次に気がついた時、Pは典型的な漂流物体となって見たこともない海岸に打ち上げられていた。次第に頭がはっきりしてくるにつれて、こんな到着の仕方も満更悪くはないという気がしてきた。考えてみると、遠い国から筆舌に尽くしがたい艱難《かんなん》辛苦を乗り越えて目的の地を目指した宣教師が、半死半生の遭難者として海岸に打ち上げられているのは劇的な到着の仕方だと言えなくもない。Pは用心深く薄目を開けてまわりの様子を窺った。万一、漂着したところが蛮族の国で、身動きしたとたんに槍衾《やりぶすま》を構えた蛮族どもに刺し殺されるという目にでも遭ったら大変だと頭を働かせたのである。というのも、あたりには明らかに人の気配がしていたし、P自身は、首や腕のまわりに服の切れっぱしが申訳程度に付着していたほかは、およそ無防備な全裸の状態であったから、しばらくは気を失ったふりをしているのが無難であった。少し赤みを帯びて見える太陽から穏やかな陽射《ひざ》しが降り注ぎ、季節で言えば春から夏にかけての、軽ろやかな暑さと柔らかい風が肌《はだ》に快い頃《ころ》のよく晴れた午後で、耳には波の音が優しく聞こえている。初夏の海水浴のあと砂浜に寝そべって時を過ごしているような錯覚に陥りそうだった。心地よさの余りPが思わず伸びをしたとたんに、まわりでざわめきが起こった。生死不明の異人の水死体が突然生きている証拠を見せたというので見物人がざわめいたようである。Pは今昼寝から覚めたという風に、もう一度伸びをし、反転しながら、抜け目なくまわりの様子を観察した。
数十本の裸の脚が見える。林立した脚の上の方も裸である。それでおのずから明らかになったのはこの脚の主の性別であって、それはいずれも女だった。要するにPは数十人の女の裸体を仰臥《ぎようが》した姿勢で見上げることになったのである。まるで林立する塔を地上の広角カメラで見るような具合であるから、ある種の壮観には違いなかった。塔の上についているはずの顔については、この角度からは詳しく品定めすることはできない。その代わり、塔の脚が一つに合するところ、あるいは塔の胴が二股《ふたまた》に別れるところ、つまり女性のもっとも女性らしい部分、ただし女性なら誰《だ
れ》をとってもあまり変わりばえのしないその部分を、気が済むまで克明に観察するのに絶好の視角に恵まれていた。そこで観察の結果、Pは暫定《ざんてい》的に一つの結論に達したのであるが、Pの推測によると、この女たちはそれほど若くはなく(ということは例の部分以外の観察に負うところも大きかったが)恐らくは既婚の経産婦で、やや骨太の逞《たくま》しい肥満気味の体型をしており、それは年齢と職業上の経歴によるものであると思われた。つまりPはこの女たちを海水浴に来ている若い娘の一団とは見ず、海岸で仕事をしている漁師の女房《にようぼう》連か海女《あま》ではないか、と見たのである。この推定は当たっていたことが間もなく判明するが、その前にPは不覚にも最初に出会ったこのアマノン国の、それも女の住民の前で、人前でみだりに表わすべからざる生理現象を披露《ひろう》してしまった。何しろまわりには裸の女が立ち並んでいて、それを仰向けになって見回すのであるから、この失態も止《や》むを得ないと言えば言えたのである。下半身が衣服に隠されていなかったのも不運であった。Pは狼狽《ろうばい》して上半身を起こし、異常な現象を呈している部分を両手で隠そうとしたが、生憎《あいにく》Pの持物は簡単には隠しきれないほど雄大なものではあったし、女たちが感嘆の声とともに輪を縮めてくる気配だったので、Pはここは天衣無縫の態度を持することが得策であろうと判断して、不自然な挙動は慎むことにした。女たちは口々に何やら言いながら近づいてくる。アマノン語のようでもあるが、正確には聞きとれない。Pは最初それが卑猥《ひわい》な感嘆の調子を帯びているかのように聞いたけれども、本当は当惑と非難の混った声を上げながら、好奇心に動かされて、女たちはこの思いがけない異変を見定めるために輪を縮めてきたらしい。その時Pは、女たちが腰のまわりを布で覆《おお》う習慣がない代わりに胸を女らしい色彩の布で巻いて乳房を隠していること、そして外見からはそれほど個性的に見えようのない例の部分は、それがこの国の婦人のたしなみであるのか、そこを飾る毛だけは思い思いの形に整髪し、金色、銀色、あるいはにんじん色などに染めていることに気がついた。なんともおかしな見物《みもの》で、大変印象的であった。
やがて一人の女が大胆にもPの前に来てしゃがみこんだ。
「どこから来たの、あんた」
それはPにも理解できる紛れもないアマノン語だったので、Pは狂喜して、いささか自信の持てるアマノン語を駆使してしゃべりだした。
「私は遠い遠いモノカミの楽園から、アマノン国の皆さんに神の教えを伝え、病める人々を救い、アマノン国にモノカミの楽園を実現するために派遣されてきたのです」
そう言ってPはうやうやしく伏せた顔の前で右手を独特に動かし、モノカミ教徒が神の名を呼ぶ時にするしぐさをして見せた。これはいかにも敬虔《けいけん》そうな印象を与えるも