54のパラレルワールド

Photon's parallel world~光子の世界はパラレルだ。

タイラント Part5

2007年02月22日 | クリエイティブな思考への挑戦
「やめて、やめてよ、、」
ジルはアルティメットタイラントに押さえつけられていた。北へ向かっている途中に突然あらわれた巨大な怪物。キングタイラントとは比べ物にならないほどの鍛え上げられた筋肉。究極の戦闘マシーン。どこからあらわれたのかわからない。目の前の空間に突然光の点があらわれて、それが大きく拡大して眩しい閃光を放ったかと思ったら、そこに怪物がいた。瞬間移動してきたかのように。

アルティメットタイラントの身体には科学反応が起こっていた。人類科学最高の至宝。アルティメットタイラントは量子テレポーテーションマシンを喰ったのだった。
物質を量子レベルにまで還元して、空間に開いた四次元の穴から別の空間へと一瞬にして移動させる量子テレポーテーションマシン。物質の量子データを扱うには超高速処理が必要で、マシンにはバイオコンピュータが使われていた。
バイオコンピュータの回路には人間の脳細胞が使われていた。そのためアルティメットタイラントは量子テレポーテーションマシンを喰ったのだった。
そして科学反応が起こった。アルティメットタイラントは瞬間移動できるようになったのである。肉のあるところへと瞬間移動し、殺戮する。空間的距離に関係なく、大陸から大陸へと、一瞬にして移動し、殺し、喰う。
光の中からあらわれるこの究極の生命体を、あるものは神だと信じて死んでいったものさえいた。

「やめてぇ、、」
アルティメットタイラントはジルの胸に指を突き刺していった。心臓が貫かれていった。まず父の心臓。つづいて母の心臓。そして兄の心臓。
「やめてぇ!」
ジルを支えていたのはまさに家族の絆だった。どんなに一人ぼっちだと思っていても、いつも近くには家族がいたのだった。いつでも優しい兄と、おせっかいなほど世話をやく母と、何も言わないが心の奥では大事に思ってくれている父が。家族を喰らったことによってその思いが本当に強くダイレクトに感じられた。だからこそ一人でも生きていこうと思えたのだった。
しかしついにジルは一人ぼっちになってしまった。母も父も兄も、みんな殺されてしまった。私は一人。
もう、どうでもいい。

アルティメットタイラントは最後の一撃を加えようとしていた。しかし、横から突撃してきたものによって吹き飛ばされた。巨大な犬だった。いや、人間か。四本足で立ち、こちらをにらみつける眼はギラついている、全身の毛が逆立ち、鋭い牙が光る。
ウーグァン!
俊敏な動きで首筋に噛み付いてきた。こんな戦闘術、俺は知らない。アルティメットタイラントははじめて困惑していた。

ウォンは戦闘本能全開だった。なぜだかわからないが、全身からアドレナリンが吹き出している。空腹のまま北へと歩き続けていたせいだろう。飢餓感が暴走している。
しかし、首筋に喰らいついたはいいが、噛み切れなかった。筋肉が硬い。首の筋肉が噛み切れないほどに硬い。タイラントがつかみかかってきたので、いったん飛びのいて第二撃を加えにいく。

その戦いをナイフは見ていた。あの犬男、急に駆け出したと思ったら、それに何なんだあの怪物は、どっから来やがった?
北へ向かっていたジル、ナイフ、ウォンは同時に出会ったのだった。強烈な飢餓感にいたナイフはウォンに襲いかかった。ジルは女だったから襲う気になれなかった。ナイフはウォンにコロスコロスコロスと念を送った。しかしウォンはまるで気にしないかのように噛みついてきた。こいつには僕の言葉の波が通じないのか?もしかして僕と同じタイプなのか?ウォンはただ人間の言葉を知らないだけだった。
ウォンに倒されたナイフだったが、ウォンは止めを刺す前に駆け出したのだった。
ナイフはアルティメットタイラントにも念を送ってみた。ヤラレロヤラレロヤラレロヤラレロ。しかし怪物にはなにも効いていないようだった。こいつにも通じないのか?世界で最後まで生き残ったやつらは簡単にはやられないのか。僕もおしまいかもしれない。アルティメットタイラントの思考速度はナイフのそれをはるかに超えていたのだった。究極の頭脳だった。

