abeckham@izakaya

飲んで食うなら家でも十分。
それなのになぜ人は居酒屋に行く。
その謎を解く旅が、ここから始まります。

信長公、面会つかまつる

2006-11-10 17:11:41 | Weblog
8月30日
明日の8月31日は、僕の母の誕生日だ。とりあえずおめでとう。まずそれを言い置いて、今夜は岐阜の飲み屋の紹介だ。
名古屋に出張に出かけるが、時には仕事の関係で岐阜にも泊まる。今夜は3ヶ月振りの岐阜だ。居酒屋巡りに目覚めて初めての岐阜の夜。胸弾ませながらも不安がよぎる。
今まで岐阜で飲む際には、会社の後輩が一緒だったり、ホテル裏の串焼き屋くらいしか記憶がない。果たして岐阜に僕が求めるような店があるだろうか?しかしここ岐阜は尊敬すべき織田信長縁の地。漠然とした不安を希望に捻じ曲げ、午後8時。僕はホテルを出て、町歩きを開始した。
車で走る際に目星をつけた駅前の焼鳥屋の前に立つ。店の中を覗き、掲げられたメニューを見る。店の中の空気は特に良さそうではない。串焼きの内容も価格もピンと来ない。が、廻りに飲み屋は無い。どうしたもんだろ?少し悩んだが、ここで妥協するわけには行かず、暑い中、もう少し歩く事にした。
岐阜の駅前はだだっ広く、少し寂しい。岐阜駅前の繊維問屋街は、5時になると軒並みシャッターを下ろし、人気が無くなる。駅の反対側は東海地区で有数の遊郭「金津園」。僕には縁が無いところだ。
路面電車が走る広い道を、横断歩道が少ないから走って渡り、細い路地に入った。たまたまそこは小さな飲み屋が並ぶ通り。僕は1軒の飲み屋に吸い寄せられた。
「蔵元宣伝処・酒房安兵衛・分店」。青布に白地の暖簾の奥には、中年のおじ様たちの楽しそうな背中が並ぶ。間違いない空気を感じながら暖簾をくぐる僕に迷いはない。颯爽と店へ入る。
店の右側に細長いカウンター。左に長い合い席のテーブルがふたつ置かれ、奥のテーブルには常連さんと見えるおじさま達がわいわいやっている。僕は店の入口に近いテーブルの通路側(一見さんの席)に座り、ビールを注文だ。
ビールはサッポロラガーだ。中々お目にかかれない、居酒屋ならではのビール。店のおば様が注いでくれた美味しそうなビールで乾杯。乾いた喉に染み渡る。
さてつまみを頼もう。店の壁に価格ごとに貼られたメニューは、お新香に冷奴、焼き魚に煮物、フライ、串揚げ、刺身に煮魚と、多種多様。迷ってしまう。
僕はビールに合わせたい「アジフライ」と、「ゴリ煮つけ」を注文し、サービスで出されたブロッコリーの茹でた物でビールをやる。店の奥にはテレビがあり、巨人戦を放送しているものの、誰も見ていない。その右上に立派な神棚がある。神棚がある店で飲むのは久しぶりだ。僕の家にも常に神棚があり、毎日親父がご飯とお水を上げていた。両親と離れて暮らすようになり、神棚とは無縁になっていただけに、なんだか懐かしい気持ちになる。
「ゴリ煮つけ」は、小さな川魚の煮物で、生姜の香りが聞いて、土臭さも残りおいしい。
揚げたての「アジフライ」にウースターソースをかけてガブリ!うまい!!!ソースの酸味がまたたまらない!
他のお客様は全ておじ様。ビールを豪快に飲みながら、はたまた焼酎の1升瓶を片手に、わいわいと賑やかだ。僕も負けずにと日本酒を注文した。
「ふなよいくち」と書かれた生酒を頼んだが、どうせならこっちを飲みなさいとばかりに、ママさんが持ってきたのは「織田信長」という名前の醸造酒。ここで信長公にお会いできるとは!!キンキンに冷えた信長公は辛口で切れがありうまい!知らない銘柄なので興味を持つと、ちゃんと冷えた1升瓶を持ってきてくれた。そこには良くみる信長公の肖像画が描かれており、NAPOLEONと書かれている。信長は日本のナポレオンか。思わず笑顔になる僕に、ママさんが話しかけてくれる。ママさんはここで店を開いて26年。四国の高知出身で、厨房を担当する旦那さんは僕と同じ福岡出身で、岐阜駅南口にある造り酒屋の直営店をふたりで営んでいるらしい。お客さんはどなたも超常連な様子で、暖かい空気が常に流れる良い店だ。
