風を紡いで

旅の記録と料理、暮らしの中で感じた事などを綴っています。自然の恵みに感謝しながら…。

(23)雪の中、農場の柵にそって

2005年08月01日 | 2005年コッツウォルズ母娘旅
英国コッツウォルズは調和のとれた美しい田舎。私たちは完全に魅了されてしまった。雪景色の丘陵地、スノーズヒルもなかなか素晴らしかった。娘と私は、スノーズヒルのB&B「シープス・コーム」に荷物を置き、近くにあるパブで早目の昼食をすませてから散策をした。B&Bオーナーのティムさんに散歩コースを聞いて、スタントンまで足をのばすことにしたのだった。

地図を持ち、スタントンに向かってのウオーキング。1時間ほどの軽い散歩のつもりだったので、長靴も履かないで出かけてしまった。あとで大変な思いをすることになるとは、この時は思いもよらなかった。ぬかるんだ道を滑らないように注意しながら歩く。農場を抜けるフットパスを利用したり、細い道を歩いたり…。

ところが、道が悪いためか、コースをそれてしまったためか、歩けど歩けど目的地のスタントンに着かないのだ。ティムさんはかかっても1時間ぐらいかな、なんて言っていたが、そんなもんじゃない。

かなりの時間が経過し、もう限界か、と思ったその時、遠くに緑のスタントンが見え、ほっとしたのなんの…言葉ではとても言い表せない。しかし、そこにたどり着くにはもう少し時間が必要だったのである。とはいえ、ほんの少し先が見えたことで、元気が沸いてくるのだった。

私たちは最後の力を振り絞るようにして、また歩き続けた。雪も少し激しくなってきた。目の前が開けて見えてきた風景に、なぜか懐かしさを覚えた。緑の木々、ここがスタントンなのか…。

その先右手に、パブ「マウント・イン」があった。高台にあるパブからは、小さな村落が見えた。中世に迷い込んだような、次元を超えて私がここに存在する、そんな不思議な感覚で、村を眺めた。

ここのパブで一休みしよう。すぐ追いついてきた娘と一緒に、パブに入っていった。私はイギリスの地ビールとコテージパイなど軽食、娘は食欲がないと野菜サラダとリンゴジュースだけを頼んだ。

暖炉が燃え、心地よい温もりが気持ちを解きほぐしていく。食事を終えて、しばらくのんびりしていたが、帰り道のことを考え、少し早めに出る事にした。スタントンの村を散策してから、スノーズヒルに向かうことになった。娘が元気がないので、タクシーを呼ぼうとしたが、歩いて帰りたいと言うのだ。いい悪いは別として、娘は結構頑固なところがあるのだ。


結局、来た道とは違う別のコースを選んで、歩いて帰る事になった。パブでトイレを済ませておけばよかったのだが、店を出てから気づいたものだから少し慌てた。

娘に先に歩いててもらうことにして、パブに戻ったが、店はすでに閉っていた。夕方まで閉店なのだ。さぁ、どうしよう。公衆トイレはないか探したが、見つからない。

ならば、教会はと行ってみたが、教会の中に入ってはみたが誰もいない。奥までズカズカ入るのは気がひけた。無断でトイレを借りる訳にはいかないような気がして、教会をあとにした。道には誰もいない。こうなったら、しかたない…と一軒の家のドアをノックした。

「公衆トイレはどこにありますか?」
「ここにはないよ」

そんなぁ~。あぁ…どうしよう。恥ずかしがってはいられい、と思いきって尋ねた。

「あのぅ、トイレを貸していただけないでしょうか」
「ああ、どうぞ」

えぇ?本当?いともあっさりと応える白髪の紳士。良く見ると、なかなか渋くて素敵な男性じゃないの―彼の好意に甘える事にした。用をすませて、お礼をしようとする私を制して「ノウー」。

だってね、イギリスの公衆トイレを使用する時はお金を払うじゃないの。何か感謝の気持ちを表したいと思った。ショルダーバッグの中に、日本から持ってきた“小梅ちゃん”と“おかき”があるのを思い出した。彼に手渡すと、うれしそうな顔で話し出した。

