54のパラレルワールド

Photon's parallel world~光子の世界はパラレルだ。

タイラント Part1

2007年02月22日 | クリエイティブな思考への挑戦
誰もが死んだ。
動植物が死に絶え、、、
人間だけが残った。
食物がなかった。
人間は殺し合い、、
喰らい合った。
まさに――――
弱肉強食――――。
    


「父さん、なにやってるの?」
暗い部屋の中で父がなにかを貪り喰っていた。
父の背中越しに見えたのは、顔の半分が喰い散らかされた人間。
しかしそれは顔の残りの半分で母だとわかった。
「母さん!父さん、なにやってるんだ!」
父が振り返った。
その眼はもはや人間のものではなかった。獲物をみつけた獣のような鋭い瞳が暗がりの中で光った。とてつもない恐怖を感じた。
逃げなければ。
部屋を飛び出した。壁に激突した。痛がる間もなく廊下を走り出した。破裂しそうな心臓の激動が身体のバランスを狂わせているみたいに、身体はもつれ何度も転んだ。廊下がいつもよりもはるかに長く感じられた。ベルトコンベアの上を走ってるみたいに、走っても走っても進んでいないように感じた。
気づいたら家の外に出ていた。無事に脱出できたのだ。
荒い息を整えながら家を振り返った。そしてそこでやっと気づいた。
家の中には妹がいる!
獰猛なタイラントがいる家の中に妹が一人取り残されているのだ。
助けに行かなければ、、でも、、
正義感と恐怖感のせめぎ合い、、
心はそんなに強くはない。
甲高いブレーキ音、そして激突音。
左を向いた。隣の家の塀に車が激突していた。運転席のドアが開いた。
助手席に乗っている女が運転席の男の首筋に噛み付いていた。
男は女の頭を引き剥がそうともがいていたが、その腕はすぐにだらりと垂れ下がった。
背後で女性の悲鳴が聞こえた。
振り返るとヤンキー風な女が逃げていた。
その後ろから走ってきた派手なバイクが女を派手に轢いた。
女の肢体はまるで人形のように折れ曲がり、吹っ飛んだ。
バイクから降りてきた男は倒れた女に走りより、その胸に貪りついた。
男はおっぱいではなく、心臓を喰らおうとしていた。
みんな獰猛なタイラントだ。みんなみんなみんな。
恐怖が全身を支配する。
こうなったら、、
獰猛な父タイラントがいる家へ引き返した。
しかし、妹を助けるためではない。
喰らうためである。
正義感と恐怖感のせめぎ合い、、
心はそんなに強くはない。
みんな獰猛なタイラントだ。

