クリスマスから正月、巷を彩るポインセチア、あれは毎年買ってきてはシーズンが終わると捨ててしまい、また新しい年には買ってくるのが一般だとされる。
しかし私は、毎年紅葉を楽しんだ後、新芽のついた昨年ものを夏を越させて、また秋に短日処理をして、再び葉を赤くして愛でるのが癖になって、同じ苗を毎年育てて十年になる。
この鉢と出会うまでは、私はここ長谷観音の近くのマンションより少し離れた、日当たりのよい自宅のサンルームで、樹齢が十年近くになるハイビスカスを、冬の間中花を咲かせ、周りにペチュニアなどの夏の花も咲かせて、ロッキングチェアーでコーヒーを飲みながら本でも読む憩いの時を楽しんでいた。だが十年前、事情があってこの家を手放し、いまのマンションに越してきた。
マンションは広いし庭もあるといっても、一軒家にはかなわない。それにだいいち、勝手に改築してサンルームなどは作れない。
引っ越しの際に、御近所の方に愛する鉢植え類を譲り、さびしくなった私が、新宅の書斎の窓辺に飾ろうと、サカタのタネの植木市で、見事に赤くなっている大きめの鉢を購入してきたのがきっかけである。それがあまりに見事だったので、春になり、新しい芽を眺めながら、もう一年咲かせてみようかと鉢を大きくして、育て方を教わって、苦労して二年目も見事に育てたのがきっかけになり、毎年数えて今年は十年目になった。
幹が年々太くなり、あの可愛らしいスマートな枝の姿が、いまではもう、節くれだった巨木になった。幹の太さが親指と人差し指では囲めないほどに太い。葉は樹勢が強いので毎年枝を切り詰めているが、それでも150センチほどの高さに達する。
ポインセチアは毎年、8月か9月から三カ月くらい、毎夕日射しを覆い幕で遮って人工的に日照時間を制限し、紅葉を促してあの美しい姿に育てるのだが、こんな大きな姿になると、それも簡単には成功しない。
大きすぎる上にこの枝は簡単に折れる。最初はそれでも段ボール箱をかぶせて陽覆いをしていたが、もう被せようにも500リットル以上の大型冷蔵庫の箱にも収まらなくなった。ホームセンターで用材をそろえて枠を作り、これに黒いビニール幕で毎夕覆いをかけるのだが、ちょっと風が吹くとこれが飛び、中の枝が無残に折れてひと騒動。毎年苦心の連続である。
今年は二歳に満たぬ愛孫が6月以来入院し、毎日分担しては片道一時間半の大学病院まで付き添いに行くという用事も重なり、その上、9月にはベランダの全ての鉢を飛ばすような猛台風にも見舞われた。覆いの作成もおかげで三回、このため日照調整もスローピッチで、紅葉は、先の方だけほんのり染まり、「早く赤くなれ」と毎日眺めているのだが、このままでは正月にどこまで赤くなることだろう。おまけに風の影響で、吹き折られた枝も随所に見えて。
だが私はもう何年も、正月から春になる数カ月の夜を、ソファーの横においたこの聳える赤い葉をめでながら、ワイングラスに注いだ赤ワインを軽く持ちあげて口に含み、ブルーチーズなどを肴に一時を過ごすのを何よりの楽しみにしてきた。いまでは息子家族と同居して、16畳あった明るい書斎は息子たちに明け渡し、鉢はやむなくいまの窓際に移動して冬を越すが、それでも傍には応接セットとワイングラスなどを収めるサイドボードがある。
そこでのワインはマンション暮らしという限られた箱の中に押し込められ、いくら防音防震対策があるとはいっても、いままで樹叢に囲まれた一軒家で暮らしてきたわがまま爺のストレス解消の特効薬なのだ。
正月前には、二つになった入院中の孫息子も、苦しい治療を終えて退院する予定だ。この子をはじめ孫どもを集め、爺さんはワイン、孫どもはアイスクリームで、戸の面の寒風に時々耳を澄ませながら、孫どもに昔話を語り聞かせながら、にぎやかに過ごす正月の夜の一時、なんてのも悪くない。
過剰な期待をかけられて、サービスも充分してもらえずに、これでは赤くなるよりも、いよいよ青くなりそうな我が家のポインセチアである。