映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「エベレスト 神々の山嶺」

2016年03月27日 16時19分25秒 | 映画寸評

「エベレスト 神々の山嶺」(2016年 日本)
監督 平山秀幸

原作での感動は呼び起さない
(以下、ネタばらし有り)

1990年代のエベレストに挑む男を描いた、夢枕獏原作の山岳小説を映画化したもの。山岳カメラマンの深町誠(岡田准一)は、1993年にネパールのカトマンドゥで中古カメラを目にするが、それが1924年にエベレスト初登頂を目指す過程で行方不明となったイギリスのマロリーのものではないかと思い、初登頂成否の謎を解く期待を持つ。それがきっかけで、かつて天才クライマーといわれながら消息を絶っている羽生丈二(阿部寛)と出会い、彼の過去と現在を追求することにとらわれる。かつての羽生の恋人・岸涼子(尾野真千子)も巻き込んで、羽生の住まいを突き止めるが、その結果、羽生の目指しているのがエベレスト南西壁の冬季単独無酸素初登頂であることを知り、それを記録しようとのめり込む。

撮影も演技もそれなりに良く出来ているのだが、見終わっても10年以上前に原作を読んだ時のような感動は起こらない。不思議に思い改めて原作に目を通してみたが、結局分かったのは、文庫本で1000ページ以上の量の原作に対する凝縮の仕方に問題があるということだ。当然のことながら、映画は大量のエピソード類を省いているのだが、それでももっと枝葉を省いて、羽生が挑む厳しく困難な登攀に焦点を当てるべきだったろう。現在においては、エベレスト登頂だけで言えば毎年何百人の人が達成しているのであり、エベレスト=最高レベルの登山、という印象は無くなっているので、当時の登山状況とルートの説明、登山のディテールをもっと説明しなければ、羽生の行為の重みは伝わらない。特に「無酸素」の過酷さの説明が足りない。原作では、羽生が登攀2日目に6900メートル地点まで行けるのにあえて2泊目を6500メートル地点にと留めたり、深町が事故の後、撮影を放棄して逃げ出すかのように下山していく理由が説得力を持っている。装備や氷の状態なども含めて、ナレーションを入れてでも掘り下げが欲しかったと思われる。エベレストの撮影も、巷で言われているように良く出来ているが、この点に関していえば、昨年の「エベレスト 3D」には遠景、近景ともにその迫力は遠く及ばない。本作は羽生の手記に現われるような心理ドラマにより重心を置いたものだから、単純な比較は無意味だが、そのためにもやはり登攀のディテールは省きすぎである。

もう一つ大きな難点は、映画のクライマックスを無理してラストに持ってきたことである。原作のクライマックスは、羽生の姿がエベレスト頂き付近に消えるまでであり、その後すぐに羽生の手記が載ってまとめられている。その後、深町がエベレスト登頂に挑むまでは長めのエピローグなのであり、長めといってもそこまでの膨大な内容と分量に対してのものなので、違和感はない。映画はその部分に時間を割きすぎである。それでありながら肝心の深町の帰国後の羽生に関するルポ発表の説明がないし、トレーニングの様子もなく、唐突なエベレスト挑戦となり、トランシーバーでの制止の声を無視して死へと突き進み、偶然羽生の遺体を発見して我に返るという、全て心の動きの問題に解消されたかのようで、ますますリアル感がなくなった。音楽であおり立てられても冗長感が増して、作品全体を傷つけてしまっている。羽生の手記の重みも伝わりにくくなったはずだ。

確かに、阿部、岡田は熱演しているし、撮影の努力も伝わるが残念な出来である。やはり原作小説をお勧めしたい。

総合評価 ③  [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]


映画寸評「さらば あぶない刑事」

2016年03月01日 08時43分24秒 | 映画寸評

「さらば あぶない刑事」(2015年 日)
監督 村川透

つじつまの合わぬシーンが多すぎる

(以下、ネタばらし有り)

横浜港署の刑事、タカこと鷹山俊樹(舘ひろし)とユージこと大下勇二(柴田恭兵)の2人が、定年退職を目前にして外国マフィアを相手に無茶な捜査を繰り広げる話。日本のヤクザ幹部を追って、2人だけでブラックマーケットを襲撃し激しい銃撃戦を繰り広げる冒頭のシーンから、荒唐無稽感は付きまとうが、そういう設定の映画なので特に異を唱えることはないとしても、その後の展開でつじつまの合わないシーンが多すぎる。

中国、ロシア、中南米のマフィアが入り乱れる中でキョウイチ・ガルシア(吉川晃司)率いる中南米の犯罪組織BOBが他を圧倒するようになる。その過程でガルシアが中国マフィアと「話し合い」をするために単身で相手が集まった船に赴くが、話はあっさり決裂して、自分を殺そうとする相手に2丁拳銃で逆襲してあっという間に皆殺しにしてしまう。それは良いのだがその拳銃はどこに有ったものなのか。乗船する前に相手側のボデーチェックを受けているはずなのだが。おそらく初めの脚本には無かったボデーチェックシーンを後で挿入したのではないかと思われるが、余りにもお粗末だ。また、終盤の銃撃シーンでは、後ろから抱きかかえた人質に銃を突き付けてユージと対峙するマフィアの幹部カトウに対し、ユージは即座に発砲しカトウを下階に転落させる。そのシーン自体は鮮やかで良いのだが、その後カトウは無傷でユージに向かってくるのは、どういうつじつまなのか。カトウが銃声に驚いて転落したわけでもあるまいし。また、最大のでたらめは、当然殺されたと誰もが思っている2人が、ラストでニュージーランドにて探偵事務所を開きピンピンしていることである。どこから集まったかよく分からないが武装した大集団の敵が押し寄せる中で、追い詰められた2人が発砲しつつ飛び出して来るシーンでストップがかかり、「明日に向かって撃て」のもじりで終わりかと思っていのに。やや尻切れトンボだが、そこで終わればまあそれでも良いだろうと思うところに訳の判らない蛇足が続いて興ざめである。

「ダンディー鷹山」と「セクシー大下」と称する2人のキザで軽妙なやり取りはそれなりに楽しませてくれるし、舘と柴田が歳を感じさせずうまく役にはまっているのだが、結局これのみの映画と言えよう。それだけに、タカの恋人夏海(菜々緒)が絡むシーンは浮いており、特に終盤で夏海の死を嘆き悲しむタカは変にシリアスなシーンをとってつけたという感じがいっぱいである。昔は2人が指導しこき使った後輩の町田(仲村トオル)が、今は課長となっており、2人を持て余しつつ絡むシーンは良いとしても、もう1人のレギュラーである婦人警官の薫(浅野温子)はワーワー騒ぐばかりで、どう見ても単なる馬鹿女にしか見えない。村川監督は随分久しぶりの映画作品で、まだやっていたのかと驚いたが、全く期待外れであった。
総合評価 ②  [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]