ジルはふとんの中でうずくまっていた。何もかもが恐ろしかった。
ドアが開く音。
「お兄ちゃん?」
兄ではなかった。
姿かたちは兄だったが、その眼は人間のものではなかった。
荒い息づかいとともにゆっくりと近づいてくる。よだれが床に落ちる。
来ないで、来ないで来ないで。
しかし歩みは止まらない。ゆっくりと確実に近づいてくる。
ジルは意を決した。
そして銃を兄に向けた。いや、兄タイラントに。
銃は本当は自分を撃つために所持していた。度々その銃口をこめかみに当てていた。
何もかもが恐ろしかった。
遺書はずっと机の一番上の引き出しに鍵をかけてしまってあった。
銃声。
その銃弾は自分ではなく、兄を撃ち抜いた。心臓を貫いた。
兄タイラントは倒れ、床に暗紅の血が広がった。
一発の銃弾は、兄だけでなく、同時にジルをも殺した。
一発の銃弾は、すべてを変えた。
生を死に、死を生に。
人間は死を意識したときに生を実感する。だからこそ度々銃口をこめかみに向けたのかもしれない。
ジルは生に目覚めた。
兄を殺した罪を背負った以上、私は死ねない。
まだ終わりではない。
先ほどの階下での兄の叫び。
「母さん!父さん、なにやってるんだ!」
そして外での車の衝突、バイク事故。
人間を喰らう人間。
おぞましかった。
何もかもが恐ろしかった。
しかし、終わらせなければ。
ジルは銃を握り締め、階下の寝室へと歩き出した。
やらなければ、やられる。
部屋を出ようとしたそのとき、ジルは空腹を感じた。
突然の飢餓感。
ここしばらく何も口にしていないのだった。
動植物が死に絶えた今、食物はないのだ。
部屋でずっとうずくまっていたジルは、他の者よりは空腹感を感じていなかった。
しかしただいまの戦闘によって、急激に胃は目覚めたのだった。
飢餓感。
目の前には肉塊が転がっていた。先ほどまでは生きていた肉が。
だめよ。ジルは目を反らした。
しかし胃は求めていた。肉を喰わせろと唸った。そして。
ジルは喰らった。兄を。
人の肉を喰らうなんて嫌だ。そんなことをするくらいなら死んだ方がましだ。一瞬前まではそう思っていた。
一瞬後、一発の銃弾はすべてを変えていた。
どんなことをしてでも生きなければ。
骨だけを残し、あとはすべてきれいに平らげた。床に広がった血も飲み干した。
いくら空腹が過ぎていたとはいえ、人一人を女が一人で平らげてしまうなんて。しかしジルはそんなことに気づきもしない。
私は兄を食べてしまった。たった一人の兄を。いつでも優しかった兄を。
私は罪を背負ったのだ。兄の血と肉は私の体内にいつまでも罪として宿り続けるだろう。
罪を背負った人間は、その罪を償うために生きなければならない。
そう思った。
立ち上がるとジルは身体から溢れ出す生命力を感じた。これは。
私には兄がついているのだ。いつでも優しかった兄。そんな兄を喰らってしまうという罪を犯した私をそれでも支えてくれている。
そしてもうひとつ、私にはこの運命を変える銃がある。
ジルは再び歩き出す。
運命を変えるために。

ドアを叩く音。ドンドン。
その音は次第に速く強くなっていく。ドンドンドンドンドン。
音が止まる。そして、強烈なドーン。ドアがきしむ。いや、家全体が大きく揺らいだ。
間をおいて、またしても強烈なドーン。ドアにカギはかかっていない。
三回目の強烈なドーンでドアはぶち破られた。父タイラントだ。
ジルはその姿を見て思った。これは人間ではない。この部屋のドアは外からは引いて開くのだ。それをこのタイラントは押し破ったのだ。
タイラントと化した父の体はひとまわり大きくなっていた。
それは母を喰らったためなのか、それとも恐怖心からそう見えているだけなのか、ジルにはわからなかった。
ジルは迷わず父タイラントを撃った。
銃弾は父タイラントの胸に当たった。心臓に当たった。
タイラントは自分の胸を見た。しかし何事もなかったかのように再びジルにむかってきた。
そんなバカな。
ジルはもう三発タイラントの心臓に銃弾をぶち込んだ。
タイラントは止まらない。胸の辺りから血が滴り落ちているのに。
タイラントは右腕を振り上げた。
ジルは直感した。死ぬと。
振り下ろされる右腕を見て思った。兄さん、ごめん。いや、右腕など見えていなかった。次々とあらわれるフラッシュバックを見ていた。
強烈な銃声。
ジルは我に返った。フラッシュバックから戻ってきた。
目の前には巨大なタイラントがいた。その顔は、、その頭は吹き飛んでいた。首から大量の血が吹き出しており、その血はジルにも降りかかった。タイラントの身体が前のめりに倒れてきたので、ジルは横に飛びのいた。
「大丈夫かい?」
ドアの方を見ると、警官の制服を着た青年が立っていた。その手にはショットガンが握られていた。
「あなたは誰?」
「僕はクリス。銃声が聞こえたんで急いでこの部屋に駆けつけたんだ。」
「助けてくれてありがとう、、」
クリスは父タイラントのもとへしゃがみこんだ。
「なにするの?」
「食べるのさ。もったいないだろう?この世界にはもう食べ物がないんだから。」
「でも、、待って!、、それは私の父なの。母も含まれるわ。だから、、」
「そういうことか、、わかったよ。君に任せる。僕はここに来る途中で何体か食べてきてるから。食べ終わったら下に下りてきてくれ。待ってるから。」
そう言ってクリスは階下へ降りていった。
兄以外でこんな風に男の人と話すなんて初めて。ジルはそう思う間もなく父タイラントにかぶりついた。
父を喰らうのは兄を喰らう以上に罪悪感を感じた。しかし他人に喰われるのはまっぴらだった。それに、胃は求めていた。
ジルはタイラントの吹き飛んだ頭の肉片も含めてきれいに平らげた。
兄に続いて父、しかもその父はすでに母を喰らっていたので、ジルはこのひとときの間に三人の人間を平らげている。おかしくないか?しかしジルはそんなことに気が回らない。
私は兄に続いて父さんまでも食べてしまった。その体内にある母さんをも食べてしまった。私は家族全員を食べてしまった。
ジルは家族全員の命を罪を背負ったのだった。兄、父、母、みんなの血肉が体内に宿っている。
罪の意識とは裏腹に、強烈な生命力が溢れてくる。みんなの分まで生きなければ。絶対に死ねない。
ふと思い出して机の一番上の引き出しを開けた。カギの場所を忘れてしまったので強引に引き破った。
そして遺書をばらばらに引き裂いた。もうこんなものは必要ない。
舞い落ちる白い紙片は、この狭い部屋を出て行くジルの背中を祝福しているようだった。

