漱石の妻鳥越 碧講談社このアイテムの詳細を見る |
RURIKOも女の一生なら漱石の妻も女の一生。
時代が違うとはいえ運命に翻弄されて立ち位置が決まる女である共通項がある。
人が集う家という設定もどこか似ている。
漱石を読んだのはむかしむかしの高校時代で「坊ちゃん」「三四郎」くらいしか知らない。
読む端から忘れるから映画によくなる坊ちゃん以外は記憶が危ない。
ちょっと前まで1000円札でおなじみの漱石さん。
帝大の先生だった明治の文豪、偉い人だったのね程度の認識だった。
官費での英国留学と当時ではものすごいエリートの家計のやりくり。
明治の中流家庭の描写も興味深かった。
でも何よりびっくりしたのは妻から見た家庭内のお札になる偉い漱石のまったく違う一面。
英国留学から帰って発症したらしい幻聴、幻覚を伴う精神病。
一旦、スイッチが入るとすさまじい家庭内暴力。
とたんに顔が赤黒くなって…
この描写が私には当たらないが物に当たる現実の息子とオーバラップしてものすごくよく分かる。
おそらく息子も家でだけ私にだけ見せるやりきれない憤怒のはけ口なんだと思う。
しかも漱石は吐血を繰り返す胃潰瘍持ち。
さらに2男5女の子だくさん。
妻の苦労はいかばかりかと思うが、世の風評は悪妻ということになっている。
ふ~ん、へ~え、実際はそうだったんだと、ミーハー感覚が満たされる。
夫婦ってなんだろう?
男と女としての性差からくる違いはもとより、
考え方生き方も添うてみて初めて違いが分かり
どうしても相容れない部分をお互い感じつつも
かすがいの子を育ててゆく共通の使命というか、しがらみが簡単に別れがたく
うかうか年月を重ねてと…
えらそうなことは言えない。
21年目を迎える前に私の夫は他界した。
読み終えて
夫のあそここもここも嫌だったと、
いつもは思いださないものすごく我慢ならない出来事を思い出してしまった。
文豪と比べるべくもない凡庸な人生を終えた亡夫を
最悪な夫だったけど
また他の人とはもう暮らす気にもならない最良の夫でもあったのかなとも思う。
偉人の中に精神病を見つけるホッとする。
融通の利かない性格などついアスペチックな部分に目が止まる。
こういう人だから後々に読み継がれる作品が生み出されたんだと
異端の息子を持つ身が安心材料を見つけ出す。
抗精神薬もなかったろう漱石の時代に妻は
夫の取り巻きから自分が飲むと言って睡眠薬を分けてもらって、
こっそり胃の薬と一緒に飲ませてしまうシーンがあった。
「殺すつもりだっだのか!」と悪妻の名の上塗りとなってしまったけれど、
子供にまで及ぶ暴力のいつスイッチがが入るか分からない緊迫した日々から逃れる方法が他にあったろうか?
息子はここしばらく帰って来ない。
睡眠薬以外の薬を飲んでいない。
薬は家にある。
よほどこの土日に持っていこうかとも思ったけど止めた。
苦しかったら帰ってくるはず。
狭いアパートで荒れ狂うと隣室から苦情がくることは学生時代に経験済み。
上手くいっていると思おう。
どんな事態が起こっても、一度は落ち込んでも、
必ず上手くいくと最終的にはあっけらかんと思いきる妻夏子の性格に似たものが私にもある。
と、言うことは組み合わせによっては私も悪妻だったのかな?
晩年の漱石が読みたくなった。
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