野に撃沈

多摩地区在住の中年日帰り放浪者。ペンタックスK10Dをバッグに野山と路地を彷徨中。現在 野に撃沈2 に引越しました。

日向薬師の彼岸花

2007-09-29 | 野の花
 最初に言っておくと日向は”ひゅうが”ではなく”ひなた”と読む。当地で道を聞いて恥をかいた僕のような被害者が出ないように念のため。雨乞い信仰で有名な神奈川丹沢山塊の大山(これもだいせんではなくおおやま)の麓にある神社が日向薬師だ。その一帯は都心に近いのだが、いまなお水田と里山風景が残る土地だ。そこに季節になると咲く彼岸花を求めて多くのカメラマンが集まってくる。








 私は普通花の名はカタカナで表記するようにしているのだが、この花だけは彼岸花と漢字で書きたいように思う。


 逝ってしまった者たちがこの花の姿を借りて彼岸よりやって来たのではないかと思うから。此岸に住む人たちに会うために、地中から派手な装いを凝らして姿を現したのではないかと。



それにしても自然は精妙だ。泥土の中から如何にしてあのような華麗な色彩と繊細な造形を生み出すのだろうか。








 先の先まで自然は決して手抜きをしない。



 この花には千を超える異名があるという。彼岸花の次に使われる名は「曼珠沙華」。梵語で赤い花のことらしい。釈迦が悟りを開いたとき天から降ってきた花といわれている。が、この話には落ちがあってこの花の原産地は中国で、インドにはそもそも彼岸花は無いのだそうだ。






 「死人花」という不吉な名もあって、昔の人は庭には植えたがらなかった。ほかに幽霊花、死人草、仏花、数珠花とか。

 が、鱗茎部分にある有毒成分のアルカロイドは、水にさらせば良質のでんぷんに変わるので、古来救荒植物として利用されてきたという。



 色変わりの花も最近はよく見かけるようになった。が、この花にはやはり目を奪うような真っ赤な色がふさわしい。






 「曼珠沙華あれば必ず鞭打たれ」(高浜虚子)という句がある。以前、道端で無残に折られた彼岸花をよく目にした。


 古い人なら「赤い花なら曼珠沙華(まんじゅしゃげ) 阿蘭陀(おらんだ)屋敷に雨が降る」という長崎物語を(残念ながら私は知らない)、私の世代なら山口モモエの歌謡曲「曼珠沙華、恋する女は罪作り、白い花さえ真っ赤に染める」を思い出すだろう。尤もどういうわけか"まんじゅしゃか"と歌っていた。リンク切れの恐れがあるがその動画を発見できたので貼っておこう。http://www.youtube.com/watch?v=MfxhFg6ruY8



 そろそろ日も傾いてきたようだ。山風が静かに稲穂を揺らし始めている。


 遠く丹沢山塊を望むこの里山にも黄昏刻が訪れようとしている。




 

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