「私の娘は京都の大学に留学していたことがあるんだ。今はロンドンの警察に勤務しているが…」
「あら、そうですか。私も若いころ、京都に済んでいた事があるんですよ」
「今はどこに住んでいるのですか」

あらら、話が始まってしまった。日本の小さなスイーツが掛け橋になるんだなぁー。もっともっとおしゃべりしたかったが、娘のこともあるし、後ろ髪ひかれる思いで白髪の紳士に暇を告げたのだった。

急いで娘のあとを追った。どろんこ道を滑らないように注意しながら歩く。なかなか先に進めない。しばらくして道が二つに分かれる場所に着いた。どっちに行ったんだろうか、と思った瞬間、左手の大きな樹の下に佇む彼女の姿が目に飛び込んできた。

「あぁ、良かった!」
「道が分かれていたから、待ってたんだよ」
「ごめんね。パブが閉っててトイレ探すのに時間かかっちゃってさ。日本に娘さんが留学してた事があるという人の家で借りる事ができたけどね…」
「そうだったんだ」

さてどっちへ行こうか。右に行くべきか、左に行くべきか…ハムレットのごとき(深刻度が違うよ)迷っていたら、乗馬をしている人が通り過ぎようとした。

「すみません!スノーズヒルへはどっちの道を行けばいいんですか?」
私が尋ねると、「この柵に沿って行った方が近いし、分かりやすくていいかな」
そう答えて、馬上の人は颯爽と去って行った。


農場の柵は、急勾配になって続いていた。しかし、行くしかない。長靴を履いていれば、歩きやすいだろうなぁ~。来る時、難儀だったしなぁ~。しばらく進むと、なんだか足元が重く感じて、見ると靴の周りに泥がべったり付いているのだった。

草地に靴をこすり付けて、泥を落とす。雪の上をまたしばらく歩いていくと、泥が落ちて軽くなるのだ。靴が雪できれいになっていく。しかし、泥の上を歩くと、また泥がべったりとまとわりついてくるのには、まいった。その繰り返し。そんな私たちの側を、乗馬を楽しむ人たちが、疾走していくのだった。

「うわぁ~、来るよ!」
「避けて~」

気配を感じると、私たちは柵の方によけて馬が通りすぎるのを待つ。雪も激しさを増してきた。日が落ちる前に、B&Bに辿りつかないと大変、そう思い必死で歩き続ける。

しかし、なかなかB&B「シープス・コーム」の姿が見えない。いつまで歩けばいいのだろう…。少し不安になってきたが、柵だけをたよりに歩くほかないのだった。 (つづく)



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3 コメント

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トイレ・・ (ふぁん)
2005-08-03 20:43:28
私も旅行中、歩いていて探せずこまりました。いい方でよかったですね。

私の時はバス停留所にボックス型のコインを入れて入るトイレがあったんだけどコインを入れてもあかない・・。人がはいってるのかしら?

わからないので、そそくさと歩いて別のところを探した。最後にはスターバックスを見つけラッキー。飲みたくはなかったがグリーンティをたのんだ。ティパックと大きなお湯のはいったカップが出てきた。緑茶というよりハーブティのようだった。ほとんど飲まずに帰ってきた。ふつうの小売店には、トイレはなかったんですよ。
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大変でしたね! (ユウ)
2005-08-04 09:51:55
おはようございます!

もったいなかったですねグリーンティーというかハーブティー…。でも見つかっただけでもラッキーですよね!私はコインを入れて使う公衆トイレを一度利用したかったのですが、縁がなかったようです。娘は一度、駅で使いましたが…。
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荷物は… (forever-green)
2008-05-23 21:49:26
荷物を預けてお出かけになったのですね。
失礼しました<(_ _)>

確かに、娘さんの様子が気になりますね。
熱があるとか…。

英国の方との交渉はもっぱらユウさんのようですね。
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