Daily Bubble

映画や歌舞伎、音楽などのアブクを残すアクアの日記。のんびりモードで更新中。

コクーン歌舞伎「四谷怪談 北番」その一

2006-04-05 21:51:43 | kabuki
少し間が開いてしまいましたが、3月30日に拝見したコクーン歌舞伎の感想です。

開演前、シアターコクーンに流れていたのはちょっとクラシカルな雰囲気のポップス。歌うのはおそらく椎名林檎。全然とんがってない優しい甘い声が、「四谷怪談」に似つかわしくないなぁと思いながら席に着きました。
O列上手側という全体を見渡すことのできるお席。去年の「桜姫」では平場席を選んだのですが、後方の席にしたのはちょっと心が冷めていたせいでしょうねぇ。
2年前の納涼歌舞伎で「東海道四谷怪談」を一度観たのですが、その頃は歌舞伎を観るようになって日も浅かったワタクシ、当時は勘九郎さんだった勘三郎さんのお岩さんにすっかり引いてしまったんです。
ケレン味を出しすぎたせいか、ただ単に驚かされるだけのその場しのぎのコワサ(恐ろしさ、ではなくて)や髪梳きのシーンまでもが爆笑のお芝居に、驚かされたり笑わせられたりしたんですが、お岩さんについてはまるで残るところがなかった。
面白楽しくお芝居を拝見してハイお終い、という全く余韻の感じられないものだったんです。
そのイメージが強かったため、とても冷静に醒めた目で拝見しました。

さて、今回の「東海道四谷怪談 北番」。

私にとって嬉しい誤算だったのは、勘三郎さんのお岩さまがしっかりとした武家の女だったこと。納涼歌舞伎のときのようにだらだらと笑わせるようなことは無くて、シンプルで素敵なお岩さまでした。
どこかのインタビューで、「女形の役ではお岩さんがいちばん好き」とおっしゃっていた勘三郎さん。女であるくせに、お岩さんの良さというものがよく分からなかったんですが、それでも勘三郎さんがお岩さんというお役をとても大切に愛おしく思っていることは分かりました。
だって、すごく素敵なんですよお岩さん。
本質はもう、どこまでも武家の女で母なんですね。だから、伊右衛門と復縁するのも父の仇を討つため。そうじゃなかったら、きっと一人で生きていくんだろうと思わせる芯の強さが感じられます。

一方で、伊右衛門はもうべっとりと人間のいやらしさが張り付いた男ですね。いえ、橋之助さんはとてもいい男なんですが、すっきりと色気のある外見に反してどろどろに人間臭い。
すっごい非情な男かと思えば、少しはお岩さんを思いやる気持ちを見せつつも、やっぱり己がいちばん可愛い。自分のためなら武士の義理も親子の縁も関係ない、そのくせ変なところで小心でやっぱり色気を隠せない。
「四谷怪談」の怖さは、お岩さんよりもむしろ伊右衛門やお梅、喜兵衛が作っているんだなぁとしみじみと感じました。

さてさて、場を追ってもう少しだけ詳しく書いておこうと思います。

序幕
第一場 浅草観音額頭の場
真っ暗闇の中から現れたのは、ぐるぐると不安な気持ちを抱かされる背景画と大きな観音様(仁王様?)と駱駝。
セットは全幕をとおしてシンプルです。舞台両脇に6つの扉が並び(3つの扉が2階建てにならんでいる)、そこがどこでもドアみたいな構造になっていました。
この場では、大まかな登場人物の紹介がありました。
まずは塩冶家側。お土産物屋で働くお袖(お岩さんの妹。七之助さん)、薬売りの直助(元・塩冶の家中・奥田家の奉公人。勘三郎さん)、四谷左門(お岩さんの父。弥十郎さん)、小間物屋の与茂七(お袖の夫。扇雀さん)、乞食に身をやつした奥田庄三郎(亀蔵さん)。
そして高家側。高家の用人・伊藤喜兵衛(笹野高史さん)、喜兵衛の孫・お梅(新悟くん)。

第二場 按摩宅悦内の場
地獄宿で遭遇する直助、お袖、与茂七。扇雀さんの与茂七が素敵でしたね~。勘三郎さんの直助はすっかり振られてさんざんでしたが、この場での惨めな負けっぷりが次の場の与茂七殺害に繋がるんですね。
地獄女の二役っぷりが面白かった。

