よしひこさんはプールにお迎えです

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インド人A君の災難10

2017-01-21 18:40:58 | 日記
前回から続いています。インド人A君が言いました。



「彼女に送ってもらったとき、用があって一度、彼女が車のそとに出マシタ。ワタシ、ひとりになりマシタ。

そのとき、車の灰皿を見マシタ。そこにタバコの吸い殻、ありマシタ。もどってきた彼女にワタシ、聞きマシタ。

『この車でだれかタバコ吸ったんデスカ?』すると彼女は『いいえ』。

だから、ワタシ、聞きマシタ。『タバコ吸ってるのはあなたデスカ?』『はい』

ワタシ言いマシタ。『タバコは健康に悪いデス。やめたほうがいいデスヨ』

すると彼女、言いマシタ。『吸うかどうかは私が決めること。私のプライベートに口を出さないでください』

ワタシ、ショックデシタ。彼女の健康を心配したんデス」



A君はいつのまにか涙ぐんでいました。赤い目をして私たちに聞きます。

「言いすぎデシタカ?言ってはいけないことデシタカ?」
「そんなことないよ、オレだって言うかもしれないよ」

ところが、カズオがアホな口出しをしました。

「A君の前で吸ったわけじゃないんだから、迷惑じゃないじゃん。だから、よけいな口出しと言えばそうなんじゃないの?」

ここですっかりA君に感情移入している私ととカズオがもめはじめます。

「おまえこそ、よけいな口出しするんじゃないよ!A君は彼女の健康を心配したんデス!」
「ばかやろう、そんなものは本人の意志じゃねえか!」



インド人A君の災難9

2017-01-11 18:50:07 | 日記
前回から続いています。カズオがコーラの2リットルボトルをA君につごうとします。

「ほらA君、どんどん飲んで!」
「いえ、コーラはそんなにどんどん飲めまセン!」

しつこい人たちだ、という困惑がA君の顔に現れます。怒らせてしまったのでしょうか。窮地に陥る国際交流!

私とカズオが勝手にふたりの会話をはじめると、A君はおもむろにスマホをとりだして、自分の世界に入りました。怒っちゃったのかなあ。まあ、いいか。ちょっとほおっておこう。

ところが、携帯の画面を見ていたA君が、やがてぽつりとつぶやいたのです。

「ワタシ、実は気になっていることありマス……」

おっ、きたきた!インド人A君の秘密がいよいよ暴かれるのです。でも、ここはちょっと心配してるような顔しとこうっと。

「どうしたの?」
「昨日の夜デシタ。知り合いの女性の車でワタシ、送ってもらいマシタ」

「だれ?つきあってる子?」
「そうじゃないデス!仕事の関係の友達デス!」

「好きなの?」
「そうじゃないデス!好きかきらいかは、好きデス!」

ややこしいぞ、A君。

「ああ、じゃ好意をもってるってことね?」
「好意?」

「好きってこと」
「ハイ」
「じゃ、好きだね」

A君はムキになって言いました。

「好きデス!」

そこはムキになるとこじゃないけどね。

「フフフ、まあいいよ、それで?」

そこから、A君の告白がはじまり、私たちは耳を傾けたのです。




インド人A君の災難8

2017-01-08 17:08:20 | 日記
前回から続いています。これでどうだ!私はオレンジ色をした、ウニの和えものをA君に差し出しました。

「じゃ、これ食べてみて」

ウニの和えものを口にするA君、顔をひきつらせながらも言いました。

「……おいしいデス」

それなら、と今度は数の子とニシンの甘酢和えのようなものを提供。すると……。

「うっ!……おいしいデス」

こうなったら、タコやらへんなものをたくさん食わせてやれと、どんどん出すのですが、彼は頑強に「おいしいデス」をくりかえし、イヤイヤながらも食べてしまいました。

さすがに枝豆だけは、ほんとうに安心して味わっていたのが印象的です。私は聞いてみました。

「A君、だいぶムリしてるんじゃないの?」
「そんなことありませんネ」

ガンコなインド人です。

「今まで日本で食べたの、だいじょうぶだったの?」
「ええ、食べものはだいじょうブ。天ぷらも食べましたネ」

「どんなの?」
「野菜天ぷらデス」

「ああ、かき揚げね」
「いいえ、野菜天ぷらデス!」

「だから、かき揚げね」
「いいえ、野菜天ぷらデス!」
「わ、わかったよぉ……」

ちいさなことにムキになるとゆずらないA君。なんともかみあわない国際交流……。場をなごませようと、カズオがコーラの2リットルボトルをA君につごうとしました。



インド人A君の災難7

2017-01-06 18:57:09 | 日記
前回から続いています。おでんの具をひと通り食べさせると、A君の皿には和辛子がなくなってきました。でも、彼は遠慮して「からしをクダサイ」とは言えません。

フフフ、追加の辛子はあげないよ。私はここぞとばかりに、おせち料理をさしだしました。

「はい、おせち料理あるよ。これ、なます」
「なます?」

最後に残った和辛子を、なますにたっぷりつけて食べるA君。気の遠くなるような顔をして食べながら、皿に残った細くて白い物質を見つめ、A君は聞いた。

「これはなんデスカ?」
「大根の細切り」
「だいこん?」

そこでカズオに聞く私。

「そうそう。えーと、英語でラデッシュだったけ、カズオ?」
「なんだっけなあ~」
「いや、でもこれは世界共通でいいのか?」
「わかんねえ」

2人がやりとりしているあいだ、英語でイメージが通じず、しきりに首をひねるA君。

あとで調べてみると、radish (ラディッシュ)でいいらしいのですが、他の国では形が小さかったり、赤かったりするようですね。日本の大根なら「Japanese white radish」がいいようです。

でも、このときの私にはそんなことはどうでもよくなっていました。もっと生臭いものをA君に食わせてやろう、フフフ。