三年くらい前だったと思う。
いつものようにM市で知り合った女の子とホテルに入った。
彼女はすらりと背が高く、長い手足と細い身体をこざっぱりとした衣服で包み、栗色の髪の毛を揺らしてけらけらとよく笑った。
彼女はソファに座ってマルボロを二本吸った後、「先にシャワー浴びてくるからAVでも観て待ってて」と言って笑った。
彼女が浴室に消え、シャワーの音が聞こえてきても、もちろん俺はAVなど観なかった。ソファに座り、両手を合わせて俯いていた。灰皿の中の吸い殻。飲みかけの缶ビール。彼女の着ていたパーカーからは香水の甘い匂いがした。
数分後、彼女は申し訳程度に小さなバスタオルを身体に巻き、「先に出たよ!」と笑った。
俺が浴室に入ると、洗面台の下に彼女の真っ赤なパンプスが置き去りにされていて、思わず口元が緩んだ。
彼女との行為はとても楽しかった。親密過ぎず、ドライ過ぎず、絶妙なバランスで我々は行為を終えた。
俺が果てて彼女の上に倒れ込むと、彼女は微笑み、俺の肩にキスをし、まるで恋人にそうするように、その細い両手で俺の身体をきつく抱きしめた。
我々はしばらく、ベッドの中で話をした。
彼女は「二十八歳のバツイチ」だと言い、夫だった男と別れた理由について、「セックスレス」だと笑って言い切った。「多分あたし、エッチが好きなんだよね、意識したことなかったけど。あたしは週に三回くらいしたいんだけど、旦那は月に三回で十分、みたいなね。そういうのがずっと続いて、いざ子作りをしようって段階になったら、今度はあたしが彼とはもうエッチしたくなくなっちゃって、そんなこんなで別れちゃった。難しいよねぇ、結婚て」。
「どうして、セックス出来なくなっちゃったんですか?」
「わかんない。何か……生理的に無理になっちゃって。そしたら向こうが平然と言うのよ、出来ないなら仕方ないよね、体外受精でもする?とか。ちょっとずつエッチ出来るように、ていう歩み寄りも無いんだよ?で自分は風俗行ってヌイてもらってたの。ふざけんなって感じで離婚しちゃった」
ふいに彼女は笑うのを止め、口をつぐんだ。何かを思い出していたのかもしれない。数秒後、彼女は再び笑みを顔に浮かべ、「話は変わるけど、」と言った。「君、女の子からアレが長いって言われない?」
帰りの電車の中。
彼女がこれから先、どのような人生を歩むのか考えてみたけれど、すぐに止めた。仮に俺が彼女には明るく生きてほしいなどと思ったとしても、我々はもう他人に過ぎないのだ。大きなお世話に違いない。
いつも、そういう、何かしらの虚無感に襲われる。それを拭い去るために女を抱いても、結局、虚無感は酷くなる一方だ。
そんなことを、ずっと繰り返している。
いつものようにM市で知り合った女の子とホテルに入った。
彼女はすらりと背が高く、長い手足と細い身体をこざっぱりとした衣服で包み、栗色の髪の毛を揺らしてけらけらとよく笑った。
彼女はソファに座ってマルボロを二本吸った後、「先にシャワー浴びてくるからAVでも観て待ってて」と言って笑った。
彼女が浴室に消え、シャワーの音が聞こえてきても、もちろん俺はAVなど観なかった。ソファに座り、両手を合わせて俯いていた。灰皿の中の吸い殻。飲みかけの缶ビール。彼女の着ていたパーカーからは香水の甘い匂いがした。
数分後、彼女は申し訳程度に小さなバスタオルを身体に巻き、「先に出たよ!」と笑った。
俺が浴室に入ると、洗面台の下に彼女の真っ赤なパンプスが置き去りにされていて、思わず口元が緩んだ。
彼女との行為はとても楽しかった。親密過ぎず、ドライ過ぎず、絶妙なバランスで我々は行為を終えた。
俺が果てて彼女の上に倒れ込むと、彼女は微笑み、俺の肩にキスをし、まるで恋人にそうするように、その細い両手で俺の身体をきつく抱きしめた。
我々はしばらく、ベッドの中で話をした。
彼女は「二十八歳のバツイチ」だと言い、夫だった男と別れた理由について、「セックスレス」だと笑って言い切った。「多分あたし、エッチが好きなんだよね、意識したことなかったけど。あたしは週に三回くらいしたいんだけど、旦那は月に三回で十分、みたいなね。そういうのがずっと続いて、いざ子作りをしようって段階になったら、今度はあたしが彼とはもうエッチしたくなくなっちゃって、そんなこんなで別れちゃった。難しいよねぇ、結婚て」。
「どうして、セックス出来なくなっちゃったんですか?」
「わかんない。何か……生理的に無理になっちゃって。そしたら向こうが平然と言うのよ、出来ないなら仕方ないよね、体外受精でもする?とか。ちょっとずつエッチ出来るように、ていう歩み寄りも無いんだよ?で自分は風俗行ってヌイてもらってたの。ふざけんなって感じで離婚しちゃった」
ふいに彼女は笑うのを止め、口をつぐんだ。何かを思い出していたのかもしれない。数秒後、彼女は再び笑みを顔に浮かべ、「話は変わるけど、」と言った。「君、女の子からアレが長いって言われない?」
帰りの電車の中。
彼女がこれから先、どのような人生を歩むのか考えてみたけれど、すぐに止めた。仮に俺が彼女には明るく生きてほしいなどと思ったとしても、我々はもう他人に過ぎないのだ。大きなお世話に違いない。
いつも、そういう、何かしらの虚無感に襲われる。それを拭い去るために女を抱いても、結局、虚無感は酷くなる一方だ。
そんなことを、ずっと繰り返している。