ウォンは弾き飛ばされていた。ウォンは起き上がり、再び突進していった。そして飛びかかる。しかしタイラントは消えるのだった。あの巨体が一瞬にして目の前から消えるのだった。そして背中に衝撃があり、地面に叩きつけられている。全身の骨が砕け散りそうなほどの衝撃。
もう限界だ。ウォンは悟っている。この怪物には勝てない。

家族の心臓を撃ち抜かれて放心状態だったジルは起き上がり、自分を助けてくれた獣のような青年をみつめていた。倒れても倒れても起き上がり、飛びかかっていく。どうしてそう何度も立ち上がれるの?
タイラントの戦いぶりは異常だった。信じられない光景だった。青年が飛び掛っていくと、消えるのだ。光の点となって消えて、そして光の点から突然あらわれて攻撃する。マジックのようだった。しかも光の点からあらわれるそのスピードは、一番最初に自分の目の前に突然あらわれたあのときよりもはるかに速くなっている。まさに瞬間移動だった。こいつ、戦いながら強くなっていっている。
ふと、ウォンがこちらを向いた。その瞳がなにかを伝えてくるかのようだった。守らなきゃ。どこからともなくその強い思いが湧き上がった。

ジルとウォンがみつめあっているのにナイフは気づいていた。あの犬野郎、どういうつもりだ?すると犬野郎はナイフのほうを向いた。その瞳が何かを伝えてくるかのようだった。女を守れ。そう言っているように思えた。
そのとき、ウォンの頭に鉄槌が振り下ろされた。アルティメットタイラントの強烈な一撃。頭と地面が砕け散った。

「うああああああ!」
ジルはアルティメットタイラントに向けてディスティニーマグナムを撃った。トルネードが空気を貫いてゆく。
アルティメットタイラントが走ってくる。強靭な脚力で地面を蹴って。弾丸を瞬間移動でかわして、走ってくる。
ジルは恐怖のあまり第二撃を撃てない。
アルティメットタイラントの右拳が振り上げられる。
そこへナイフが横から突進した。しかしアルティメットタイラントは少し態勢を崩しただけだった。ナイフはコンクリートの壁に激突したような衝撃を全身に感じていた。こいつ、人間じゃねえ。
アルティメットタイラントは両腕でジルとナイフを左右に吹っ飛ばした。軽トラックにはねられたような衝撃が二人を襲う。
アルティメットタイラントはジルに向かって歩いていった。
すべてを破壊するディスティニーマグナム。でも当たらなければ意味がない。パワーだけじゃ勝てない。でも、消える相手にどうしろっていうのよ?
すると、近づいてくるアルティメットタイラントを何者かが押さえつけた。ウォンだった。

ウォンの頭は砕け散っていた。そして、ナイトが目覚めたのだった。最強の犬、ナイトが。
よくもウォンを殺しやがって。あいつはなんだか知らんが、あの女を守ろうとしていたみたいだ。だから俺もあの女を守ってやるよ!
ウーグァン!!

ジルはアルティメットタイラントに狙いをつけていた。今なら、動きを封じられている今ならあの怪物を仕留められる。
でも、今撃てばあの青年も一緒に、、
そのとき、アルティメットタイラントの鉄槌がウォンの頭を砕いたシーンがよみがえった。そしてウォンの瞳がジルをみつめたときのシーンが重なった。
引き金は引かれた。運命を変える銃。ディスティニーマグナムが。

ジェット機のような空気を切り裂く轟音とともに銃弾が竜巻となって飛んでゆく。旋風が巻き起こり、すべてを吹き飛ばしてゆく。
アルティメットタイラントは見た。しかし、そして消えた。ウォンとともに消失した。
かわされた!

