子育てカウンセラー・作家:山本勝美ブログ「子育ておしゃべりコーナー」

子育て・心理カウンセラー山本勝美のブログ。子育て・介護・障害者などの悩み相談も。

“粗暴”なわが子とこんなふうにつき合いました

2008年10月18日 | Weblog
(まだ当分仕事に忙殺される日が続きそうです。
そこで、申し訳ありませんが、
在庫(?)の文章を掲載して行きますので、
よろしくお付き合い下さい。

以下は拙著「3歳児は困ったちゃん?」の原稿の素案でした。)




(ケース6)
 保健所の1歳6ヶ月児健診でお会いしたケース。
1才7ヶ月の男の子T君。両親と3人暮らし。


(第1回)ーー“ものを投げる”“冷蔵庫を開けて中のものを出す”
にはらはらし、叱ってばかりーー

 以下はママのお話です。

「この頃なんだかいろんなものを投げるんです。
手にするものは何でも投げちゃいます。
まだ小さくて善悪の判断がつかないですから、
食器など投げないか?とかひやひやしてしまいます。
投げたものがまた窓ガラスに当たらないか?それも心配で・・・

ですから毎日“あぶない!”“だめっ!”って
言い続けてるんですけど全然直りません。
それどころか、なんだか余計にひどくなってきちゃって・・・

どうしたらいいでしょう?」
「ああそうですか。それは気が気じゃないでしょうね」

「ええ、それから冷蔵庫もしょっちゅう開けて
中のものを全部出しちゃうんですね」

 よくうかがっているうちに、ものを投げるとき
お母さんの顔を見てから行動に移るとのこと。
また冷蔵庫は「やめよう」と止める程
かえって開けたがる、とのことです。            

「ご様子はだいたいよくわかりました。
これまでのT君とくらべるとずいぶん大きな変わりようですから、
お母さんもびっくりなさったんだろうと思いますよ。

でもこの時期にはだんだん物事がわかってきて、
見るものさわるもの、なんでも手がけてみたくなる、
試しにやって見たがるみたいですね。
好奇心が旺盛になります。
そしてそういった探索行動をするからこそ
いろんなことを体験して知ってゆけるわけですね。」

「するとこういうことってうちの子だけじゃないんですか?」

「そうなんです。
もちろん好奇心がどんな形になって現れるかは
お子さんによってちがいますけど、
でもこの頃にT君みたいに投げる子は多いですよ。」
「そうですか・・・」

「それから自我の芽生えっていいますか、
平たく言って“我“が強くなってきますから、
もうお母さんの手を借りずに自分の力でやってみたい。
そんな気持ちでいますから人に止められれば
余計に反発してこだわり続けるわけですね。」

「そうですね・・・以前は素直に聞いてくれた
とってもいい子だったのに・・
このままでは先行きどうなるか、
すごく心配になってきたものですから」

とお母さん、日頃の自分を見つめ直し始めました。

 「育児書には“三つ子の魂百まで”という諺があるように、
3才までに子どもの性格は決まってしまうって
書いてあったものですから、
今から直してゆかないと、と思って」

と振り返りながらおっしゃいます。


「3才までに性格が決まってしまうという意見には
なんら科学的根拠がありません。
ですからそういう説に批判的な立場のひとから
“3歳児神話”とも呼ばれているんです。」

 私はそこで「しばらく放っておいてみてはいかがです?
あぶないものを全部しまって、
かりに投げてもそ知らぬ顔でやり過ごしてみると、
お子さんは意外と投げにあきてしまうものです。
冷蔵庫も出されて困るものは入れないで、
しばらくは好きなように開け閉めさせるのもひとつですね」

とアドバイスしました。

「はい」というわりと歯切れのいいご返事でこの日は終わりました。  




(第2回)(1ヶ月後)ーー全く干渉せずに放っておいてみたらーー

 さて次の相談日にはちょっと驚きました。

 お母さんは先月の相談で気持ちに整理がつき、
1ヶ月間全く干渉せずに放っておいてみたそうです。

そうしたところ、ものを投げる、は3,4日したらもうやめてしまった。
それから冷蔵庫もからっぽにしておき、
開けたいままにさせておいたところ、
2,3日で開けることもまったくなくなったとのことです。

 「このあいだのご相談で、
毎日子どものいたづらに振り回されちゃっていて、
はらはらしながら、3歳までにはなんとかやめさせないとなど、
どこかでプレッシャーを感じながら、
来る日も来る日もそのことだけに
かかりっきりになっている自分がいるという感じがしたんです。」

 人はこんなふうにすっきり気持ちの整理がついて、
日頃の生活態度を180度変えるなんていうことは、
簡単なようでなかなか実行できることではありません。

私は最後にこう励ましました。

「お子さんの気持ちは成長盛りの時期などには、
変化がはげしくって親の理解が
なかなか追いつかないことがあります。

でもこんなふうに適切に理解してあげることで、
お子さんにもお母さんにもこれだけの大きな変化が生まれましたね。
 これからもいろんなことがあると思いますが、
この貴重な体験を大事にして、やっていってくださいね。」



(コメント)ーー気づきの速さが印象的なケースですーー
 
T君は(ケース1)のK君よりも1歳半ほど年下ですが、
もう自我が芽生えてきています。
まだ幼いですが、お母さんと張り合っている点では
二人は似かよっています。 

 K君の場合はトイレット・トレーニングをめぐって、
そしてT君の場合はいたづらがだんだんと
エスカレートしてきたことをめぐって、
と問題は一見まったく違って見えますが、
背景にある親子のつっぱり合いから
問題が複雑になっているという面ではじつは共通しているのです。

 T君のお母さんはたった1回の面接で
自分とわが子の葛藤関係がよく見えてきて、
しばらく放っておこう、と気持ちを切り換えることができました。

このあたりの気づきの速さと
1ヶ月間に到達した問題解決の見事さにおいては、
ぼくの40年にわたる臨床経験のなかでも
数少ないケースで、今もなお印象に残っています。

 子どもの性格が3歳までに決まってしまうという考え方は
俗説みたいなもので、
学術の世界で信頼すべき理論として
なんら確立されているわけではありません。

“三つ子の魂百まで”という諺の意味も
恣意的に解釈されていると言えましょう。

 最近の心理学では、「生涯発達の心理学」という
新しい視点が関心を呼んでいます。

従来の「発達」に対する考え方が
乳幼児・児童期に偏り過ぎていたという反省がなされ、
「ひとの発達は生涯続くもの」として見直されてきているのです。


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