緑のカーテンとゴルわんこ

愛犬ラム(ゴールデンレトリバー)との日々のあれこれと自然や植物、
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「卵のふわふわ」 宇佐江真理が描く江戸人情話が美味しい

2016年04月05日 | 

朝日新聞夕刊に「うめ婆行状記」を連載されていた宇佐江真理さんの小説を何冊か読み始めています。

最初は「深川恋物語」という短編集を読み、お江戸を舞台にした暖かい人情話に藤沢周平とはまた違った魅力を感じて、続けて何冊か図書館から借りてきました。

今読んでいるのは、「卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし」という本です。八丁堀の同心の家に嫁いできたのぶという女性を主人公にして、やたらと食べることの大好きな心優しい舅、口は悪いが大事にしてくれる姑、好いて嫁入りしたはずなのになぜか心が通いあわなくなった夫との日常の出来事に江戸の庶民的な食べ物が絡んでくる、なんだかとてもお腹がすいてくる本なのです。

「今日のお菜はなに?」 「何かうまいもの作っておくれよ」とやたらと食いしん坊な舅さんと、その対極のように好き嫌いがあり食べられないものが多く、性格も少々かたくななところのある嫁・のぶとのやり取りが読者をほのぼのと温かい気持ちにしてくれます。

本を読んでいる方も途中で小腹がすいてきて、ついつい羊羹やおかきなどをつまんでしまいます。

各章のタイトルを見ただけで、なんだか唾が出てきそうです。

「秘伝 黄身返し卵」 「美艶 淡雪豆腐」 「酔余 水雑炊」 「涼味 心太」 「安堵 卵のふわふわ」 「珍味 ちょろぎ」

すいすい読み進んでしまい、あらあらもう少しで終わってしまう、このまま読み終わるのが惜しいような、食べ終わるのがもったいない大好物を少しずつつまんでいたいような、なかなか滋味豊かな本です。

「黄身返し卵」とは、白身と黄身が入れかわるようにしたゆで卵のことで江戸時代の料理本にその作り方が載っているそうで、生卵に針で穴をあけ、その後5日ほどぬか味噌につけておいてからゆでると黄身が外側で内側が白身というゆで卵ができるとのこと。

あら!本当かしら、作ってみようかなと思ってしまいます。 早速ネットで調べてみると、ちゃんと現代風な黄身返し卵の作り方が出ていました。

最初は江戸時代と同じでやはり生卵に穴をあけ細い棒を入れて黄身をつぶして白身とまぜるそうです。その後は文明の利器を使い、割れないようにセロテープでとめてからネットに入れて高速でぐるぐる回転させてからゆでるとできるそうです。なるほどね。

江戸時代に黄身返し卵を出された人は、さぞかしびっくりしたことでしょうね。

本の中では知り合いから黄身返し卵を1個もらい舅と半分ずつ食べてみるのですが、そのお味はそれほどでもなかった由。

ーー人はね、当たり前のことがおもしろくないんだよ。裏返しや逆さまが好きなのさーー 

ーー蓋を開けりゃ、埒もないことの方が多いーー

洒脱な舅の言葉から、夫との生活にうっぷんを感じている自分の心の中を振り返ってみるのぶですが、ねじれ始めている夫婦の関係はなかなかうまく解れてくれません。 

食べ物の好き嫌いがあり、舅のように美味しいものを喜んで食べることが少ないのぶが、いろいろなものを食べていくうちに「あら、これ美味しい」と少しずつ食べる喜びに気づいていくと共に人間に対する見方も変わってきて、周りの人の心根にふれてまろやかな温かみのある女性になっていくお話です。

美味しいものを笑顔でいただけることって大事なことですね。 そして一緒に「美味しいね」と言い合える人のいる有り難さを感じさせてくれる本でした。


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