yanojirusiの株日記(ブログ版)

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

揺れ動く数字の波

2009-01-18 00:37:13 | Weblog
○ 「波のうえの魔術師」石田衣良・著 より No.5

『 それから数日おれはディスプレイ上で、小塚老人の売買記録の研究に励んだ。
まつば銀行六十三万株分のポジションをつくるまでに、小塚老人は三十七回の細かな分割投資を繰り返していた。
そのまま株式売買の教科書に使えるような見事なものだ。
最大でも一回の投資は五万株だった。それはおれに彫刻の制作を思わせた。
あそこを削り、こちらをつけ足し、離れて見て、再び全体のバランスを再構成する。
三か月にすぎないが実際に自分の手で建て玉の操作をしたことのあるおれには、小塚老人の迷いや確信、失敗や手直しが手に取るようにわかった。
魔術師は揺れ動く数字の波に感覚をぴたりと沿わせ、自分自身の欲望を完璧といえるほど制御していた。
例えば六月のなかば、最初の売り玉を建てるとき小塚老人は二千株から開始している。
それも二日後株価が上昇傾向を見せると、すぐに買い戻して手を引いてしまう。
結局この週三回目の売り建てが、最終的には売りの本玉六十万株まで成長することになるのだが、一億六千万円を動かすことになるジジイが六十万円強の信用売りに迷って、三度も張り直しているのだ。
見あげたていねいさと臆病さだった。 』


「欲望を制御」「ていねいさと臆病さ」、大切ですね。