カネサダ番匠ふたり歩記

私たちは、大工一人、設計士一人の木造建築ユニットです。日々の仕事や木材、住まいへの思いを記していきます。

番匠の愛用した道具

2008年06月24日 | 大工のこと



中世の絵巻物である『春日権現験記絵』には、「番匠」と呼ばれた多くの人びとがさまざまな道具を使って仕事をする風景が描かれています。
その中には、のみ、木槌、指しがね、墨つぼ、などの現在の我々大工も使用している道具が見られます。

木材を運ぶ番匠が口にくわえているのは、「木の葉型鋸」というもので、横挽き(木を繊維に直角に切る)専用ののこぎりで現在は使われていない型のものです。
手前で二列に並んで板をはつっている番匠たちが使うのは「手斧(ちょうな)」です。手斧も滅多に使われなくなりました。

珍しいものでは、これは道具ではありませんが、番匠たちの傍らに積み上げた木材の先端に二つづつ穴が開いているのが分かりますか?
これは「鼻繰(はなぐり)」というもので、縄を通すためのものです。
木を伐採地から作業場まで運搬する際に、筏を組んだり地上を引っ張ったりする時に利用するのです。
木材を加工した後は不要になるので切り落としました。





そして、手斧ではつった後の板をさらに削る番匠たちが使用しているのが「槍がんな」です。
槍がんなは両手で構えて、木に対して刃物を斜めに引いたり押したりして削っていくので、らせん状にくるくる巻きになった独特のかんなくずが出てきます。





今回Y邸の玄関のカウンター板を、古の番匠たちに倣って槍がんなでの仕上げに挑戦してみました。
用意したのは厚みが6センチ、巾が60センチの杉の一枚板。

原版は反りや捻れがあるので、墨を打って丁寧に削り込んでいきます。板の裏側には反り止めのための蟻桟(ありざん)をしっかりと打ち込んでおきます。
こうしておけば、将来板の乾燥にともなう狂いや捻れを防ぐことができます。





さあ、古の番匠たちのようにうまく削れるでしょうか?
普段使う台がんなと同じように、下っ腹に力を入れ、腰を据えて体全体で槍がんなを引いていきます。





槍がんなで仕上げた木肌は真っ平らにはなりません。
手で触ると、でこぼこ、でこぼこと刃の通った軌跡がよく分かります。

しかしそこからは、木が本来持ち備えているぬくもりや輝きが一段と増してこちらに伝わってくるような気がするのです。
番匠の愛用した道具とは、そんな不思議な魅力を持ったものなのです。
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おやっさんと建てる家

2008年06月21日 | 大工のこと
おやっさんに呼ばれて、建前の手伝いに行ってきました。





私のおやっさんは関市上之保(旧上之保村)の河合建設(株)の河合さん。
笑顔の素敵なこの親方のもとで5年間の住み込み修行をさせていただきました。





おやっさんの住む上之保村は今の時期は川沿いにホタルが乱舞する静かな山村。
私たちが住む郡上八幡と山をひとつ隔てた隣村です。

人口の約一割が大工!という上之保村は東海地方ではデカ木住宅(デカモクと読みます)の上之保村と言えば、たいていの人に分かってもらえます。





さて、この辺りでは大きな本宅を新築したり、建て替えたりする場合を特に本家普請(ほんやぶしん)といいます。
一方子供などが本宅の傍や近所に新たに建てる場合には新家(あらや)と言って区別します。

今回お手伝いしたのは60坪近くの本家普請。
「乞食もたれ」「テッポウ梁」など古くからの部材も使ってあります。
そして本家普請に大抵セットになってくるものに、「せんがい」があります。





せんがいとは船櫂(せがい)造りのことです。
軒桁の載る柱に腕木を差し込んで、さらに出桁を架けて軒の出を深くする工夫がされています。

出桁の上に張ってある、せんがい板は巾が50センチもある椹(さわら)の一枚板。
この手法は例えば関西地方の町家、民家などにも広く多用されている一般的なものですが、最近では新築で見ることはめっきり減りました。
夏は強い日差しを遮って風通しが良く、冬は陽射しが良く差し込む快適で景観もすばらしいものです。





私がおやっさんのもとに弟子入りした頃はプレカットの普及率は1割を少し超える程度で、大工が自分で墨付けをして自分で刻むのは日常のことでした。
いまや時代はプレカットが全盛。9割に迫る勢いで、中には「大工が刻むよりもプレカットの方が遥かに正確です。」なんて声も聞こえてきます。

おやっさんは私に手取り足取り仕事を教えてくれたわけではありません。
読んで字のごとく、見習って仕事を覚えてきました。

そんな私がおやっさんから教えてもらった最大のものは、大工としての心意気でしょうか。
今だに手仕事や国産材にこだわるおやっさんを私は頼もしく誇りに思いますし、こうやって今も一緒に建前ができる喜びをかみしめています。

まだまだおやっさんに教わることは尽きません。




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