ナイフは見た。ウォンに羽交い絞めにされたタイラントが一瞬消えたのを。そしてトルネードが自分に向かって迫ってくるのを。
終わりだ。
そう思って手にしたのは運命を変えたナイフだった。潰れるリンゴ。潰れる自分。
シヌノハイヤダ
ナイフはナイフを振りかざした。腕に衝撃があり、閃光が弾けた。
銃弾は跳ね返った。

アルティメットタイラントは見ている。先にかわしたはずの銃弾が迫ってくるのを。眩しい光の渦が目の前に迫ってくるのを。
ウォン、だが中身はナイトはまだしがみついていた。だからこそ瞬間移動ができなかったのだ。一瞬消えることはできたが、別の場所へと移動することはできなかった。そして。

強烈な光が辺りを包んだ。ジルとナイフは目を閉じた。しかし目を閉じてても開けててもわからないほどにすべてが真っ白だった。

数十秒かけて世界が色を取り戻していった。
アルティメットタイラントとウォンがいた場所にはなにもなかった。肉のかけらもなかった。
すべてが量子のくずとなって消えたのだった。
運命を変える銃と運命を変えるナイフが二人の運命を変えた。世界の運命を変えた。


地球温暖化は深刻だった。大型台風や熱波はもちろんだったが、最も脅威だったのは新種のウイルスだった。熱帯性の致死性ウイルスが北上し、その間に独自の進化を遂げたのだった。既存の抗生物質がまったく効かないこの新種のウイルスは世界中で日に百万単位の人間を死に至らしめるという猛威をふるった。そしてこのウイルスは〝キラ〟と呼ばれ恐れられた。日本の首都は北海道へ移され、札幌は〝第二東京〟とされた。アメリカではメキシコからの不法な移民が急増し、さらにアメリカ人はカナダへと不法入国した。アメリカの首都はアラスカへと移された。
しかしもう逃げ道はない。ここでアメリカ大統領は決断する。温暖化を、いや熱帯化を終わらせようと。地球を動かすのだ。核爆弾を使って地球の軌道を太陽からほんの少し外側へずらす。それだけで地球の地獄は終わるのだ。
この〝地球を動かせ〟作戦は世界各国の支持を得た。灼熱地獄を終わらせるためなら核の使用もなんでも認めると。しかしアフリカ諸国が強く反対した。アフリカ諸国は大陸のいたるところに太陽電池を張り巡らせ、その豊富な太陽エネルギーを電力に換え、世界中に電力を輸出していたのだった。太陽エネルギーこそがアフリカのライフラインだった。アフリカ人は暑さにも強く、新種のウイルスにも免疫があった。屈強だったのだ。地球熱帯化で先進各国が莫大なダメージを受ける中、アフリカ諸国は発展し続けたのだった。地球熱帯化は天からの恵みだ、終わらせてなるものか。
アメリカは実力行使に出る。熱帯化で莫大なダメージを受けているとはいえ、アメリカは巨大軍事大国だった。キングオブパワーだった。国際採決を待たずにアメリカはアフリカに核爆弾を落とした。うるさいアフリカをだまらせるとともに、地球をずらしてしまうという一石二鳥の作戦だった。世界各国はそれを黙認した。熱帯化は速やかに終わらせたかった。核保有国は密かにアメリカに核爆弾を譲渡していた。アフリカに世界中の核爆弾が降り注ぎ、大陸はその原型をとどめない海に浮かぶ瓦礫の山々となった。
かくして地球熱帯化は終焉し、日本の首都は東京へ、アメリカの首都はワシントンへと戻り、季節に冬が戻ってきたのだった。

〝地球を動かせ〟作戦から数十年後、動植物が絶滅していくという〝デス現象〟が起こった。そのなかで密かに地球寒冷化が進んでいた。太陽活動が急に弱くなったのが原因だった。食物がなくなった世界で人間が人間を喰うという〝タイラント現象〟が起こるなか、地球寒冷化はかなり進んでいた。しかしタイラント化した人間たちはそれに気づかない。そして地球は何万年ぶり何度目かの氷河期を迎える。
そして今、、

