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原初美術の誕生5 : 洞窟美術、最後の輝き

2012年11月30日 | 連載完 原初美術の誕生


< 図1、Trios Freres 洞窟、シャーマン >

今回は、氷河期ヨーロッパの最後を飾る素晴らしい美術品を見ます。

これらはやがて忽然と姿を消す運命にありました。



氷河期最後を華々しく飾るのはスペインのアルタミラ洞窟(約14500年前)です。

北側に5kmに海があり、標高160mのなだらかなカルスト丘陵にある。



< 図2,大天井 >



< 図3,バイソン >

壁画が集中しているのは大天井(図2、入口入って直ぐ左手)で、25頭の動物絵が赤・黒・褐色で描かれている。とくにバイソンが多く、鹿、猪、馬などのほか、呪術師らしい仮装人物の絵もある。

バイソン(図3)は、多色の色使いやぼかし、陰影処理による明暗の効果によって、立体感と写実性が増し、旧石器時代絵画の最高水準を示す。

この大天井は一人の作者がすべて描いたと推定され、洞窟が共同で管理されていたことを伺わせる。

真っ暗闇の中、揺らぐ一つの灯明で照らし出され、数m四方に浮かび上がるバイソンは、まるで生きているように見えただろう。



< 図4,アルタミラ洞窟図、左下が入口、全長270m、スペイン >

洞窟に人々が最初にやって来たのは約19000年前。

人々は洞窟内部(図4)には住まず、洞窟入口内に穴を掘りゴミ捨て場としていた。

捨てられていた骨から、洞窟周辺は樹木が繁り、多くの狩猟動物がいたことがわかる。描かれている動物は、狩猟対象と一致する。

人々は長い期間を通じて何度も繰り返しそれぞれの洞窟を集合場所として使ったようである。

色々な小集団がフランスとスペインの間の広大な領域を行き来していた。




< 図5、トナカイと魚 >



< 図6、2頭のバイソン、右側の全長61cm >

他の特徴ある美術を古いものから見てみる。

図5は、フランス、ロルテ洞窟出土、17000年前の鹿角製指揮棒の展開図である。

右端に後ろを振り返るトナカイ、その前に2頭の脚が見える。

しかも、その軽やかな足運びの下から、4尾の鮭が下から鹿を突いているように見える。

これは鮭が遡上している河をトナカイの群れが渡る光景を描いているのだろう。

彼らが最も期待し興奮する瞬間を捉えた、躍動感ある図柄をシンプルな線刻で表現している。

図6は、同じフランス、チュック・ドードゥベール洞窟、15000年前の床面の粘土製浮き彫りである。

今まさに交尾寸前の雌雄一対のバイソンを表現している。

図1は、上記洞窟と連なっているトロワ・フレール洞窟にある同時代の絵画の一部を模写したものです。それは鹿の姿を真似たシャーマか擬人化された人物に見える。



< 図7、 Addaura洞窟の線刻画 >

図7は、イタリア、シチリア島のアッダウラ洞窟の線刻画(約10000年前)です。

中央に横たわる二人の周囲を8人が丸い輪になって踊る様子が描かれている。

異様なのは、踊り手の頭には嘴のついた仮面をかぶっており、真ん中の二人は首と足を綱で縛られ、男根が勃起していることです。

これは生け贄のシーンを連想させますが、少なくとも宗教的な儀式をイメージしているようです。

この頃、既に擬人化や仮面を被った儀式が始まっていたのだろうか。


次回は、洞窟美術の全体像を語ります。





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