命の灯火

苦手患者さんだった。

彼との関わりがイヤで仕事辞めたいとも思った。

多分、クリニックで１番わがままな患者さんじゃないかと思う。

自分に甘く他人に厳しいタイプ。

『嫌なところを挙げよ』なんて問題が出たらスラスラ書けちゃって満点もらえる自信がある。

その彼の命の炎が消えようとしている。

もともと心臓が悪い彼の血圧は低く、高くても１００までいかない。

それが、最近血圧を上げる薬を使っても６０くらい。

この血圧だと透析をするにも限界店だと思う。

入院していたのだが、彼のわがまま病が再発して強制退院してきたのだった。

「入院はストレスがたまって・・・・」

「あと少しなので宜しくお願いします」

朦朧とする頭のなかでそんな事を言う。

あんなに気に障ることばかり言っていたのに、今はその毒気がすっかりなくなってしまった。

だけど、外来透析には限界がある。

独居の彼は「家で死にたい」と言うが、死にそうな血圧で家に帰すことができないのだ。

この夏を越すことが出来るだろうか、そんな事を思いながら彼とかかわっている。

人間、その根本は皆悪くないんだなぁ・・・・。彼を見てつくづく思ってしまう。

やっと彼と心が通じたような気がする。