第三場 浅草観音裏地蔵前の場
与茂七と入れ替わった庄三郎を与茂七と思い込み、殺害する直助。また、左門にお岩との復縁を断られて殺害する伊右衛門。
ここでは、遠見の子役を使っての演出がありました。声は勘三郎さんと七之助さんがそれぞれ当てていたんですが、だんだん近づいてお岩さんは別の役者さんが演じていましたね。勘三郎さんは直助としても舞台に上がっているので、声の使い分けが絶妙(笑)。初めは、ちょっと気付きませんでしたよ。

二幕目
第一場 伊右衛門浪宅の場
男の子を産んで体調を崩し、床につくお岩さん。伊右衛門は傘張りの内職をしてるけど、お岩さんが疎ましく家庭は荒んだ雰囲気。
そこに登場するのが、小仏小平(扇雀さん)。後に、戸板返しでお岩さんと裏返しで登場する男で(今回は登場しない)お花の夫なんだけど、あんまり唐突に出てきたため関係性がよく分からなかった。「四谷怪談」は忠臣蔵という世界のお話で、不義理の代表格である伊右衛門がいる一方、義理を貫く与茂七、又之丞(小平の主人)を描く上での人物として小平がいるようですね。
伊藤家からのお見舞いのお礼に出かける伊右衛門を見送るお岩さんの甲斐甲斐しく世話する姿が、後の不幸をより際立たせていました。

第二場 伊藤喜兵衛宅の場
この場では、伊右衛門に恋するお梅(新悟くん)が笑わせてくれて、ちょっと息抜き。
でもね、やっぱり怖いんです。お梅は一途に伊右衛門が好きなんですよね。で、お梅の祖父・喜兵衛はただただお梅の恋を叶えてあげたいと思っているんです。そして、可愛い孫のためなら手段なんか選ばない。そうして、伊右衛門の気持ちがお岩さんから離れるように(命には支障のない)顔が醜くなる毒薬を渡したんですね。
そして伊右衛門。前の場ではお岩さんに当たりながらも、やっぱり未練はあるんです。だから、喜兵衛に孫を貰ってくれって言われても即答できない。でも、お梅に死ぬと言われ、大金を積まれ、高家への推挙を確約されて「さあ、さあ、さあ、さあ」と追い込まれると、ころっと承諾してしまう。
人間って、なんて脆くて怖いんだろう。からからと明るい舞台の上で繰り広げられるどろどろとした人間の欲望が、いやらしかった。

第三場 元の伊右衛門浪宅の場
さて、この場では橋之助さんの色悪ぶりが際立ちます。赤ん坊がうるさい、金を出せ、金が無いなら質草を出せとさんざんお岩さんをいたぶり、蚊帳までを力づくで奪っていきます。この場では蚊帳を取られまいと争う二人にくすくす笑いが起きていましたが、蚊柱が立つのが珍しくない江戸の街で蚊帳が無い生活というのは、考えられないほど悲惨なものだったようです。
そうして宅悦とお岩さんを不義の罪に陥れようとして立ち去ります。本当に本当に、ひどい男だ。
笹野さんの宅悦が良かったですねぇ。やっぱりとても人間臭いんです。お岩さんに手を出そうと試みるけれど、崩れた顔が怖い。一方で、伊右衛門の非道な振舞いにお岩さんを哀れんでいるの。でも怖い(笑)。
伊藤家に行こうと鉄漿を付けるお岩さんは、やっぱり怖い。もう顔は崩れていてボロボロで、髪はごっそりと抜けていくの。雨音みたいなシンプルな音楽は不思議な音色で不安感を煽る。とても怖くてひどく悲しい髪梳きでした。
その後の展開はちょっと雑に感じられた。
お岩さんが亡くなり、宅悦が去り、小平を殺した伊右衛門のところへ喜兵衛とお梅がやって来るけど、お岩さんの祟りで錯乱した伊右衛門は二人を殺してしまう。あっさりと。


なんとなく長くなってしまったので、後半はまた後日。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
コクーン (paru)
2006-04-07 14:58:14
両方見てきましたよ。

いろいろなこと(!)があり、感想はまた後ほど書くつもりですが(笑)

南の方がやっぱり面白かったと思います。

返信する
南番! (アクア)
2006-04-07 22:10:21
こんばんは、paruさん。

南番のチケットも押さえるんだった~、と嘆いています。。

感想を書かれましたら、TBくださいね!
返信する

コメントを投稿