ディスカバリー伊豆

伊豆の美しい自然と貴重な歴史物語を徒然なるままに気の向くままに綴りたいと思います。

大室山の二人妻伝説

2008-01-31 | 補足説明など


<大室山の二人妻伝説>

むかしむかし、神代の時代の話です。とても仲の良い姉妹の神様がおられました。姉の名前をイワナガヒメノミコト、妹をコノハナサクヤヒメノミコトと云いました。妹は絶世の美女、一方、姉の方はあまり器量がよくありませんでした。
ある日のこと、ニニギノミコトと云う若い男の神様が妹のコノハナサクヤヒメを見て、一目惚れし
てしまいました。そこでニニギノミコトはコノハナサクヤヒメの父親である大山祇神(オオヤマズノ
カミ)のところに行き、『下の娘さんを、是非、お嫁に下さい』と頼みました。オオヤマズミノカミ
は『姉妹はとても仲がいいので、二人いっしょなら差し上げましょう』と云うことで、ニニギノミコ
トは姉妹二人を妻にしました。

ところが、ニニギノミコトは美しい妹のコノハナサクヤヒメばかりを可愛がり、姉のイワナガヒメをだんだん遠ざける様になりました。そのことが原因で姉妹の仲はだんだん悪くなっていきました。やがて姉妹はお互い憎みあうまでになりました。喧嘩もする様になりました。それを理由にニニギノミコトは、とうとう、姉のイワナガヒメをオオヤマズミノカミのもとに送り帰してしまいました。

やがて、実家に帰ったイワナガヒメは自分が子供を身ごもっていることを知りました。そこで父親
のオオヤマズミノカミは娘の安産と孫の無事誕生を願ってイワナガヒメのために伊豆の大室山に産
所(産殿)を建ててやりました。そしてイワナガヒメは無事丈夫な赤ちゃんを生むことが出来たと云うことです。オオヤマズミノカミも無事孫の顔を見ることが出来、目出たし目出たしという事ですが、コノハナサクヤヒメとイワナガヒメは、その後も昔の仲良し姉妹には戻らなかったと云うことです。

<ちょっと解説>
この伝説は古事記や日本書紀を基に作られたものであると云われます。しかし、本によって話の内容が少しづつ異なっています。古事記(梅原猛著)を読んで見ました。その中では姉のイワナガヒメがニニギノミコトに離婚され実家に帰されたところまでは書かれていますが、身ごもったことやオオヤマズミノカミが産所(産屋)を建てたことの記述はありません。
また、古事記によると、若い男の神様のニニギノミコトが美しいコノハナサクヤヒメに会ったのは「笠沙(カササ)の岬(九州宮崎県延岡市の愛宕山付近と云う説と鹿児島県川辺群笠沙町の野間岬と云う説あり)」と書かれてあります。何故、オオヤマズミノカミはイワナガヒメの産所(産殿)を遠い遠い伊豆の大室山に建てたのか不思議です。もっともオオヤマズミノカミは全国の全ての山を司る山の神様であったので、全国何処の山に産所を建てても彼の自由であったとは思われ、夫ニニギノミコトから冷たく離婚させれ傷ついた可哀想な娘を気遣い、なるべく遠い国に住ませ、心静かに無事孫を生んでもらいたい親心から伊豆の大室山を選んだのかも知れません。

古事記には姉のイワナガヒメが子供を宿したことは書かれていませんが、逆に妹のコノハナサクヤヒメが身ごもったことが詳細に書かれています。コノハナサクヤヒメがニニギノミコトの前で『子供が出来ました』と云うと、ニニギノミコトは『たった一夜の夫婦の交わりで妊娠するわけがない。きっと私の子供ではないであろう。別の男(と不倫したとき)の子供にちがいない』と、コノハナサクヤヒメを責める話となっています。こんな神代の時代から女の不倫や男の浮気があったのだろうか?と一瞬考えましたが、むしろ当時は男も女も自由恋愛があたり前の時代だったと考えた方が妥当でしょう。浮気とか不倫と云う言葉はなかったものと思います。

余談ですが、その後、コノハナサクヤヒメはお腹の子が確かにニニギノミコトの子であることを身をもって証明するために死を覚悟で産所に火を放ち火炎の中で3人の男の子を産みます。3人の中の長男が有名な海幸彦(ウミサチヒコ)、三男が山幸彦(ヤマサチヒコ)になります。そして、山幸彦(ヤマサチヒコ)の子供の子供が初代天皇の「神武天皇」であると記されています。
即ち、コノハナサクヤヒメは神武天皇のひいおばあさん(great-grand-ma)にあたります。即ち、大室山の“二人妻”伝説に出てくるニニギノミコトとコノハナサクラヒメこそ現在の天皇家の祖先に当たると云うことになります。

<結びに一言>
全国にはたくさんの浅間神社があちこちにあります。その数約1,300と云われています。それらのほとんどの祭神は妹の方のコノハナサクヤヒメノミコトです。浅間神社の総本社である富士山山頂の浅間神社(奥宮)も、勿論、コノハナサクヤヒメノミコトが祭神です。しかし、この様なわけで伊東市大室山の浅間神社は、姉の方のイワナガヒメノミコトが祀られていると云う珍しい浅間神社です。 
大室山でイワナガヒメノミコトが無事子供を産んだということから安産の神様として崇められています。しかし、伝説で伝えられている様に妹のコノハナサクヤヒメノミコトとイワナガヒメノミコトの姉妹仲は微妙です。「大室山に登って富士山の美しさを褒めてはいけない」と云う言い伝えが残っているのはその為です。(サガミ選書“伊東の民話と伝説”)。「イワナガヒメノミコトが嫉妬(ジェラシー)し、褒めた人にはたたりがある」とさえ書かれています。
とは言っても晴れた日、大室山の頂上から見る山頂に雪を頂いた富士山の美しさには、思わず、
「わー、富士山がきれい!」、と叫んでしまいます。 その時は続けて、『勿論、大室山は伊東のシンボル、その美しさと魅力は富士山に負けませんよ!』、と付け加えることを忘れないで下さい。
きっとイワナガヒメノミコトも許してくれると思いますよ。



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