親を思う気持ちに変わりありません。


関連して、ヤン監督のドキュメンタリー作品が2つ上映されていたそうです。
『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』
在日コリアン家族の肖像を記録したものです。
あとになって知ったので、出来れば観ておきたかったなと後悔してます。

「光」道尾秀介(光文社)

2012-08-29 | 本(ま~わ行の作家)
小学4年生の男の子たちの冒険・成長物語。
今ではほとんど見られない田舎の懐かしい風景、
その中をめいっぱい走り回り、
友情を育み、夢を語る。
彼らの想像が映画さながらのピンチを招き、そしてまた一瞬の奇跡を起こす。

連作短編集の形ですが、一つの「冒険」が終わってまた次というふうに続いています。
長編小説の感覚でイッキに読めます。
そして、その1章1章の間に「誰かのつぶやき(?)」が挿入されています。
そのつぶやきが最後に繋がって、なるほど・・・と。

お話は、「スタンド・バイ・ミー」的で、小学生の、日々めまぐるしく変化していく日常をワクワクドキドキを交えて描かれています。
たぶん、子供の頃は、日々めまぐるしくなんて感じてなかったと思いますが、大人になって思い返すと、なんとかけがえのない日々だったことか・・・。
今になれば冷静に思えることも、子供の頃には大事件。
いろんなドラマが詰まってたんだなあ。

今の子供たちは、こんな冒険を経験してるんだろうか?
家族との旅行先で、大人たちがセッティングしてくれた冒険を楽しむだけなんだろうか?


タイトルの「光」は、そんな冒険の中で出会う光=奇跡の数々。
希望や勇気の光でもあるのかな。


老若男女、楽しめるお話でした^^

出会い本

2012-08-27 | 日記
本日の「天声人語」で、

≪小説の作者と題名を伏せて、書き出しの一文のフィーリングで文庫本を買ってもらう。面白い試みが評判を呼んでいる≫

というのを知りました。

精魂込めた一行にピピッと感じたら勝負あり。

楽しそうですね。

場所は、新宿の紀伊国屋書店。「ほんのまくら ~書き出しで選ぶ100冊~」という面白いフェアをやっているそうです。(もう終了しちゃったのかしら?)
「一行目の書きだし=まくら」だけを印刷したカバーで本をくるんでるので、著者名タイトルとも分からないそうです。
まさにミステリーショッピング?

他の店でもやってくれたらいいのにね。

自分のインスピレーションを働かせて、書棚の前で唸りながら選んでみたいものです。



で、ビビッときて買った人たち、どうだったのでしょうね。
赤い糸だったのかしら?

「鍵のない夢を見る」辻村深月(文藝春秋)

2012-08-27 | 本(た~は行の作家)
町の中に、家の中に、犯罪の種は眠っている
普通の町に生きるありふれた人々にふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる5篇。現代の地方の姿を鋭く衝く短篇集【出版社あらすじより】

今年の直木賞受賞作品。
「ごく普通の人でした」という人が犯してしまう罪。
些細な「我」から出た過ちの恐さを感じます。
後味が悪いお話ばかりで、とくに最後の母親の心理なんぞは、
もしかしたらよくあることなのかもしれません。
追い詰められた主人公の気持ちに痛いほど同調し始め、
予想してしまう結果にならなければいいのにと願います。
現実には、自分はそうはならないだろうと信じてはいますが、
魔が差す瞬間は誰にでもあるでしょう。
どれだけ自分も紙一重の中で生きているか、恐くなります。

辻村さんが描く女性って、過去の中高生が主人公のお話もそうですが、
あまり好感持てない子が多いんです。
あーはなりたくないなと思ってるからかな・・・

それでも辻村さんの新作は、必ずといっていいほど読みたくなります。