兄さん、助けて!
クレアは狂った獣と化した人間たちが蠢く街の中をバイクで疾走していた。
一体のタイラントがバイクに飛びかかってきた。クレアはアクセルをふかし、タイラントを吹っ飛ばした。ヘルメットに血が付着する。
くそったれ!もう、なんなのよ!
振り返ると、吹っ飛んだタイラントに数体のタイラントが群がっていた。そして一斉に喰らい始めた。すると一体のタイラントが別の一体のタイラントを押しやった。押しやられたタイラントは奇声をあげながら押しやったタイラントの頭に殴りかかった。殴られたタイラントの頭は180度周り、クレアの方を向いた。
もううんざり!
バイクは疾走する。兄がいるはずの警察署を目指して。
兄さん、助けて!

「妹?」
「そう、クレアっていうんだけど、家に帰ったらいなくて、もしかしたら俺を探しに警察署にむかってるんじゃないかと思って。すれ違いになっちゃったみたい。やっと警察署を抜け出して来たってのに、また戻るなんて最悪だよ。」
「警察署は、そんなにひどいの?」
「強力な武器持ったやつや、格闘技に秀でたやつらがみんなタイラントになって殺し合いしてるんだぜ?まるで地獄だったよ。命からがらさ。」
「そうなの、、」
「でも今やどこもかしこも腹を空かせたタイラントでいっぱいだからな。どこも地獄さ」
クリスが運転するパトカーが急に進路を逸らした。歩道に乗り上げ、そこをさまよっていた一体のタイラントを吹っ飛ばした。ブティックのショーウインドウに激突する直前にパトカーは急停止した。
ジルはクリスの足の上からブレーキを踏んでいた。
運命を変える銃はまたしても運命を変えたのだった。窓ガラスに飛び散った血痕。最後の一発だった。
しかしジルは新たな武器を手にしていた。ショットガン。
これさえあれば。もう私は負けない。そして、、

数分後、パトカーは再び走り始めた。警察署を目指して。
パトカーが走り去った路上には、ボロボロになった警官制服と人骨だけが残されていた。
それでもジルは気づいていない。自分の異変に。


