読者のYさんという医師から福島県の産婦人科医の医療ミスとその医師の逮捕についてご意見をいただきました。ご本人からこのブログでご意見を取り上げて欲しいとの要請をいただきましたが、私にとって専門外のことですので、Yさんにはお断りをした上で、私の信頼できる専門家に意見を求めてある種の「裏付け」をさせていただきました。その上での掲載です。
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以下、Y医師のご意見です。
2月20日、いわゆる医療ミスのニュースが公になりました。
福島県の某医師が帝王切開術お手術中に患者を死亡させた、というものです。そしてこの医師は福島県警に「逮捕」されています。
この事例はその他の数多の「医療過誤」と混同され、世間的にはあまり興味をもたれていませんが、我々医療従事者には大きな衝撃でした。
実際に福島県の数ある医師会はもちろん日本産婦人科学会や東京都医師会などが相次いで声明を発表する、異例の事態となっています。
まず何より、亡くなられた女性、そしてご家族にお悔やみを申し上げます。
さて、私もそのひとりですが医療の現場ではこの事例が日本の医療の破綻にもつながる大問題であると、推移を見守っています。
問題は以下のようなものであると考えています。
①良好な結果を出せなかった医師が「逮捕」されたという事実。
医療というものは、かならずしもみなさんの期待に沿えるものではありません。それは救命処置においても変わりません。どんな高度な技術を用いて献身的に努力しても、100%の安全というものは保障できません。今後、その100%が達成できなかったから警察に逮捕されるような事態が許されるのなら、「リスクを背負っての医療」など出来るはずがありません。現場では医師たちは本気でそう感じています。今回の警察の「逮捕」という判断が認められるなら、日本の医療は崩壊します。
②「結果」が出せなかったことが、「過誤」のごとく報道された事実。
今回の事例、一般世間的にはインパクトが大きくなかったかもしれません。数多の「医療過誤」記事に埋もれてしまっているのでしょう。
私自身は共同通信の報道でこの事例を知りました。この医師が「大量出血の可能性を知りながら、十分な検査を行わず」、「大量出血で女性を死亡させた」と報じています。医師の意見として、今回の症例は非常に悔しく、残念なことですが救命が非常に困難だったのでは、と考えます。
「癒着胎盤」からの出血との記載はありますが、その病状つまり急激な大出血により、十分なマンパワーを以てしても止血は困難を極め、救命も容易ではないという事実に関しては一切説明がありません。
記事はこの事例の生じた県立病院に、産婦人科医がひとりしかいなかったことを伝えています。しかし、そこまで追い込まれてしまった地方医療の窮状にはいっさい言及していません。共同通信の記事は担当医の実名および住所を公表し、最後には「○○先生が(事件後も)勤務しているのはおかしいと思った」とする証言を紹介して終わっています。同じ医療者として、これほど困難な病状に対しひとりで闘った(闘わねばならなかった)医師が、なぜ報道機関からもここまでの仕打ちを受けなければならないのか、不思議でなりません。
重ねて申し上げますが、現場ではやりきれない、という感想に満ちています。医学生たちにも「産婦人科になるのは御免だ」という意見が増加していると聞きます。そして、先に紹介したような学術団体の意思表明、ネットを通じての署名運動なども本格化してきています。
しかし、憂慮すべき問題はさらにあると思うのです。
医療者の「運動」が活発化するたび、患者側のみなさんには「医者同士のかばいあい」のように見られるのでは、ということです。患者のみなさんのご期待に沿えなかった場合、当たり前のことですが、われわれ医師を始めとする医療者も、深く傷ついています。そのことは、あまり報じられません。本来、医師と患者は病気に対し「共闘」する関係であるべきですが、昨今の報道を見るとその関係は「対立」に向かっているのでは、と心配しています。
このことを、ぜひ浅井さんに知っていただきたいと思いメールしました。
もし浅井さんのサイトでも紹介していただき、今回のこの事例に少しでも多くの方の興味が集まればと思います。
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以下、Y医師のご意見です。
2月20日、いわゆる医療ミスのニュースが公になりました。
福島県の某医師が帝王切開術お手術中に患者を死亡させた、というものです。そしてこの医師は福島県警に「逮捕」されています。
この事例はその他の数多の「医療過誤」と混同され、世間的にはあまり興味をもたれていませんが、我々医療従事者には大きな衝撃でした。
実際に福島県の数ある医師会はもちろん日本産婦人科学会や東京都医師会などが相次いで声明を発表する、異例の事態となっています。
まず何より、亡くなられた女性、そしてご家族にお悔やみを申し上げます。
さて、私もそのひとりですが医療の現場ではこの事例が日本の医療の破綻にもつながる大問題であると、推移を見守っています。
問題は以下のようなものであると考えています。
①良好な結果を出せなかった医師が「逮捕」されたという事実。