思わず飲む事ができた岐阜の地酒に舌鼓を打ちながら、少しお腹が減った僕は、お酒の追加と「冷奴」を注文した。
テーブル用に置かれる椅子は、安っぽいオレンジのビニール椅子。しかしこれがなんとなく座り心地が良い。テーブルの上にはママさんが生けた花が置かれ、なんとなくお母さんの懐かしさが香る。今時、テーブルの上の一輪挿しにお花を飾るお店はない。それが嬉しく感じる。
名古屋スタイルなのかはわからないが、豆腐に醤油をかけるのではなく、醤油味の漬けタレに薬味を入れて、そこに箸で切った豆腐をつけて食べるタイプだ。1合以上は優に入る湯飲みに注がれる冷酒と、素朴な豆腐がとても合う。
明るいママさんと、お客さんのお酌を拒もうともせず自ら客席に出てきて座り、タバコを燻らし酒を飲むマスターのかもし出す、なんとも言えない空気に酔いながら、僕も杯を重ねる。お客さんもお店を良く理解し、まるでドリフのような掛け合いが絶えない店内は、いつしか満席だ。
となりに座ってくれたママさんと、いろんな話をしながら過ぎる時間を有意義に過ごし、僕は心を満たされた店を出た。
岐阜では今まで満足のいくお酒を飲んだ事はなかったが、今夜は初めて心を満たされた。織田信長が楽市楽座を敷いた、言わば日本の古都のようなこの街に、僕の胸躍る店が無いはずはないと信じて出歩いた価値があった。
今度来る時は、ママさんとマスターが休みの度に釣りに出かけて釣ってくるというキスの天麩羅を食べてみよう。ここの自慢は魚だそうだ。納得がいく仕入をするために、マスターは毎日市場まで仕入れに行き、配達される食材は一切ないらしい。そのこだわりは、しっかり料理の味に出されている。なんの情報もなく、岐阜の町でこの店を見つけることのできた自分に、なんだかご褒美をあげたくて、最後に頼んだ冷酒が、なんだか妙に利いた様子だ。足取りが軽くて、とても気持ちよい。フワフワしている。
轟音を響かせて走る路面電車の脇を走りぬけ、僕はホテルへ急ぐ。「人間五十年」信長の言う通りなら、僕の人生は、あと20年。そんなことはないと思うが、岐阜でそんな事を考えると、なんだか感慨深い。太く長くとは言わないが、なるだけ楽しく、健康な生涯をと思う。嫁さんといつまでも笑っていられるようにと、暗くて見えない岐阜のお城に向かって囁きながら、岐阜駅前を走る僕がいた。

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4 コメント

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Unknown (須恵の男)
2006-11-10 23:40:05
相変わらずいい動きしよーね。結婚式あとも期待しとります!
ゴール前の嗅覚 (下痢男)
2006-11-11 11:58:03
信長=ナポレオンとは、なかなか岐阜の人もやるねぇ。



今回も居酒屋探しの嗅覚は素晴らしかった!アベッカムというより伊ACミランのF・インザーギのようなストライカーみたいに居酒屋という名のゴールをうまい事よく探し当てるな!



次回も楽しみに待ってます。
おめでと (てぬくま)
2006-11-12 15:41:01
式前日に記事更新とは!ハマリ過ぎ(笑)。
素敵なパーティーでしたね。
夜はおもしろかった?

瀬戸内海が待ってるよ♪是非おいでね。
おめでとう。 (理容師井上)
2006-11-15 22:19:40
結婚式終わったと!?おめでとう。
一に我慢、二に我慢。これを肝に銘じて。(笑)
1月の同窓会は硝子職人が幹事するらしい。アベッカムから連絡を・・・。