神はそれでも意地悪に僕らの魂をいつかは取り上げるのだろう

クズと思われても仕方がない赤裸々な日記。

虚無への供物

2012年11月30日 10時25分05秒 | 日記
三年くらい前だったと思う。
いつものようにM市で知り合った女の子とホテルに入った。

彼女はすらりと背が高く、長い手足と細い身体をこざっぱりとした衣服で包み、栗色の髪の毛を揺らしてけらけらとよく笑った。

彼女はソファに座ってマルボロを二本吸った後、「先にシャワー浴びてくるからAVでも観て待ってて」と言って笑った。

彼女が浴室に消え、シャワーの音が聞こえてきても、もちろん俺はAVなど観なかった。ソファに座り、両手を合わせて俯いていた。灰皿の中の吸い殻。飲みかけの缶ビール。彼女の着ていたパーカーからは香水の甘い匂いがした。

数分後、彼女は申し訳程度に小さなバスタオルを身体に巻き、「先に出たよ!」と笑った。
俺が浴室に入ると、洗面台の下に彼女の真っ赤なパンプスが置き去りにされていて、思わず口元が緩んだ。

彼女との行為はとても楽しかった。親密過ぎず、ドライ過ぎず、絶妙なバランスで我々は行為を終えた。

俺が果てて彼女の上に倒れ込むと、彼女は微笑み、俺の肩にキスをし、まるで恋人にそうするように、その細い両手で俺の身体をきつく抱きしめた。

我々はしばらく、ベッドの中で話をした。
彼女は「二十八歳のバツイチ」だと言い、夫だった男と別れた理由について、「セックスレス」だと笑って言い切った。「多分あたし、エッチが好きなんだよね、意識したことなかったけど。あたしは週に三回くらいしたいんだけど、旦那は月に三回で十分、みたいなね。そういうのがずっと続いて、いざ子作りをしようって段階になったら、今度はあたしが彼とはもうエッチしたくなくなっちゃって、そんなこんなで別れちゃった。難しいよねぇ、結婚て」。
「どうして、セックス出来なくなっちゃったんですか?」
「わかんない。何か……生理的に無理になっちゃって。そしたら向こうが平然と言うのよ、出来ないなら仕方ないよね、体外受精でもする?とか。ちょっとずつエッチ出来るように、ていう歩み寄りも無いんだよ?で自分は風俗行ってヌイてもらってたの。ふざけんなって感じで離婚しちゃった」

ふいに彼女は笑うのを止め、口をつぐんだ。何かを思い出していたのかもしれない。数秒後、彼女は再び笑みを顔に浮かべ、「話は変わるけど、」と言った。「君、女の子からアレが長いって言われない?」


帰りの電車の中。
彼女がこれから先、どのような人生を歩むのか考えてみたけれど、すぐに止めた。仮に俺が彼女には明るく生きてほしいなどと思ったとしても、我々はもう他人に過ぎないのだ。大きなお世話に違いない。

いつも、そういう、何かしらの虚無感に襲われる。それを拭い去るために女を抱いても、結局、虚無感は酷くなる一方だ。

そんなことを、ずっと繰り返している。

優しい笑みで彼女はそう言った

2012年11月07日 09時03分33秒 | 日記
M市で彼女とホテルに入ったのは、確か三年前のことだったと思う。


行為が終わると、彼女はサイドテーブルをベッドに引き寄せ、煙草に火を点けた。
細い煙草。煙を吐き出すと、栗色の長い髪の毛が揺れる。
俺はベッドの上で彼女の背中を眺めながら、まるで映画のワンシーンのようだな、と思う。

行為の前、彼女は「二十三歳の学生」だと名乗った。学業の傍ら、月に数回だけホテルに入る。

「毎回毎回凄く緊張するんですけどね」と彼女は苦笑した。

行為が始まって、俺が彼女の髪の毛に触れると、彼女は笑って、「これ、エクステです」と言った。

彼女は煙草をガラスの灰皿に押し付け、ため息をついた。まるで身体の中の邪気を払うように。或いは、自分の行いを後悔しているかのように。
俺は手を伸ばし、彼女の長い髪の毛に触れる。
「エクステ」と口に出すと、彼女は振り返り、「けど、これ肌に合わないみたいで背中がかぶれちゃったんですよ」と言って細い眉を下げた。
髪の毛をかきわけて背中を見ると、肩甲骨の少し下の辺りが二カ所、確かに赤く腫れてしまっている。
「ヒリヒリするし格好悪いし、早くエクステやめなきゃ」と彼女は言う。
けれど、俺は息を呑んでいて、彼女の言葉が耳に入らない。
彼女の背中。
それはまるで、天使の羽根が生えているようだった。
赤い翼。
俺は思わず、彼女のその羽根にキスをした。
彼女は「くすぐったい」と笑った。

ホテルを出て二人で駅まで歩きながら、俺がラルクの「賽は投げられた」を口ずさむと、彼女は「その頃のラルク、好きですよ」と言った。
「ドライブには海が素敵ねって、私もそう思います」。
俺は、好きな男の助手席で彼女がどんな風に笑うのか想像してみたけれど、靄がかかって頭に何も浮かんで来なかった。


帰り道。一人で電車に揺られながら、いつかまた、彼女の羽根にキスがしたい、と思った。