易熱易冷~ねっしやすくさめやすく、短歌編

野州といいます。ことしも題詠blogに参加しています。

蔦紅葉

2007-11-26 20:04:56 | 朝日歌壇&俳壇から
蔦紅葉学成りがたく飽きやすく(中島やさか)

朝日俳壇から。大串章選。
これはまさしく俺を詠んだような句。蔦の紅葉をみて「少年老い易く学成り難し」を、ついでに飽きっぽい性までを思い至ったのだろう。そういえば蔦は「蔦の絡まるチャペル」でおなじみ、学び舎の象徴でもあるし。

思はれて朝(あした)錦木手に取らむ夜なべ仕事の愉しかるべし(野州)

きるきると

2007-11-25 07:54:38 | 自作
きるきると命を削る音立てて鉛筆削りで削るえんぴつ(野州)

角川「短歌」12月号公募短歌館で沖ななも選で佳作に引っ掛かった。角川は今年になってからほぼ毎月投稿しているが、なかなか掲載されない。選者とよほど相性が悪いのだろう、と思うことにしている。なのに掲載されるとうれしい。とことんおだてに弱い性格だな。
もうひとつ定期購読している「短歌研究」へは投稿はやめてしまった。最初に岡井隆選で3首採られたときはよかったが、その後1首ばかりが続いて4ヶ月ほどでやめてしまった。だめならだめでいいのにお情けのように1首だけ載るのが、どうにも面白くないのだ。

おくやまに紅葉踏み分け鳴く鹿を撃ち殺したる果ての鹿刺し
埒もなき結論を得て釜揚げのうどんゆっくり嚥み下しけり
ほろほろと豆腐のやうに崩れゆき僕とあなたに落ちてくる空

「塔」11月号から 3

2007-11-24 19:05:40 | 歌誌から
向日葵は東を向いて咲きますと先生言へりひまはり見にゆく(伊藤てる子)
壁白き迷路のごときをまた曲がる遥か彼方かトイレのドアは(村上次郎)
天皇も人なれば親子の確執などあるべし夏至に暮れ残る橋(数又みはる)
忘れゆくわれを許せよ 夜の蝿うなり上げつつ頭上を巡る(小澤婦貴子)
坂道を日傘のひとつ登りきて顔見えぬまますれ違いたり(関野裕之)
赤飯ののこりを桜の樹のもとに葬(はふ)つてをさな妻の行水(謎彦)
今度いつ来てくれるかと聞かれゐるカレンダー丸く反り返る病室(尾崎知子)
また君の何かを裁ちて夏の夜のわれはさびしい鋏でありき(澄田広枝)
蝉時雨とはじめて呼びし人の耳おもいつつ朝の食器を洗う(畑久美子)
戦闘の合間に食みし乾パンの噛む音不意にす駅の地下にて(藤本北夫)
聞き返しまた聞き返しみちのくの人らと話す沼山峠(薮田智子)
朝な夕な立つ台所感情の置き場のごとく茄子腐れをり(相澤豊子)
乾かない洗濯物に囲まれて種なし葡萄を食べる妻と子(新井蜜)
「被害者は死亡したのでこの見出し『死亡』にして」と声かけに行く(辻村千尋)
やましさの伴う母の不条理は子を真っ当に苛立たせゆく(永田聖子)
少しずつ我も空(くう)へと還るらしまず二の腕の線は崩れて
我よりもうるわしき字を書きおりし生徒の夢は女医か豆腐屋
あさがおの横にうわばき立て掛けて夏を迎える目印とする(中山悦子)
太陽がまぶしい分だけ濃い影をしたがえ夏は子を連れ去りぬ
十五時間のちに熨さるる敷布団担ぎて専業主婦の朝来る(沼尻つた子)
打ち始めいつも遅れて輪がのめる補助の古老の東京音頭は(早石恵子)
豪雨止みあの亀は置場移動され次の亀来ず面影橋あたり
ゴジラじゃんゴーやの肌をはじきつつセーラー服の少女つぶやく(原ゆきこ)
今ここにいない誰かを迷いなく斬り捨て声を合わせて笑う(吉岡昌俊)

「塔」11月号から 2

2007-11-22 21:13:37 | 歌誌から
コーヒーを一杯飲む間に同じこと三回話す母になりたり(吉川敬子)
「塔」が来て「短歌人」が来て「塔」が来てまた「短歌人」来て師走また来む(黒田英雄)
横を向きシャープな顔を夫は見せ「じゃあまた明日」と逝ってしまへり(古賀公子)
まぎれもない過疎地で甘やかされながらお墓の前でラジオ体操(柴夏子)
とめどなき母の話を聞く部屋に蝙蝠は子を置いてゆきたり(西川啓子)
まだ恋に遠くあるのかハムスター鈴虫と子は下宿に暮らす
くしゃみをしたいときは光のほうを見るのだとそうすると出ると母言いたまう(花山周子)
あまりにも強い私に蚊は低く高く周囲を旋回しおり
喉元から生みゐるごとし棟梁は釘を繰り出す「う」の唇(くち)をして(林はるみ)
初めての年金もらいこれからはその額ほどの言動をする(山本憲二郎)
少女らが笑い合う声さやさやとさやさやとしか聞こえぬ日あり(芦田美香)
宙吊りというあいまいな比喩はあれど風に揺れいる鉢のダバリア(荒津憲夫)
身のうち余韻のありて側溝の水音を遠き太鼓とおもう
底深く蛇行してゐる水ならむ音たつるところ羊歯を割りつつ(清水弘子)
夏祭りは順延にして雷の町 めうがの花が咲き出だしたる
月影のなき夜に思ふ うつむきて桶のまぐさを食む競走馬(常盤義昌)
うかららと並びてほたる見たることつぎのよに継ぐうつつのひとつ(河崎香南子)
夕路地にすれちがいたる縄電車朧の辻をふとも曲がりぬ(須磨岡繁)
傾きて山峡に立つ道標の壊(く)えつつ尚も北に対(むか)える
へんろ路はいま風光る秋ならむ鉦打ち行かな母の故里
木枯しのとよもし止まぬ空の下襤褸無慙の方哉はひとり
妻を捨て子供殺さず豆を炒る吾にやさしき日没がくる(関野裕之)
吾子の乗る小さき馬は俯きて巡礼のごとく馬場を巡れり
橋下の小さき影の飛び交うは蝙蝠なりと過ぎて気付きぬ
ひまわりが家族のように咲いている白く乾いた道のほとりに

