旅を始めたころの不可避な印象は、なにゆえに完全無知の者からわけもなく親しい笑顔で挨拶をしてくるのか。唯、如在ないだけなのか、それは諸国を重ねるうちに程なく判った。最たる理由は日本人の国民性がもっとも大きいと思う。控えめで穏やかであたりが柔らく付け入り易い側面である。いうべき時にも苦情や抗議をはっきりと伝えない、この怠慢さを相手はとても好む。これは決して美徳ではなくふしだらなだけでむしろ不道徳である。自国ではそんなに奥ゆかしいわけではないだろうに。
主張するその内容が妥当であればこっちの言い分に従わざるを得ない。自己の立場を殺してまで好感度を上げて何の価値があろうか。云うべきことをきちんと伝えるのが善なる行為である。己を無暗に曲げてはならい、その点で筋を通す吾人の様な者は好かれず、評価は低いが他のみならず自をも理不尽な扱いをしてはならない。