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【試行私考 日本人解剖】第3章 ルーツ アイヌと縄文人(4)(MSN産経ニュース)

2008-02-18 08:12:00 | アイヌ民族関連
【試行私考 日本人解剖】第3章 ルーツ アイヌと縄文人(4)
2008.2.18 08:12

Y染色体が証明した“直系”

 ≪男系遺伝子≫

 東海大の田嶋敦助教は平成16(2004)年、宝来聡・総合研究大学院大学教授(故人)らとともにアイヌを含む東アジア各地の現代人集団の遺伝子を比較した。宝来教授は、縄文人の骨化石からミトコンドリア(mt)DNAを抽出、解析することに初めて成功したことで知られる。

 田嶋助教らの研究では、各集団構成員のmtDNAに加え、Y染色体も比較。「DNAでみる縄文人」で取り上げたmtDNA同様、Y染色体も集団や地域によって分布する変異型やその割合が異なり、分布や変異を分析してルーツ探しに使われている。

 mtDNAは母親からのみ子(男女)に伝えられるのに対し、Y染色体は父親から息子にのみ伝えられ、父(男)系をたどることができる。mtDNAの分析では人類の祖先はアフリカの1人の女性(ミトコンドリア・イブ)とされるが、Y染色体の変異をたどると、アフリカの1人の男性「Y染色体のアダム」に行き着く。

 全人類のY染色体は大きくA~Rのハプログループ(塩基配列の変異を共有する型の集まり)に分かれる。Bと分岐した集団がアフリカを出たあと、C、D/E、Fという3つのグループに分かれ、Fの集団はさらに分岐しながら世界中に拡散した。

≪2つの系統≫

 田嶋助教らがY染色体の比較に用いたアイヌのデータは16人分。ハプログループCから派生したサブタイプC3が12・5%(2人)、D2a(13人)とD2B1(1人)というD2(「D」のサブタイプ)系統が計87・5%だった。

 米アリゾナ大のマイケル・ハマー研究員らの調査や田嶋助教によれば、D系統は、アジア地域では日本のほかチベット(D1とD3系統)で約50%の割合で見つかる以外は、モンゴルや中国南部、東南アジアでわずかに見つかる程度。D1などサブタイプ派生前の祖型「D」はインド洋のベンガル湾南方、アンダマン諸島で確認されている。

 C3は、シベリア・バイカル湖近辺のブリヤート集団で83・6%と高い割合で分布。樺太(サハリン)のニブフでも38・1%に確認され、本州ではわずかだが、九州では7・7%。北部漢民族にも8・2%の割合で分布している。アイヌでは確認されていないが、同じC系統のC1が本州から九州にかけて分布している。C1は日本でしか確認されていない。

 ≪縄文人型≫

 「アイヌに分布するY染色体のD2系統の型とC1は縄文人の遺伝子型と考えられ、C3もその可能性があります」と田嶋助教。

 日本人のY染色体をめぐっては、3~4割の本州人のDNAに「YAP」という約300の特徴的な塩基配列が挿入されていることが早くから知られていた。その後研究が進み、ハプログループDと呼ばれるようになったのが、このYAP+型だ(中東やヨーロッパの一部、アフリカに分布するハプログループEもYAP+)。YAP+型は韓国ではほぼ皆無で、東アジアでは日本人特有と受け止められたことから、縄文人との関連を指摘する声も多かった。それを確証したのが、田嶋助教らの分布調査だった。



 縄文時代に幅広く列島に存在した基層集団のmtDNAのハプログループと考えられる「M7a」「N9b」は現在では北海道と沖縄に高い割合で分布(「DNAでみる縄文人」参照)し、D2型の分布と同様の傾向にある。日本人形成の定説「二重構造論」によれば、弥生人は縄文人と混血しながら西日本から列島全体へと拡散したため、西日本から離れるほど縄文人の直系子孫が残る割合は高い。約2万年前に派生したとされるD2型の分布はこれに合致するため、縄文人のものと考えられるわけだ。

 ≪北から南から≫

 田嶋助教によれば、D系統が列島にきたルートには、(1)中央アジアルート(中東→中央アジア)(2)沿岸ルート(中東→ユーラシア大陸の南岸沿い)という2つの見解があり、日本列島への移入ルートも北方、南方という2つの可能性が考えられるという。

 C1集団は約1万2000年前と計算される派生時期などから後期旧石器~縄文時代に列島に入ったか、列島周辺で祖型「C」から派生したと考えられる。「C」はインド、中央アジアや東南アジア、オセアニアでも確認され、D2と近いルートをたどった可能性もある。C3集団は、後期旧石器時代にシベリアを起源に樺太経由で北海道へ、あるいは中国北部から半島経由で九州へと入り、列島に広まった細石刃文化の流れと分布が一致する(「縄文へ(1)」参照)。



 mtDNAとY染色体は、女系と男系の違いから、同じ地域でも対応する型が存在するとはかぎらない。ただ、東アジアの広範囲、さらにアメリカ先住民にも分布するC3は、東アジア最大集団のmtDNAのD型、なかでも北海道縄文人とアメリカ先住民で確認されたD1型との相関関係が注目される。北海道縄文人のほかアムール川流域や朝鮮半島でわずかながら確認されるN9b型も考えられるかもしれない。

 縄文人が周辺地域で似た形状の骨化石が見つからないユニークな存在であること、その中でもオーストラリアや西モンゴル、北米の遺跡から見つかった骨化石との類似性を指摘する研究が近年出されていることは紹介した。Y染色体の分析は、アイヌが縄文人と遺伝子レベルで直結していることを明らかにするとともに、これらを検証するヒントにもなりそうだ。(小島新一)


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