バイアス調整の実際
バイアス調整の対象は、電圧可変型の固定バイアス方式を採用しているパワー管(EL34,KT88等)です。前述したように、電圧可変型では、バイアス専用電源からパワー管に供給されるバイアス電圧を可変抵抗器で可変することができます。
バイアス調整の原理は非常に簡単で、上記バイアス電圧を可変しながら、パワー管に流れるプレート電流を所定の値に設定することです。
具体的には、どうやってやっているのでしょうか。以下に説明する方法は、電子計測の最も基本的で必要最低限の構成によるものです。
バイアス調整に最低限必要な使用機材
- 低周波発信器(低周波信号発生用)
- 電圧測定器(バイアス電圧測定用)
- 電流測定器(プレート電流測定用)
- ダミーロード(擬似スピーカー)
- オシロスコープ(入出力波形観測用)
- 歪み率計(出力波形の歪み率測定用)
低周波発信器は、ギター信号、オーディオ信号等のダミーとしての低周波信号を発生するもので、様々なレベルの波形(正弦波、方形波等)を真空管アンプに入力する役目をしています。
電圧測定器は、いわゆる、テスターで、バイアス電圧を測定する役目をしています。電流測定器もテスターで、パワー管を流れるプレート電流を測定する役目をしており、たいていは電圧測定器と兼用です。
ここで、プレート電流を正確に測定するには、テスターを回路中に介挿しなければならないため、非常にやっかいです。これに対して、電圧を測定するには、回路に対して、並列にテスター棒をあてるだけで済むため、非常に簡単です。このことを利用して、プレート電流検出用の抵抗(たいてい、1オーム)が予め実装されていタイプの真空管アンプでは、当該抵抗に生じる電圧をテスターで測定し、この電圧と抵抗値をオームの法則(電圧=電流×抵抗値)に適用し、計算により、プレート電流を算出するという方法があります。
ダミーロードは、スピーカーに代えて、スピーカー端子に接続される抵抗で、バイアス調整時に当該スピーカーの役目をしています。なぜ、ダミーロードを使うかといえば、スピーカーを接続したままでバイアス調整すると、うるさいからです。
オシロスコープは、入力波形および出力波形を目視確認するためのもので、モニターに各波形を表示します。これにより、歪み具合を感覚的に把握することができます。
歪み率計は、入力波形に対する出力波形の歪み率を正確に測定する役目をしています。
実際の手順自体は、非常に簡単です。大まかな流れはつぎの通りです。
- 上述した各機材を真空管アンプの各部に接続した後、プレート電流が最小になるように、ボリュームを回しバイアス電圧を調整する。パワー管を交換したときに、大電流が流れる事故を防止するためです。
- 電源をオフにして、パワー管を新品に交換する。
- 電源をオンにして、定常状態になったら、プレート電流が所定値となるように、ボリュームを回し、バイアス電圧を調整する。
- オシロスコープおよび歪み率系で歪みが所定値以下となっていれば、バイアス調整終了。歪みが所定値より大きい場合には、バイアス電圧を再設定し直す。
免責事項
バイアス調整には、電子工学の基礎知識が必須で、かつ、活線作業による感電の危険性が伴います。なお、本ブログの内容に基づいてバイアス調整を実施される場合には、電子工学の専門書等により知識、技能を向上させた上で、自己責任で行ってください。バイアス調整に伴う、事故、火災等の一切について、ヴィンテージサウンド®は責任を負いかねます。
(次回に続く)
以上
2009.6.23
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