ジルとナイフは氷の上を歩いている。北へ向かって歩いている。ジルはひたすら歩き続けている。ナイフはそれに無言でついていく。凍った海を世界でたった二人だけの人間が無言で歩いている。北へ、北へ。
二人は北極までやってきた。そして、北極点までたどりついた。ジルの手にはGPSの装置が握られている。数値は0、0を示している。
「やっと着いたのね。北極点。ゼロの地点。」
ジルは北極点を中心にして歩き出した。自転の向きとは反対方向に、時計回りに、ぐるぐると回りはじめた。
「私は、時間を戻すの。」
ナイフは思った。GPSはどれだけ正確なのだろうか。ジルが回っている中心が北極点よりちょっとでもズレていたら。、、いや、それでもいい。北極点だ。幻想なんだ。この世界には僕とジルしかいない。二人が北極点だと思えば、それはもう北極点なんだ。
ジルは北極点を回りながら、みるみると若々しくなっていった。疲れ果てた表情に生気が戻り、一回転ごとに美しくなっていった。それを見ながらナイフは、発情した。勃起した。そしてジルを押し倒した。僕は、愛を知りたい。
「ちょっと、まだ日が出てるじゃない。」
ナイフは無言のテレパシーを送って応える。北極は白夜といって太陽が一日中沈まないって聞いたことがある。だから、日が出てても今は夜なんだ。
幻想なんだ。夜だと思えば夜になる。世界には今僕たち二人しかいないんだから。
暮れない太陽の下で、ジルとナイフは一日中愛を交わした。食欲に抑えられていた数年分の性欲が一気に解放されたみたいに。すべてを出した。
しかし、ジルは再び目覚めた。ジルの食欲が。


氷の大陸にジルは一人佇んでいる。また一人ぼっち。
いや、今は一人ではない。孕んでいる。胎の中に宿る小さな生命を愛でている。いや、愛でられているのか。
一人じゃないよ、と聞こえている。
しかし、ジルは死ぬ。空腹と寒さで。


風が吹く音がしている。遠くでは波の音がしている。地球の音だけがしている。
卵の殻が破れるような音がした。凍りついたジルの胎を割って、名前もないベイベーが生まれた。
生まれたばかりなのにベイベーは一歳だった。自力で外へ出るのに一年がかかっていた。胎の中で母親の肉を喰い、成長していた。しかし胎から出た瞬間が出生だとすればそれでも〇歳か。年齢とはよくわからないものだ。ともあれ、こうして〇歳か一歳のベイベーが誕生した。
最初の人間か、最後の人間か。
ベイベーは母親の肉を食べて生きた。北極の寒さが長い間母親の肉を新鮮なまま冷凍保存していた。しかしやがて母親の肉も食べ尽くし、ベイベーは食べ物を失くした。空腹と寒さがベイベーを衰弱させていく。〇歳もしくは一歳のベイベーにとってこの環境は厳し過ぎた。
ベイベーはオーロラを見ている。最初の人間もしくは最後の人間がオーロラを見ている。たった一人、それでいて地球のすべての生命を含んでいるベイベー。一であり全であるベイベーがオーロラを見ている。
「あれは食べられるのかなあ」
ベイベーは言葉を知らない。だから非言語の感覚で。言語ではない〝空腹〟という生の感覚がベイベーを四六時中支配している。
あれは食べられるのかなああれは食べられるのかなああれは食べられるのかなあ
そしてそのまま、ベイベーの飢餓の感覚は氷に閉ざされる。冷凍保存される。ベイベーは〝飢餓〟という名の氷像となった。鑑賞者はいない。


地球のゼロの地点に、唯一であり全てである存在、〝飢餓〟が永遠より存在している。
空から円盤が降りてきた。そして円盤から光が伸びてきて、氷像を包むと、氷像は円盤へと昇っていった。

「この星の唯一の生命反応ですね。」
「だが、凄まじい生命エネルギーだな。この星の生命バランスはいったいどうなっているんだ?」
氷像はぬるま湯に浸けられ、ゆっくりと解凍されようとしていた。
「まだ赤ん坊じゃないですか?いったいどこから生まれたのでしょう?まさか、神様が創った最初の子どもなんじゃ、、」
「馬鹿野郎!神様なんているわけないだろう。我々のこの科学力は神様が創ったものか?いや、我々人類がつくったものだろう。どうせ、戦争でもやらかして生物がみんな滅びてしまったんだろう。全世界が氷河に包まれているのもどうせ核爆弾かなんかのせいだろう。」
「そうですかねえ、、」
そのとき緊急警報が鳴り響いた。宇宙船内が赤い光に染まる。
「あの野郎、なにしやがった!?」
二人の宇宙人は〝バスルーム〟へと急いだ。

