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AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

中医学にみる月経異常の病理機序と病証

2010-08-09 | 古典概念の現代的解釈

A.総論
1.女子胞(胞宮)とは
女子胞は、奇恒の腑の一つであり、子宮を中心とした女性生殖器全般を指している。
女子胞の役割は、胎児を育てることであり、そのために「胞宮には、精血(肝血や腎精)が流入する」と考えていた。

①肝血の流入
月経血は、血そのものである。この血は普段は、肝にストックされていて、月経時に放出される。一方、妊娠すると月経が停止することから、胎児を育てる栄養として必要だと考察したらしい。

②腎精の流入
胞宮に「腎精が流入する」とは、腎精には先天の精(要するに命の炎)があるので、この火を胞宮に送ることで、胎児に新しい生命を与えると捉えることができる。

2.胞絡
  胞宮に精血が流入するための通路を胞絡とよぶ。代表的な胞絡には、任脈や衝脈がある。任脈は妊娠と関係し、衝脈は月経と関係が深い。女子胞からは任脈・衝脈のほかに、督脈が出て、会陰に下ってから体表を上行する。このことを一源三岐とよぶ。

3.月経の機序
    子宮の中の血は、月に1回入れ替わる。この時の古い血の排泄が月経である。腎気が満ち 任脈や衝脈などの胞絡が
充実すると月経を迎え、胞絡が虚すると月経は終了する。なお受胎すれば月経停止し、この二脈は胎児に栄養を与える。

                                      



B.月経異常の分類
    中医学では、まず月経周期異常に注目し、次に経月量の異常・経血の色と質から細分化する。
  ※現代医学の分類
 月経周期:26日~38日が正常。28~30日が多い。稀発月経=25日以内、頻発月経=38日以上
  
     ①経早≒頻発過多月経(頻発+過長+月経量過多)                              
            月経随伴症状を伴うことが多い。大部分は子宮筋腫
      子宮は月経血を生ずる部であり、機能障害時には月経をプラス方向に誘導する。
            頻発過多月経と月経痛は重複しやすい。この場合、子宮筋腫・子宮癌・子宮内膜症を              疑う。
     ②経遅≒稀発過少月経(稀発+過短+月経量過少)
           自覚的な苦痛はあまり感じない卵巣機能の異常が多い。
       卵巣は卵胞を産生する部なので、卵巣機能障害では月経をマイナス方向に誘導する。
      ③続発性無月経:中枢性は、ストレスや神経性食思不振などによる脳-視床下部の障害。
       末梢性は、卵巣機能の低下による。
      ④経乱≒月経周期異常 →視床下部体内時計の異常。
                                



C.肝の病理変化、とくに肝鬱気滞について
   肝の重要な働きの一つに疏泄作用がある。疏泄作用とは、気血水を滞りなく、のびのびと回す力をいう。これは精神がのびのびして、初めてなし得ることなので、筆者は肝の作用とは健全な大脳新皮質作用の結果だと解釈している。換言すれば、健全な大脳皮質作用が肝の疏泄作用を生むと考える。
   その反対に肝のもつ疏泄機能低下の原因は、ストレス(抑鬱、怒り)であり、中医学では 肝鬱気滞(=肝気鬱滞)と称する。気の流れが悪くなって滞り、引き続いて血流の勢いも低下するので、胸悶、胸脇苦満、乳房脹痛、梅核気、月経異常(経早・経遅・経乱のどれもあり得る)などが出現する。
   肝鬱気滞が長期化、すなわち気が長期間鬱積すると、熱をもつようになる(肝欝化火)。火は舞い上がり、頭顔面の熱象(頭痛、目の充血、怒りっぽい)を呈するようになる。この状態を肝火上炎とよぶ。

1.肝鬱気滞 →ストレスによる視床下部体内時計の混乱
 1)病態: 抑鬱、激怒→ 肝の疏泄機能の失調 →肝鬱気滞(経早・経遅・経乱)
                                                    ↓
                                                 長期化すると肝火上炎(経早)
  2)症状:経早・経遅・経乱のどれもあり得る
            血塊が出る。
         ※血塊:子宮内のオケツが排泄された状態。肝の疏泄作用低下し、血流の勢いが低下して
           オケツ状態になる。これを気滞血オとよぶ。 寒があっても血が固まるので、血塊が
           出る。

