
その見識の広さでしっかりとした基盤が作られた
『家康、江戸を建てる』門井慶喜 祥伝社 2016年 1800円 400頁
当初、見間違えて、家康、家を建てると思っていたのだが、江戸の町をどう作り上げたかが軽やかな筆致で描かれている。様々な職人の心情やその行動を描きつつ、彼らをうまく動かしているのが家康で、彼はあれこれ細かい指示はしない。重要なことだけ伝えてあとは現場に任せる(が、気に入らなければ即、却下。作り直しもあり得る)。
そんな態度は最終的に江戸城の天守閣作りにも表れていて、自分の跡目を継がせる秀忠(家康は当初、さして期待していなかったものの、次第に適任者と考え出す)に、世間では一般的な黒塗りの天守閣を白にしろと命じる。なぜわざわざ目立つ色にするのか?そんな問いの正解を考えていく・・・。
そうやって考えさせることで、あるいは問いを出した人間以上の解が返ってくる場合もあるのだろう。
町作りの設計者や職人も様々だ。何もしないくせに首尾よく成功すれば手柄は全部自分のものという人、家康にはこびへつらうけれど、職人はいくらでも替えがいるとばかりに横柄な者、臆病を信条にしつつ立派に成し遂げる者、溢れる野心をむき出しにする者とそれを利用する者、仕事のために養子(結局、それ以下の猶子扱い)となるも劣悪な条件を呑まされ泣く泣く受け入れる者、却下されても、それでも良いものを、と必死に懇願するもの(本来は正しい進言で、家康にも分かっていたが、築城が時間との闘いで妥協せざるを得なかった)などそれぞれの事情がある。
いまはスクラップ&ビルド(五輪関係でも)を簡単にこなしてしまうが、何百年と続いた基礎作りを考慮に入れて欲しい(すべてOKではなく、時代的に変えなければいけない面もあるけれど)。
治水を(飲料水も含め)整え、貨幣を統一し、堅固な石垣を組み、天守閣を作る。当時の様子を現代の様子に言い換え喩えることもあり、分かりやすい。
★★★+