ベイベーは目覚めた。何年ぶり?何百年ぶり?わからないが久々に目覚めた。そして目の前になにものかを見とめている。
あれは食べられるのかなああれは食べられるのかなああれは食べられるのかなあ
ベイベーは飢餓となり、目の前の宇宙人に襲いかかっていた。

宇宙人はバスルームに着くなり見た。仲間が喰われているのを。赤ん坊が大人を喰っているのを。
「なんなんだてめえはよお!」
宇宙人はベイベーにつかみかかった。しかし逆に押さえつけられた。赤ん坊とは思えないほどの力があった。
なんなんだてめえはよお、、

後から来た宇宙人は逃げ出した。目の前で仲間が襲われたのだ。押し倒されて、喰われ始めたのだ。
これは普通じゃない。普通じゃない。我々はなんてものを拾ってきてしまったんだ!
待てよ、食事に夢中になっている今なら倒せるかもしれない。相手は赤ん坊なんだし、武器を使えば余裕で倒せる。
いや、あいつは普通じゃない。赤ん坊じゃない。あ、悪魔だ。神様が送り込んだ悪魔だ!
どうすればいいんだ。逃げ出すか?どこへ?外へ。でも氷の世界で生きていけるほど我々人類は強くできていない。
そのときベイベーが入ってきた。赤い回転灯に照らされたその眼はまさに悪魔の眼だった。
「あ、あのー!待ってください!あ、あ、あなたは、その、お腹が空いているだけでしょう!わ、私を食べたらそこでおしまいですよ!もうありませんよ!」
宇宙人はまくし立てたが、ベイベーには伝わっていないように思われた。言葉が通じないのか。そう思い、宇宙人は大きなジェスチャーを交えて説明し始めた。
ベイベーを指差し、手の平をお腹の前に持っていき、円を描くように回して、
「あなたは、お腹が空いているのですね!」
自分を指差し、大きく口を開けて噛み付く仕草をして、腕を交差させてばってん、
「私を、食べたら、おしまいですよ!」
体を動かし、大きな声で話し始めると、宇宙人は次第に冷静さを取り戻し始めた。そして自分が助かる方法を思いついた。
自分を指差して、人差し指を上げた手をひとーつとやって、左の手の平に右の拳をぽんと叩いて、
「私に、ひとつ、提案があります!」
(※めんどくさいので以降、ジェスチャーは割愛。)
この宇宙船には時空転移装置というものがあり、ベイベーを過去へ飛ばすことができる。そうすればベイベーは仲間たちと会うことができるし、食べ物もたくさんあるだろう。宇宙人の説明はこんなものだった。
ベイベーは止まっている。
通じたのだろうか?いや、変な格好して騒いでいるなと思ってキョトンとしているだけか。とにかく、この悪魔を過去へと送り飛ばしてやらねば!
実際のところ、ベイベーは二人の宇宙人を食べて満腹だったのだった。そして急に眠くなったのだった。ベイベーはまだベイベーだった。

宇宙人はベイベーを時空転移装置へとつれていき、中に入れた。そして時間を適当に合わせてスイッチを押した。
これで悪魔とはおさらばだ。
時空転移装置は二重円筒構造である。中の円筒が超光速で回転しはじめる。すると円筒と円筒の間に雷のようなものが発生する。そして爆音とともに円筒全体が光に包まれて回転が止まる。ベイベーは消えている。
成功だ。

ベイベーは移送空間にいる。七色に揺らめく色彩の海に包まれている。光の反射が美しい色の旋律を奏でている。
もしベイベーがこの光景を見ていたら、はるか昔の記憶がよみがえっていたかもしれない。
あれは食べられるのかなああれは食べられるのかなああれは食べられるのかなあ
渇望し、それでいて絶対に手の届かないもの。それが目の前に、四方八方を包み込んでいる。
しかし、ベイベーは熟睡していた。


ベイベーは目を覚ました。森のなかにいた。
ベイベーの周りにある木々や草は枯れて、色を失っていた。死んでいた。
ベイベーは歩き出した。ゆっくり、とことこと。
すると、ベイベーの周りにある植物は次々と枯れて、色を失っていった。死んでいった。
花が枯れ、蝶が堕ちた。
ベイベーは思っている。言葉ではない、生の感覚で。
暑いな、ここは。。


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