難解な問題である。
イングリス氏は登山中凍傷に遭い両足を切断するというハンディを背負いながら、再び山を目指しチョモランマ(エベレストなどと欧米の奴ら迎合して呼ぶ必要はない)登頂に成功した。もはや人心を超えた登山の鬼である。鬼である以上余計な情けは無用という論理も成り立つ。
チョモランマ登山はスポーツではなく冒険である。命を賭して行うというのが条件である。途中で遭難し死んでもやむなしという覚悟が必要なのだ。その意味では見捨てられて死んだデービッド・シャープ氏も別にイングリス氏を恨んだりはしないだろう。
と、それだけならばいいのだが、記事を読むとこのチームは40人もいたみたいだ。言葉は悪いがイングリス氏は御輿で、担ぎ手がそれだけ必要だったと言うことか?
要は倫理と金の問題である。常識的に考えれば40人もいれば、一人の遭難者を救助する余裕はあったと考えられる。しかし、それを不可能にしたのは金である。
つまり、40人も登頂させるプロジェクトには莫大な経費がかかり、成果を出してスポンサーを納得させなければならないのだ。
失敗は許されない。破産してしまうからだ。個人的動機ならば、救助したと思うが、すでにこの企画はエンターテイメントになっていた。
シャープ氏を救助しつつ企画に成功していれば、美談だけではなく営業的にもすごいことになったと思われるのだが、それを拒んだチョモランマはやはり怖ろしい山だ。70歳過ぎの年寄りが登頂したり、集団で登頂したりして、ゴミは散乱し高度の割には登りやすい山として最近はすっかり富士山化してしまったが、とても素人が手を出せる山ではないことは確かだ。
(記事)
15日に、両足を切断した人で初めて世界最高峰のチョモランマ(8、850メートル)登頂に成功したニュージーランド人のマーク・イングリスさん(47)ら約40人が、頂上付近で倒れている男性に気付きながら救助せず、登山を続けていたことが分かった。男性はその後、酸素欠乏で死亡した。
1953年に世界で初めてエベレストを征服したニュージーランドの登山家エドマンド・ヒラリー卿(86)は、男性を見捨てたと非難しているが、イングリスさんは「自分ができることは何もなかった」と反論。登山家の倫理をめぐり議論を呼んでいる。
男性救助せず登山続ける エベレスト登頂めぐり議論
(写真)ネパール政府HPより引用