書評「精神世界の本ベスト100」

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● [40] 脳科学は人格を変えられるか?/エレーヌ・フォックス(文藝春秋)

2014年09月06日 | 書評
「なぜ、幸せになれる人となれない人がいるのか? その差は何が原因になっているのか?」──
 この本は、そうした疑問に答えるために、著者が最新の心理学と脳科学の研究をもとに解き明かした科学的「根拠」が紹介されています。
 エレーヌ・フォックス(オックスフォード大学教授)は、研究を重ねるうちに次のような結論に達したと言っています。
「世の中には、楽観的な性格の人もいれば、悲観的な性格の人もいる。私は、この2つの性格のタイプをサニーブレイン(楽観脳)とレニーブレイン(悲観脳)と呼んでいる。
 楽観脳タイプの人は、何が起きてもへこたれず、幸せになっている人が多い。その反対に悲観脳タイプの人たちは、いつも不安を抱きながら生きており、不幸な人生を歩む傾向がある。そして、この2つのタイプの人には、明らかに、起きた出来事に対して『認識のスタイル』が根本的に異なっている。
 驚くべきことに、そうした『ものの見方』の違いが、脳の活動パターン自体にも強い作用をもたらしているのだ。それぞれの人格が、脳の奥にあるこうした回路(神経ネットワーク)の微妙な変化とともに形づくられていくのである」
 彼女は、こうした回路は決して固定的なものではなく、脳の中でもいちばん可塑性が高く、変化しやすい部分だと述べています。
「ストレスや憂鬱な出来事が長期間続けば、あるいは幸福感や喜びが長期間続けば、脳の特定の部分に構造的な変化が起きてくる。ものの見方(心の癖や偏り)がわずかでも変化すれば、脳の構造は再形成される。そして、それは、人を楽観的にもすれば、悲観的にもする」
 このことは、困難や喜びに対する脳の反応を変えることができれば、性格を変えることができるということを意味している。だから、たとえあなたが臆病で不安がちな性格であっても、「生まれつきだから」とあきらめる必要はまったくないと言っています。

 ところで、彼女は楽観論者と悲観論者の違いについて、次のように語っています。
「悲観論者は『問題とは個人の力ではどうにもできないもので、決して消えてなくなったりしない。悪い物事は、どうやっても起こる。人にはどうすることもできない。自分でコントロールするなんてできっこない』と信じている。
 それとは対照的に、楽観論者は、起きた出来事に自分がある程度影響を与えられると思っている。彼らは『物事は最後にはうまくいく』という強い信念から行動する。だから、彼らは決して悲観的にはならない。たとえ問題が起きても、それを継続的な困難としてではなく一時的な障害として捉え、敢然と立ち向かおうとする。世界をあるがまま受け入れる傾向をもともと持っている彼らは、自分の未来とは、結局、自分が物事にどう対処するかで決まるとも信じている」
 フォックスが行なった疫学調査によると、楽観論者のほうが幸せになっている確率が圧倒的に高いという結果が出ている。これは、被験者の健康、仕事、収入、家族、生きがい、心の満足度等についての追跡調査を行なった報告にもとづいている。

 また、彼女は楽観論者を「真の楽観主義」と「安易な楽観主義」の2種類に分けています。
「真の楽観主義者は、ただハッピーな思考をするだけで良いことが起きるなどとは考えていない。彼らは、自分の運命は自分でコントロールできると意識の底で信じているのだ。
 これは、『ハッピーな思考はすべての問題を解決する』というアプローチとは違う。ポジティブに考えるかネガティブに考えるかはもちろん重要だ。だが、単にいつも『こうなってほしい』と期待するだけで実現に向けて行動を起こさないのは、真の楽観主義者とはいえない」
 フォックスのいう真の楽観主義とは、人が表層レベルで何を考えるかよりも、強い信念にもとづいて何を行なうかに関わっているという。深層から湧いてくる思いと行動だけが、脳の神経回路を持続的に変化させるのかもしれない。

 余談ですが、「富」についての興味深い研究結果があるので紹介させていただきます。
「真の楽観主義者は、自分の運命は自分でコントロールできる信じているので、感情のコントロールも上手な人が多い。被験者の平均所得をあわせて比較すると、さらに驚きの発見があった。感情のコントロールが上手な人は不得手な人に比べ、総じて非常に高い収入を得ていたのだ。
 ビリヤードのスヌーカーの元世界王者のスティーブ・デーヴィスはかつてこんな発言をしている。『成功の秘訣は、とんでもないことが起きても、それがなんでもないことのようにプレイできることだ』」
 もちろん、高い収入が幸せの絶対条件ではないとは思いますが、ある程度の経済的な余裕は幸せの必要条件になるでしょう。

 【おすすめ度 ★★】(5つ星評価)


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