●〔44〕石原千秋『大学生の論文執筆法』ちくま新書 2006 (2006.06.28読了)
『秘伝 中学入試国語読解法』を読んでいる時、タイミング良く本書が発売になったので、買って読みました。
この本は次の2部から成り立っています。
第一部 秘伝 人生論的論文執筆法
第二部 線を引くこと―たった一つの方法
第一部は「論文執筆法」とはなっていますが、How toというより、大学生の知的生活に関するエッセイ的アドバイスという感じでした。雑談や寄り道も多くあり、雑多な内容でしたが、面白く読むことができました。
以下に、大学生のための有益なアドヴァイス(^_^;)をランダムに引用してみます。
よく大学の授業がつまらないという声を聞くが、考えてみてほしい。週に一〇コマ以上の授業がみんな興奮するほど面白かったら、君たちだって身が持たないだろう。教師と馬が合うとか合わないという問題もあるし、週に二コマか三コマ「面白い」授業があったら、学生生活として十分ペイしているはずだ。(p.17)
誤解のないように付け加えておくと、僕はこの本の内容がダメだと言っているわけではない。世の中にはすごく優れた思考力があるのに、文章が下手な人がいる。それに、読むに値するから批判しているのである。つまらない本を批判しても仕方がないだろう。文科系の学生なら、『〈民主〉と〈愛国〉』ぐらいは読んでおいてほしい。(p.35)
それよりも、近年の小森陽一がほとんど本を出すたびごとにと言っていいくらい、「パクリ」を指摘されたり抗議を受けたりしたりしているのは、超一流の研究者だけに、残念でならない。政治的なことも含めて(それが大切な仕事であることはたしかだが)、いろいろな仕事を引き受けすぎ、そして書きすぎだからなのではないかと思う。小森陽一は個人的なチャンネルはすでに失われているし、誰かが一度はきちんと言っておかなければならないことだと思うので、あえてここに書いておく。(p.38)
僕が前に勤めていた成城大学文芸学部は半ば東京大学の植民地化していて、教員の約三分の一が東京大学の出身者だった。その中には、研究、人格ともに立派で、僕などが何をどうやってもまるで足元にも及ばないと思わせられる、惚れ惚れするような教員も数名はいた。エリートというのは、こういう人のことを言うのだろうかとつくづく思ったものだ。
しかし、それ以外は「昔、東大を受験したときには秀才だったんだろうなぁ」という感想を抱かせるような教員ばかりだった。特に文科系の研究は多くは一人で行うものだから、その教員の優劣がはっきり出てしまうのである。東大でこんな感じなのだ。受験勉強なんて、その程度のものだ。(pp.104~105)
文科系の研究者の世界では、「鉄のトライアングル」があるようだ。「東大、朝日新聞、岩波書店」である。これらを結びつけているのは共産党、あるいは少し古い左翼思想である。(pp.125~126)
なお、第一部の最後に「宿題」が出ています。
最後に、学生諸君に宿題をひとつ。この第一部の奇妙な形式は、ある有名な哲学書を真似ている。翻訳では岩波文庫とちくま学芸文庫から出ている。文科系の学生なら、学生時代にその本を買って、パラパラ読むことぐらいはしてほしい。
ヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』ですね。
第二部は石原千秋お得意の「二項対立」による思考法が、具体的な文章をあげながら、解説されていました。