生物は自分の体を進化させることにより、様々な環境に適応して来た。
正確に言えば、突然変異などにより偶然獲得した形質が、たまたま他の個体よりも生存に有利であった場合に、自然淘汰の原理が及んで、その形質が子孫に伝えられる。その獲得された形質が彼らの生活環境に適している場合、さらにその形質が著しいものが多く残るようになり、やがては、はっきりと他のグループとは異なった、新たな種へと進化して行く。
求められる形質は環境によって異なるので、地球上に存在する様々な環境に適応して、様々な種が発達する。
だが逆に言うと、環境が似ていれば求められる形質も似た物となるため、全く別の進化の道筋を経て来たにもかかわらず、外見や生態が酷似している種が出現することがある。
有袋類は、他の哺乳類とは独自の進化を遂げたにもかかわらず、その進化の結果には、驚くほどの共通点がある。
このように、起源の異なる生物が似たような進化の過程を経て、同様の身体的な特徴を獲得することを、『収斂進化』と呼ぶ。
「どうだね?今年は。」
「一人、凄いのがいますよ。」
「ほう。」
「彼なんですが、下半身の力強さが、並じゃありません。」
「それは、楽しみだね。」
「ええ。ですが今、新弟子として採用して良いものかどうか、揉めてるんですよ。」
「体格は申し分なさそうだが?」
「ええ、健康診断の結果も良好です。」
「出身はどこなんだね?」
「オーストラリアです。」
「んー、オーストラリア出身の力士というのは、始めた聞いた気もするが、何か問題があるのかね?」
「いえ、それが問題なわけではありません。」
「と、言うと?」
「どうやら、『ヒト』ではないようなんです。」
「人間じゃない?そうは見えないが。言葉が喋れないのかね?」
「いえ、普通に英語を話します。カタコトですが、日本語も喋りますよ。」
「では、どうして人間ではない。と?」
「ほら、良く見て下さい。お腹に『袋』があるでしょう?」
「『袋』?んー、ここからでは良く分からんな。」
「どうやら、ヒト型に進化した『有袋類』のようなんです。」
「『ユウタイルイ』?」
「ええ。」
「カンガルーとかみたいな?」
「ええ。コアラもそうです。」
「始めて見たな。」
「えぇ。私も始めてです。というか、今まで聞いたことないですよ。そんな話。」
「彼は気付いているのかね?」
「どうやら、彼の住む地域は皆、同じ種族らしいんですが、高校に進学して街に来てからは、他の人と『ちょと違うな?』との自覚は、彼にもあるようです。」
「いずれにせよ、『有袋類』なんだろ?」
「ええ。どうやら、それは、間違いないようです。」
「ならば、悩む必要はないだろ。」
「それが、実は、『人間でなければならない。』という、条文が見当たらないんですよ。」
「いや、その前にさ、袋があるってことは『メス』なわけだろ?そもそも、『女』は土俵に上がれないだろ。」
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