インドのとある山奥、古い寺院で一人の高僧が経を唱えている。
黄金の巨大な菩薩像を前に、そして十二の死体を背に。
敬虔なる仏教徒であった僧たちは人肉を喰わなかった。理性を失い殺し合うなんてことはしなかった。そして、飢えて死んだ。
若い十二人の弟子たちはみな死に、年老いた高僧だけが生き残った。なぜ老いぼれのわしだけが、、と高僧は思った。それはただ単に新陳代謝の違いだったが、つまり若者はより多くの肉を必要としていたのだが、それだけでは割り切れないものがあった。順番が違うだろう、と。
高僧は弟子たちの遺体を埋めてやろうと思ったが、死んだ土は硬く、掘ることができなかった。死んだ世界では死者を弔ってやることもできないのか、、高僧はそれでも、死者を無事に黄泉へと送り届けるために、せめて菩薩の見守る前で、経を聞かせてやろうとしたのだ。
その高僧の飢餓感も限界だった。経を詠む高僧の身体は痩せ細っていた。肋骨からあばらにかけて肉が、いや皮が張りついていた。腹と背が文字通りくっついていた。縮小した胃がその間に挟まっているけれども。
強烈な飢餓感の中で、高僧はなかば狂ったように経を唱えていた。それは死んだ弟子たちを送るというよりもむしろ、自分自身を黄泉へと送り届けるための呪文のようでもあった。
高僧は戦っていたのだ。強烈な飢餓感の中で。後ろには肉がたんまりとあるのだ。この飢餓感を帳消しにして余りあるほどに。空っぽになった腹を満たして溢れるほどに。しかしそんなことは決してしてはならない。神聖なる菩薩様の前で、苦楽を共にしてきた弟子たちを喰らうなど、してはならないのだ!
おかしくなりそうな頭を必死に抑えて、いや、すでにおかしくなっているのだが、高僧は経を詠むことによって気を紛らわせようとしていた。湧き上がる食欲に身体が震えだす。それを抑えるように経を詠む声は大きくなる。
「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏ぅ!!!」
菩薩像の前で、一人の高僧が、強烈な飢餓感の中で、腹を満たせるほどの肉を背に、暴走しそうな食欲を必死で禁じながら、経を唱えている。これぞ宗教のあるべき姿!
「南無阿弥陀仏っ!!南無阿弥陀仏ーーーぅぅぁ!!!!」

一人の山賊が山の中をさまよっていた。強烈な飢餓感の中で。肉はないか、肉はないか、と。そして、とある寺院をみつけた。
寺院は静かだった。物音ひとつしなかった。山賊の足音だけが聞こえた。
何もないのだろうか、そう思いつつ山賊は御堂に足を踏み入れた。
そこには十三体の肉があった。実際、山賊にとっては数などどうでもよかった。たんまりの肉。貪りついた。
ものの数分で三体の肉を喰らい尽くした。山賊の腹は満たされ、ここでやっと一息入れた。実際、息をするのも忘れてひたすら喰っていたのだった。ここで初めて山賊は御堂を見渡した。そして、そこには黄金の巨大な菩薩像があった。光り輝く眼差しで山賊を見下ろしていた。山賊は、涙を流した。
「おれぁ、仏教なんてこれまでちっとも信じてこなかったけんども、菩薩様ぁ、おれぁ、たった今からあんた様を心から信じますだぁ。」
そう言って山賊は目の前にあった高僧の肉を喰らいはじめた。


警察署。
「ブレッド、準備できたぜ。」
耳にイヤホン、胸元にピンマイク、高感度レシーバーで連絡をとっている。
「よし、ジョーもOKか?」
「ばっちりよ」
「よし、エッジ、やれ」
「ラジャー。3、2、1、ファイヤー!」
爆発音。
〝食料庫〟のドアが爆破された。特殊部隊の装備をした三人、ブレッド、エッジ、ジョーが突入する。俊敏な動きで銃をかまえる。
食料庫には誰もいなかった。何もなかった。
「ダメ、冷蔵庫にもどこにも、食料なんて残ってないわ。」
「ちっ、ムダ足だったってわけか。いや、別にリーダーを責めてるわけじゃないぜ」
「わかってる。」
そのとき三人のイヤホンにノイズが入った。
「うわー!!!」
イヤホンから漏れてくる悲鳴。
「どうした!?ハマーD!」
銃声が聞こえてくる。そして音が途切れる。戦闘が起こっている。
「急ごう!」
三人は食料庫を飛び出した。

ブレッドたちはチームで行動していた。武器を持った戦闘員がひしめく警察署で生き残るには、手を組んだほうがよいと考えたのだ。メンバーは5人。リーダーのブレッド、速撃ちのエッジ、唯一女性のジョー、巨漢のハマーD、小柄なミラー。ハマーとミラーはブレッドたち三人が〝食料庫作戦〟で離れる間、武器庫を守っていた。ブレッドたちは早い段階で武器庫を占拠することに成功し、優位に戦うことができたのだった。ブレッドは優秀なリーダーだった。

