三田文學 新人賞に応募する予定で、小説の原稿を書いています。
締切 2024年10月31日
枚数 400字詰原稿用紙100枚以内
小説のタイトルは、『ハート・デザイナー』
首縊りの老婆の部屋の中で、他に変わったことと云えば、ドライバーと3個のネジが洗面台の上にあったことです。それから前の晩にはよほど酷く煙草を吸ったらしく、豪華なブロンズ製の灰皿が吸いさしでいっぱいになっていました。全部がロシア煙草です。ところが、その中に、銘柄の違う煙草がたった一本残っていました。
「まあ、これはサンクトペテルブルグ産のベルモールカナールに間違いないわ」
「すると、この事件は自殺じゃない。これは実に巧妙に仕組んである、冷酷な殺人よ」
精神科医の滝川玲は、この事件を殺人事件だという。
「そうでしょうか?首を縊らせるなんて、そんな人殺し、変ですよ」
「いいえ、アンナさんの首縊り死体は、私たちが発見した時の様子なのよ」
「でも…それならどこから侵入して来たのでしょう?」
心理カウンセラーのココロ♡愛が質問しました。
「前の入り口からだと推察できるわ」
「でも、今朝は、ちゃんと鍵がかかっていましたよ」
「それは、死体を自殺偽装し終えてから、掛け直したのよ」
「でも、先生はなぜそれをご存じなのですか?」
「その跡がちゃんとあります。ちょっと待って、今、もっと不思議なことを見せてあげるから」
滝川玲は入り口のドアまで歩いていった。そしてそこの鍵を、精神科医独特の法則にかなったやりかたで調べました。また、ベッドもカーペットもビルトイン電気暖炉も死体も首縊りのロープも、順々に全部調べてみました。
「このロープはどこから持って来たものでしょうか?」
「これから切ったのよ」
ベッドの下にあった大きな綱の束を指さしました。
「老婆はむやみに火事を怖がりました。それで、もし火事が起きて階段が燃えるようなことがあった時のために、窓から逃げられるようにと云うのでこのロープを、いつも自分の傍に置いていたのです」
「なるほど、そういうことですか。そのロープが、アンナさんの生命を救うどころか、かえって奪ってしまったと云うわけなのですね」
ココロ♡愛は、考え深そうにそう云いました。
「この事件のだいたいの想像がつきました。この事件の中には、三人の人物がいると云うことです。ロシア人の父親と息子、さらにもう一人の人物についてはまだどんな人物なのか、手掛かりが掴めないでいるのですが。しかし、ロシア人の父子は、誰かこの病院のなかに加担した人物がいて、その者の手引きで、仕事をしたらしいと考えられます。」
ここで、滝川玲は、警察官に注意を促した。
「受付のナースを捕えてお調べになってください。最近雇用したばかりの女性です」
「ところが、彼女が見えないのですよ、今朝から」
住み込みで働く給仕人が、そう云った。
「おそらく、彼女はこの事件で重大な役目を果たしているのですよ」
この三人は、爪先で階段を昇って来たのでしょう。ロシア人の父親を先頭に、息子が後に続いて、それからナースが一番後から。それは、確かに足跡が重なり合っているのを見れば、疑う余地はなかった。彼らは、アンナさんの部屋の入り口まで昇って来たのです。しかし入り口のドアは鍵がかかっていました。そこで彼らは、どうしたのかと云えば、針金の力を応用して、うまく鍵を廻してしまったのです。と云うのは、ごらんなさい。この通り鍵の穴に引っ掻いたらしい跡があるのが分かるでしょう。これは針金を入れて廻そうとしたときについた引っ掻き傷に間違いないのです。
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/tbs/nation/tbs-1473436
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