医療というものは、かならずしもみなさんの期待に沿えるものではありません。それは救命処置においても変わりません。どんな高度な技術を用いて献身的に努力しても、100%の安全というものは保障できません。今後、その100%が達成できなかったから警察に逮捕されるような事態が許されるのなら、「リスクを背負っての医療」など出来るはずがありません。現場では医師たちは本気でそう感じています。今回の警察の「逮捕」という判断が認められるなら、日本の医療は崩壊します。
②「結果」が出せなかったことが、「過誤」のごとく報道された事実。
今回の事例、一般世間的にはインパクトが大きくなかったかもしれません。数多の「医療過誤」記事に埋もれてしまっているのでしょう。
私自身は共同通信の報道でこの事例を知りました。この医師が「大量出血の可能性を知りながら、十分な検査を行わず」、「大量出血で女性を死亡させた」と報じています。医師の意見として、今回の症例は非常に悔しく、残念なことですが救命が非常に困難だったのでは、と考えます。
「癒着胎盤」からの出血との記載はありますが、その病状つまり急激な大出血により、十分なマンパワーを以てしても止血は困難を極め、救命も容易ではないという事実に関しては一切説明がありません。
記事はこの事例の生じた県立病院に、産婦人科医がひとりしかいなかったことを伝えています。しかし、そこまで追い込まれてしまった地方医療の窮状にはいっさい言及していません。共同通信の記事は担当医の実名および住所を公表し、最後には「○○先生が(事件後も)勤務しているのはおかしいと思った」とする証言を紹介して終わっています。同じ医療者として、これほど困難な病状に対しひとりで闘った(闘わねばならなかった)医師が、なぜ報道機関からもここまでの仕打ちを受けなければならないのか、不思議でなりません。
重ねて申し上げますが、現場ではやりきれない、という感想に満ちています。医学生たちにも「産婦人科になるのは御免だ」という意見が増加していると聞きます。そして、先に紹介したような学術団体の意思表明、ネットを通じての署名運動なども本格化してきています。
しかし、憂慮すべき問題はさらにあると思うのです。
医療者の「運動」が活発化するたび、患者側のみなさんには「医者同士のかばいあい」のように見られるのでは、ということです。患者のみなさんのご期待に沿えなかった場合、当たり前のことですが、われわれ医師を始めとする医療者も、深く傷ついています。そのことは、あまり報じられません。本来、医師と患者は病気に対し「共闘」する関係であるべきですが、昨今の報道を見るとその関係は「対立」に向かっているのでは、と心配しています。
このことを、ぜひ浅井さんに知っていただきたいと思いメールしました。
もし浅井さんのサイトでも紹介していただき、今回のこの事例に少しでも多くの方の興味が集まればと思います。
患者と医師は病気に対して一緒に戦うはずだったのが、何時から敵になってしまったのか。起こりうる可能性すべてを説明していくと必要な治療を拒否してしまう人がいる。そして悪くなれば医者のせい。キチンと説明しても覚えていなければ聞いていない。結果責任で逮捕されてしまうのなら、すべての治療が出来なくなってしまう。医者は専門家ではあるが人体という大自然を相手にしているのだ、機械を相手にしているのではない。神ではないのだ。
大変大切な言葉が連なっています。
私も受験勉強していたとき、医学部に入った時、
医者に成り立ての時、あんなに患者のために
頑張ろうと思っていた情熱は、献身的に医療に従事
してきた医者を社会的に窮地においやるような
マスコミをはじめとした社会現象のなか、
消えうせました。
現在の社会を支え、世界最長寿国にしてきたのは今の医療であるにもかかわらず、それは世直し運動と称する医者いじめによって壊されています。
なんとかマスコミに対して医療サイドからも
コメントする方法はないのでしょうか。現状では、
全ての医者は消極的にならざるを得ないため、
全ての医療は成り立ちません。
なぜなら、自分で手を出さなければ訴訟や事故に巻き込まれることは無くなるのですから。
亡くなられた患者さま、ご家族の皆さまにはお悔やみを申し上げます。
しかし、ここに、“妊娠・出産に対する無理解”を、私の観点から述べたいと思います。
出産、という行為は、“自然の営みであり病気ではない”として、正常に経過するもので何事も起こらなくて当然だ、と思っている方々が多いのでしょうが、それは大きな間違いだ、ということです。
人間も地球上の一動物ですから、自然界の摂理にたがわず、生きて行く過程において、100%安全などということはありえません。それでも、病院で出産することによって、急な変化にも対応し、世界で一番新生児の死亡率が低い国という、最高レベルまで到達したのです。
お産というのは、妊娠中にも何もなくて通常分娩だろうと思っていても、途中で赤ちゃんの状態が急変することはよくありますし、赤ちゃんを助けてあげるために緊急手術になることもよくあるのです。そして、それは、適切な病院管理によって一部は予測することはできますが(自宅分娩していたらどのような管理になることでしょう?)、やはり、一部は、“自然”の現象として、(地震などの天災と同じく)予知不可能なままなのです。
妊娠した段階で、妊娠した以上は分娩しないといけませんから、すでにある程度のリスクを背負っているのですが、そのような覚悟をもって、妊娠する夫婦がどのくらいいるのでしょうか?
