俊男は苦い顏で其後を見送ツてゐて、「俺(おれ)は何を此樣(こん)なにプリ/\憤(おこ)ツてゐるんだ。何を?………自分ながら譯の解(わか)らんことを謂(い)ツたもんぢやないか。これも虚弱から來る生理的作用かな。」
と思ツて、また頽然(ぐつたり)考込む。
薄暗いやうな空に午砲(ドン)が籠(こも)ツて響いた。
「成程お午(ひる)だ。」と呟(つぶや)き、「近(ちか)の腹の減(へ)ツたのが當前で、俺(おれ)の方が病的なんだ。一體俺の體は何故(なぜ)此樣(こん)なに弱いのだらう。」
俊男の頭の中には今、自分が病身の爲に家庭に於ける種々(さま/″\)なる出來事を思出した。思出すと其(それ)が大概(たいがい)自分の病身といふに基因(きゐん)してゐる。
「俺は何故(なぜ)此樣(こん)なに體が弱いのだらう。」と倩々(つく/″\)と歎息(たんそく)する。
「一體俺(おれ)は何(ど)うして何樣(こん)なに意固地(いこぢ)なんだらう。俺が惡く意固地だから、家が何時(いつ)もごたすた[#「ごたすた」に傍点]してゐる。成程俺は妻(さい)を虐(いび)り過ぎる………其(そ)ンなら妻が憎(にく)いのかといふに然(さ)うでもない。豈夫(まさか)に追(お)ン出す氣も無いのだから確(たしか)に然(さ)うでない。雖然(けれども)妻に對して一種の反抗心を持ツてゐるのは事實だ………此反抗心は弱者が強者に對する嫉妬(しつと)なんだから、勢(いきほひ)憎惡(ぞうを)の念が起る………所詮(つまり)俺(おれ)は妻が憎いのでなくツて、妻の強壯な體を憎むでゐるのだ。」
俊男(としを)は見るともなく自(おのづ)と庭(には)に蔓(はびこ)ツた叢(くさむら)に眼を移して力なささうに頽然(ぐつたり)と倚子(いす)に凭(もた)れた。
と思ツて、また頽然(ぐつたり)考込む。
薄暗いやうな空に午砲(ドン)が籠(こも)ツて響いた。
「成程お午(ひる)だ。」と呟(つぶや)き、「近(ちか)の腹の減(へ)ツたのが當前で、俺(おれ)の方が病的なんだ。一體俺の體は何故(なぜ)此樣(こん)なに弱いのだらう。」
俊男の頭の中には今、自分が病身の爲に家庭に於ける種々(さま/″\)なる出來事を思出した。思出すと其(それ)が大概(たいがい)自分の病身といふに基因(きゐん)してゐる。
「俺は何故(なぜ)此樣(こん)なに體が弱いのだらう。」と倩々(つく/″\)と歎息(たんそく)する。
「一體俺(おれ)は何(ど)うして何樣(こん)なに意固地(いこぢ)なんだらう。俺が惡く意固地だから、家が何時(いつ)もごたすた[#「ごたすた」に傍点]してゐる。成程俺は妻(さい)を虐(いび)り過ぎる………其(そ)ンなら妻が憎(にく)いのかといふに然(さ)うでもない。豈夫(まさか)に追(お)ン出す氣も無いのだから確(たしか)に然(さ)うでない。雖然(けれども)妻に對して一種の反抗心を持ツてゐるのは事實だ………此反抗心は弱者が強者に對する嫉妬(しつと)なんだから、勢(いきほひ)憎惡(ぞうを)の念が起る………所詮(つまり)俺(おれ)は妻が憎いのでなくツて、妻の強壯な體を憎むでゐるのだ。」
俊男(としを)は見るともなく自(おのづ)と庭(には)に蔓(はびこ)ツた叢(くさむら)に眼を移して力なささうに頽然(ぐつたり)と倚子(いす)に凭(もた)れた。