「塔」11月号から 1

2007-11-21 23:14:07 | 歌誌から
挨拶をしかけて止めぬ乗り合わせしエレベーターの田中邦衛に(黒住嘉輝)
いま銀のこころは君をおもうため雨ふりかかる硝子に寄れり(江戸雪)
汗ばんだ手のひら拭いじっと見る迷えど汗ばむ手のひら寡黙(坂本佳子)
改札を抜けて気づきし百円の傘はあなたに寄付をしておく
二重どりの木綿糸にて雑巾をぐしぐし縫いしよわたしは強いか(柳詰美代子)

YちゃんにはYちゃんの発達あり この夏積み木を五段重ねる(桶田夕美)
影のなき草の遍路に降る光、ひかりは吾を許さずつつめり(総田正巳)
退職せし君がパワーで乗り回すハーレーダビッドソン飛ぶが如くに(栗山繁)
鯖街道の宿場の町にバスの来て片陰を出る媼のふたり(上田善郎)
ふる里の湖に向かひて憂さひとつ草矢に込めて放ちたりけり

紙風船ココロのやうに手にのせてぽんと打ちたり 浮きあがるんだ(河野美砂子)
りんご酢の壜が一本戸棚にてわたしの顔を暗く映せり(澤村斉美)
色深く塗られし地図の山脈を越えたる峡にマチュピチュはあり(溝川清久)
煮詰まれば蓋持ち上げて吹き上がる鍋の真っ正直をみており(池田幸子)
朝顔の咲き満ちる頃隣人の遠きラジオは告ぐ自爆テロ(紺屋四郎)

詰草にふわり落ち来るブーメラン風の死一片うすくよごれて(しん子)
そら豆の形の青磁の箸置を五つ並べて夏休みかな(高橋窓)
あの場面「あなどらないで」とよく切れる鋏のように言えばよかった(谷口純子)
後味はやっぱ瓜だね、など言いて果実くらえる河童と居たり(なみの亜子)

かろき夏シャツ

2007-11-19 19:44:59 | 歌誌から
人間もぬひぐるみだと思ふとき股のあひだに縫ひ目のありて(野州)

日の暮れの長き季節に逢ひしことなど思ひ出だせりかろき夏シャツ

夕立のし吹けるなかを自転車は二人乗りして傾ぎゆきたり

韃靼の風をし思へ捏ね鉢に蕎麦粉あまねく捏ねくりまはし

一度だけ試してみたり褒め殺し言葉足りずに褒めただけなり

薪整然と

2007-11-11 09:36:43 | 朝日歌壇&俳壇から
積まれたる薪整然と冬に入る(伊藤法子)

釣瓶落し偽書ある部屋の薄明かり(小島敏雄)

セザンヌの絵のごと秋果盛りにけり(岡本輝久)

捕はれの猪の精悍なる哀れ(木村清生)

今日も朝日俳壇から。俳句と比べると短歌はしゃべり過ぎ。いい歌はあるのだが、これらの俳句の余韻の深さの前には敵うべくもない。
1句目。山村の冬支度。板塀際に整然と積み上げられた薪、山から冷気が下りてくる。
2句目。「偽書」の衒い。
3句目。たった17音の定型で直喩。大胆。

徒然をふふみて甘し次郎柿秋のこころの種を吐き出す(野州)
柿一果盗みし罪を逃れ来て送電線の風鳴りやまず


この町の

2007-11-05 20:39:48 | 朝日歌壇&俳壇から
この町の人となりけり秋祭(山本幸子)

露寒や一番バスの来る時刻(藤本京子)

今週も朝日俳壇稲畑汀子選から。
1句目。稲畑の評-この町に住む人たちによる秋祭。他所から越して来て馴染みの少ない作者なのであろうか。秋祭に参加することこでようやくこの町の人となった-はもっともで当たり前だけど、それだけでは言い尽くせない情趣がある。物寂しさをともなう秋祭りとともに人生の終の住処としてこの町の人となったのだ。人生の寂寥感までも感じる。
2句目。「一番バスの来る時刻」がいい。遠くから近づいて来るバス。望遠レンズで遠近を圧縮したようにゆっくりゆっくり近づいて来る情景が浮かぶ。