現在、日本はあまりにも安全で、生きていくことにリスクがなく、平和ボケしてしまっているのではないでしょうか?
あまりにも世の中が便利で自分の思うようになってきたがために、人間も自然という世界の一生物種でしかなく神ではない、ということを、忘れているのではないでしょうか?
健康であった家族の一人がたった数時間の間に亡くなってしまうなんて、当然、すぐには受け入れがたいことでは有ろうと思います。また、そのような母体死亡に遭遇し、必死で手を尽くした後、疲労困憊した産婦人科医の暗澹たる気持ちも、想像に難くは有りません。
チキチキさんの自宅分娩のお薦めのご意見に関してですが、我が国の50年前の妊産婦死亡数をご存知でしょうか?毎年3千から4千人の女性が妊娠に関係して亡くなっていたのです。もちろん、すべてがお産だけに関係したものでは有りませんが、それを割り引いても、数千人の方が亡くなっていた訳です。それが、20年ほど前から100を切り、此処数年は80人前後です。50年前の日本の人口は今より少なく、お産の数は今の2倍以上有ったのですから単純には比較できませんが、ほぼ100分の一位に減ったことになります。
自宅分娩が主流だった頃の産婦人科医の仕事は何だったかご存知でしょうか?50年前の開業産婦人科医の仕事は、首尾よくいかなかったお産の後始末だったのです。たとえば、夜中に患者さんの家まで呼ばれて、医師が見る光景は、逆子で肩までは出たが、首で引っかかってしまってどうしようもなく、赤ちゃんも母親も息絶え絶えとなっている、というようなものだったのです。そのような場合、やむを得ず、赤ちゃんをあきらめて母体を助けるという選択肢しか無かった時代です。具体的にどうしたかは、想像してください。
年80人の妊産婦死亡と言えば、自分の兄弟や親の兄弟の中にお産に関して亡くなった人のいる人はほとんど居ないということです。ですから、国民のほとんどは妊娠やお産で命を落とすなんて考えも付かないのでしょう。しかし、現実には確実に毎年、数十人の方は命を落としているのです。言い方を変えれば、現在の妊産婦死亡はどこの病院で、どんなに熟練した医師たちが何人も掛かっても助けられないものがほとんど、と考えられるのではないでしょうか。
一介の開業産婦人科医である私は、妊婦健診中にできるだけハイリスクの妊婦さんを総合病院に紹介し、いわゆる正常妊娠の方だけを扱っているのですが、それでも数パーセントは緊急の帝王切開になりますし、その何分の一かは救急病院に搬送となっています。
もちろん、今の時代、エコーも分娩監視装置もありますから、すべて自宅分娩にもどしても、50年前の妊産婦死亡に戻ることは無いでしょうが、そのような時代を経て現在があり、いまでも事前に、完全には正常分娩と異常分娩とを峻別できないし、お産というものは今でもある程度の危険は孕んだ営みであるということを、国民の皆さんも理解してほしいものです。
3回目の出産は、死産でしたが、胎児の異状に気づいていた産婦人科医がなぜ帝王切開しなかったのか、という感想を退院してから友人の産婦人科医から聞きました。当時の産科医の常識からは、私のような場合は訴訟される可能性があり、訴訟を恐れる産科医であれば帝王切開しただろう、とのこと。当時、私も夫も「自然が一番」と考えていたので、これも人知を超えた運命と、受け入れましたし、当時の産科医にも感謝しています。
「妊娠・出産には命の危険がある」という事実を、いかに不要な不安を与えずに患者に伝えるか、ということは大変難しい問題だと思います。楽観的な治療者や患者の方が、事態はよい方向に展開するものですしね。
今回の産科医の逮捕は、産科医希望者の現象に拍車をかけると思います。
いまもっとも負担に思うのは月に8,9回課せられる当直業務です。とくに帝王切開術の麻酔は、緊急度が高く危険な場合も多いので正直、緊張します。
しかし、先輩方のお話をきき、それでもずいぶん恵まれているのだと、思い直しています。
ご指摘のとおり、帝王切開の麻酔の説明をする際に、非常に難しいと感じます。最近は、合併症の話をより詳細に聞き返される患者さんが多いですが、むしろよい傾向ととらえるようにしています。