D.経早
    月経周期が短い(27日より7日以上早まる)ものを経早とよぶ。
   熱(血熱を逃がそうと する)と気虚(気の固摂作用不足で血を留めておけない)が2大原因。

1.実熱 →熱のため血管拡張し、胞宮に血が溜まるのが速い
 1)病態:陽盛性質、辛物の偏食 →精血の熱 →血熱が胞宮に波及 →鬱熱になるのを避けるた
       め、月経が早まる。
 2)症状:熱の力で外に出る出血は鮮血である。心煩、口渇、便秘
 3)舌脈:紅舌、洪脈(=力強い数脈)

2.☆肝鬱化火 →ストレスの長期化により、熱が溜まる。熱のために血管拡張し、胞宮に血が溜まる
            のも速い
 1)病態:ストレス→肝鬱気滞(早経・経遅・経乱ともにありえる)→長期化して肝鬱化火→胞宮に熱 
      が波及 →熱を逃がすため経早 

 2)症状:経色は紫紅、経質は粘く血塊を伴う。足厥陰肝経に気滞(腫痛、心煩)
      乳房・胸脇痛・小腹部の張痛、心煩、怒りっぽい

3.☆気虚(脾気虚) →現代でいう出血傾向
 1)病態:飲食不節、労倦 →脾を損傷 →脾不統血による早経
    ※脾不統血:気の固摂作用低下による出血のことで、気不摂血ともいわれる。気虚の根本は脾
            気虚なので、脾不統血と呼ぶようになった。熱とは無関係。皮下出血、鼻出血、血
            便・血尿、月経過多。現代でいう出血傾向と同じ概念。
 2)症状:熱症状なし。経血量は多く(←脾不統血のため血がダラダラ出る)、
      経色は淡、経質は希薄

E.経遅
  月経周期が長い(28日より7~10日以上遅れる)もの。血流不足、血量不足が主原因。

1.☆血寒  →寒による血流の悪化
 1)病態:寒邪、生もの、冷たい食物 →血管縮小→胞宮に血が溜まるのが遅い
 2)症状:遅経。経血量は少なく、経色は暗紅、経質は正常または血塊を伴う。
        小腹部の絞痛(←?血証)、拒按喜温(←冷えて実証)や四肢の痛み

2.☆血虚  →貧血
 1)病態:病後、慢性出血、脾胃虚弱 →血の生成不足 →衝脈・任脈の血が不足 
            →胞宮に一定量の血が溜まるのに時間がかかる。
 2)症状:遅経、経血量少なく、経色淡、経質希薄、めまい、不眠、心悸、顔色不良

F.経乱 →年齢的に月経が切れる直前
1.☆腎虚  (月経が切れかかっている。閉経直前)
 1)病態:腎虚 →衝脈・任脈の空虚 →陰血に対する調節機能失調 →経乱
 2)症状:乱経、経血量少なく、経色淡、経質希薄、耳鳴、めまい、腰のだるさ

G.痛経とは
  月経痛のことを、中医学では痛経とよぶ。月経痛は、邪が胞宮(子宮)で経血の下流を阻滞し、「通ざれば則ち痛む」という機序で発生することが多く、痛みは激しいことが多い。肝鬱気滞、肝鬱化火、血寒オケツなどでみられる。
 現代医学的には、子宮の問題(子宮内の血がスムーズに下流しない)であることが多い。

 


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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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初めまして。 (acupun)
2010-11-01 17:42:15
 先生の素晴らしいブログ、私メの下記勉強帖に記録(リンク)させて頂きたく、
ご相談申し上げます。
 長年薀蓄を傾けて来られたもの、一朝一夕には学び取れるものでは在りませんが、
鍼灸の真価を高める一翼を担えればと念願しています。
 ご指導ご鞭撻のほど、よろしく宜しくお願い申し上げます。

URL: http://blogs.yahoo.co.jp/ms_acupun/261870.html

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