書棚を見ていたら、だいぶ前にもらって、積読(つんどく)になっていた本を発見した。
『植村直己の冒険学校』(文春文庫)。 奥付を見ると、1994年6月10日となっているから、読まずに16年も眠っていたことになる。すまんことで。
まえがきによると、「植村さんが語った50時間のテープをもとにしてつくられた本」ということだ。植村さんとの“縁(えにし)”の深い文藝春秋の編集者が、植村さんの語り口をいかしつつ、さまざまなテーマごとに話をうまくまとめている。冒険についての見識や体験が書かれているわけであるが、読み終えると、タイトルと中身にちょっとずれを感じるかな。一言で言えばこの本は、「徹子の部屋」で植村氏が自身の体験を皆に語り聞かせるような、そんな感じの本だ。写真も豊富に使われていて、帯を見ると、文春文庫ビジュアル版、なんて謳っているんだね。
ちょっとのずれは感じるものの、「冒険学校」の要素も入っている。方位の簡単な調べ方や水の漉し方なんてね。そんなたわいもないものばかりではなくて、実践的なことも書かれていて楽しめる。たとえば、冒頭にある「歩く」。植村さんは日本縦断を徒歩で敢行しているのだが、1日平均60Kmも歩いている。これが北極圏で道に迷ったときや、残りの行程の日数計算に役立ったとか。1日に60Km移動できるはずだから、1日であそこまで戻れるとか、3日であそこまで行けるとかという予測だ。ふつうの人だと、まず60Kmなんて距離はありえないけどね。せいぜい20~30Kmじゃないのだろうか。また驚くことに、この日本縦断の距離は約3000Kmあったらしいから、北極圏を1万2000Km歩いたときには、日本縦断4回分になるのだ! ほかにアザラシ狩の体験記や、キビヤックという「くさや」のような異臭を発する食べ物の話など、興味が尽きることはない。
そういえば、植村さんの他の本 はどこに行ったんだっけと、家の中を探してみると、ブックオフ行きになったと思っていた本が出てきた。一時期かなりはまって読んでいたからねえ。
『青春を山に賭けて』
この本に触発され山を始めた人や、どっぷりと“山屋”に変身した人は多いのでは。
『極北に駆ける』『北極圏一万二千キロ 』『北極点グリーンランド単独行 』
いわゆる北極圏冒険譚。こんな氷に閉ざされた世界があるのか、そしてこんな厳しい環境でも生活を営む人々がいるのかと、読んだ当時は驚きの連続だった。
『エベレストを越えて』は家になかったから、もしや読んでないかも。誰かに借りて読んだのかさだかではない。ただ日本隊のエベレストの初登頂時のエピソードは有名だから、読んだような気もするのだが。それともテレビで見たのか? もう一度(初めて?)読み返してもいいか。
『植村直己記念館』
これは私の秘蔵本。植村さんが自分で自分を演出して撮った写真や、犬ぞりや極寒の自然を切り取っているすばらしい写真集だ。装丁は三村淳氏で、無駄を排したシンプルなデザイン、レイアウトがいい。お気に入りの1冊だ。この当時で7,000円もした。今の不況下だと、ちょっと手が出ないかなあ。
そして最後に一言。『冒険学校』の巻末にあった植村さんの年賦を見て驚愕。いつの間にか、自分はあの偉大な植村さんより年上になっていた。そんな年齢なんだけど、何か成し遂げたかといえば、何だろうねえ。
植村直己記念館 | |
クリエーター情報なし | |
文藝春秋 |