ハマーDとミラーは銃を撃ちながら目の前の光景を信じられないでいる。銃弾をかわしているなんて。それに、、
敵が右腕を振り上げ、ジャンプして突っ込んできた。二人は左右にかわす。振り下ろされた右腕が武器弾薬の箱が積まれている金属製の棚を切り裂いた。そんな馬鹿な。敵は右を向いた。そしてミラーと目が合った。
右腕が奇妙に変形している。何か、鎌のような。その先端が鋭利な刃物のようにきらりと光った。
ハマーDは銃を撃てずにいた。もしまたかわされたらミラーに当たってしまう。

ブレッドは走っている。武器庫が先に見えてきた。ブレッドはマグナムを手にした。武器庫の金属製の扉は鋭利に切り取られていた。信じがたい光景だがブレッドの視線はすでにその先にあった。何者かが刃物を振り上げて小柄な男、おそらくミラーだろう、に襲いかかろうとしていた。
「動くな!」
ブレッドはすばやくマグナムを向けた。敵がこちらを向いた。
「おっと、ブレッドさんのおでましか」
その顔には見覚えがあった。
「カルロ!貴様、どうやって牢屋から抜け出したんだ!」
「今の俺に抜けられないものなどないぜ」
ブレッドはそのとき気づいた。カルロは刃物など手にしてはいない。その腕自体が、鋭利な刃物になっていた。鎌のような形、だが金属ではなく肉質でできていた。グロテスクな凶器。
「その腕は、いったい、、」
そのとき背後からジョーとエッジが入ってきた。二人もすばやく銃を向ける。
「五対一はさすがにきついか。ならば」
カルロはすばやく身を翻して、壁にある武器棚を切り裂いていった。弾薬が床に散らばる。ブレッドは銃を撃っている。エッジやジョーも銃を撃つ。しかし当たらない。カルロの動きは素早く、狙いを定めることができない。カルロに当たらない銃弾が弾薬に当たり、二次爆発を起こす。それが三次爆発を起こす。四方八方で爆発が起き、室内が煙にまみれる。まずい、
「撃ち方やめ!」
ブレッドは判断した。しかし、
「遅えよ」
ブレッドの耳元でカルロがささやく。その手には手榴弾が握られている。武器庫の床にも手榴弾が無数に転がっていた。
「みんな、逃げろ!」
手榴弾が投げ込まれる。音もなく。すべてがスローモーションに見える。エッジ、ジョーは駆け出している。ブレッドは武器庫の中をみつめている。ハマーDとミラーが走ってくる。そして、
大爆発。
時間が急速に回りだした。強烈な爆発音と閃光が炸裂した。ブレッドは二人に押し倒される形になった。耳を聾するほどの爆音、目を盲するほどの眩い光、さらに熱風と、細かい瓦礫が肌をかすめる。武器庫が大爆発を起こしていた。
ブレッドが顔を上げる。カルロがいた。
「武器破壊さ。俺にはもう武器なんていらないからな。それに、」
そのとき天井が揺れた。そして咆哮が聞こえてきた。地獄の底から響き渡るような、心に強烈な恐怖を浮かび上がらせる叫びだった。上の階からだ。
「教えてやる。警察署内にはもうお前らと俺、そしてさっきの叫び声の主、俺はキングタイラントと呼んでいるんだが、それくらいしか生き残っている者はいない。キングタイラントは化物だ。ベースが誰なのか面影もない。人間を喰うたびに巨大化してきたって感じだ。さすがの俺でも倒せそうにない。つまり、俺の食料はお前らだけってことだ。気をつけろよ。俺は背後から死角からお前らを襲ってやる。一人ずつな。死神のようにつけ回してやる。」
カルロの顔が炎で赤く照らされる。そして右腕の鎌が奇妙に光る。
カルロは煙の向こうに消えていった。
「ブレッド!」
ミラーが泣き出しそうな声を上げている。
「ハマーが、ハマーが、、」
ハマーDが横たわっている。ぴくりとも動かない。まるで死んだように。
「ハマーは俺をかばって、大爆発で、、」


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