月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

嵯峨野への小旅。シメは、うなぎ廣川で。

2014-09-11 18:06:59 | 京都ごはん


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うなぎ「廣川」は想像どおりの良い店だった。
天保年間(江戸の後期)、埼玉県熊谷市で創業したうなぎ屋「廣川」ゆかりの店という。

数寄屋造りの1軒家。
元は京都市内にあった評判の店が、嵐山に移転。
江戸前のうなぎを昇華させて、紀州備長炭をつかった技法と秘伝のタレで、
注文をうけてから職人が1尾1尾、じっくりと焼き上げるのだという。

この日、嵐山の夏みどりを満喫するために、
嵯峨野路を大覚寺から、祇王寺、あだし野あたりまで歩きまわってお腹はぺこぺこ。日焼けしたかな、と心配するほどにカンカン照りで、心地よい疲れを感じながら、
満席の待合席で座ったり、近場のお土産物屋をひやかしたりして、待つこと2時間(名前を名乗れば、席をはずしてOK)。



本来ならこれほどは待たないのだが、
次々に店に吸い込まれていく人達を横目でみるや、
観光客はほとんどいなくて常連風の京都人ばかりのよう。ベンツで乗り付ける人もちらほら。
そして家族連れか、大人な女性を連れた2人連れ…。
これは相当に旨いな、というアンテナがびびっと来たのであった。

5時~店がオープンして、すでにこの満席ぶりである。
6時になるまでに「当日の予約はもう受け付けられません」と次々来る客に向かって、断りを入れているのをみて、本当に商売する気あるの?
と思ったりもしたが、8時頃になってようやく客人も数えるほどになった。


ようやく、私達の名前が呼ばれた。
落ち着いた木の香り漂う店内。坪庭が、みわたせる。



ほっと席について、まずは生ビールが喉をとおった。
「あーー、美味しい」。
思わず声が出た。
グラスをしっかりと冷やした格別の泡味だ。

私達は「うな重定食」をオーダーした。
ほかの客人は定食というより単品志向の方が多いようで
柳川(1500円)や、きも焼きを単品で食べてから、
うな重(2900円)、きも入り吸い物(400円)、へと進んでいるようだ。

前の男性。ふらりと1人で訪れては、席にすわるや竹の筒にいれた純米酒を飲み干して、
次は柳川を美味しそうに食べているのを、
ビールを飲みながらしばし観察。次に、うな重…。(凄いな~)。
時折ゆれる肩。くっくっと笑っているかのように見える。
背後のオーラをみるだけでその人の旨そうな感動が伝わってくるようである。



さあ、私達のお料理がきた。
まずは、うざく。






キュウリを加えて酢でしめた、細切りのうなぎ。
口にいれると、サッパリとしているがお酢の具合がほどよい。

さてうなぎ。しっかりと肉厚の身で、歯をたてるとホロッと崩れるが、
白身魚特有の味を、
舌の裏でころがしながら、よく味わう。

つづいて
鯉の洗いを、自家製タレで。こちらは、まあ普通。(臭みはなく上品だが)。


そして、いよいよ、うな重の登場だ。



待っている間、サライや婦人画報をみながら
本日のうなぎ静岡産○○と宮崎産○○と、うなぎの銘柄が黒板で書かれていたのを何度も読んでいただけに、よけいに期待感がつのる。

たっぷり厚みのある身は、口にいれた途端に淡泊な味ながら
ほどよい自家製タレの香ばしさが香った。ただ、うなぎの味を引き出し、脇役に徹するタレの味だ。
身は内側は柔らかいが、余計な脂は一切ない。
上品でいて端正な味。
美味しい! なにこれ!と思わず目を見開く。

疲れていたし、お腹も減っていて、体調的にうなぎを受け入れる準備万全で臨んだこともおおいに関係していたはずだが、
それにつけても、柔らかいのに身がしっかり。

これぞ、本物のうなぎ!という味だった。

川魚の臭みが微塵もないのは、
自家製の井戸水で、何日か泥を吐かせている、からだろう。
また脂は、何度も何度も丁寧に焼きながら湯をかけて、
洗い落としながら、タレをくぐらせて焼いているはずだ。

今回は取材ではないので詳細はわからないが、
それにしても、嵐山でこんなに格別のうなぎに出会えるとは…。ここでも京都の粋にふれた。




帰り際にはもうすっかり日は落ちて9時頃だった。

真っ暗な墨のような夜に、山の稜線が影を落としている。寺院前と何度か過ぎると、昼間の雑踏はどこへやら。
静かで、闇に吸い込まれていくように、ただ寡黙でいて、風格をたたえている。

ほてった肌に風が冷たい。駅前の草の陰には
蝉ではなく、鈴虫がたくさん、たくさん鳴いていた。

川の流るる音も、来る時と同じように、どーどーとしていて勇ましく。
それもまた、心地よいのだった。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
うなぎ!!! (しろくま)
2014-09-11 22:32:27
2時間待った甲斐がありましたね!!!
おなかも空いてさらに美味しそう!
うなぎはタレも命ですね…
まわりの景色も“やくみ”のうちでしょうね~

早い! (アンデル)
2014-09-11 22:51:30
しろくまさん、あのうなぎを食べてから、
ほかの店でうなぎを食べようという気にならないわ。
しばらく、うなぎはこの時の記憶で十分!
また季節が巡ったら食べたくなるかも知れないけれど。うなぎ好きにはたまらない1軒でした。
夜の嵐山はいいよ!
おそらく朝の嵐山はもっといいと思う。
Good morning! (しろくま)
2014-09-12 05:26:51
嵐山、遠足と両親と共に十三参りに行った思い出があります…
父が小さな弥勒菩薩のお土産品買ってたナ…

虫の音とともに…静けさの中の嵐山…
朝も一度はいってみたいな~!
澄み切った時間と鰻を味わいに(笑)
今日もいい天気 (アンデル)
2014-09-15 12:12:14
お父様との時間を思いだされたのですね。
その弥勒菩薩、まだ今も残っているの?お父様の遺影のそばに置いて上げたらどうかな。

3連休はいいお天気ですね~。今日はお仕事ですが、またまたどこかへ行きたい病が発生しそうです。
京都は閑散期がいいな、特に嵐山は。

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