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ドイツ戦車軍団全史 フォン・メレンティン回想録

2014年06月19日 | book
〝総統指令第一号、

 将校および権限を有する当事者は、その特定された業務の遂行以上に絶対的に必要とされること以上のことを知ってはならない。〟



 著者はドイツ軍機動機甲師団の参謀で、ポーランド、フランス、バルカン半島、トブルク、キレナイカ、アラメイン、スターリングラード、ロストフ、クルスク、キエフ、ウクライナ、ライン河、ルールとほぼ全戦線を転戦し生き残っている。有能な将軍の元を転職し、かろうじて全滅することはなかった。なので本書を記述した時でも戦争に勝利する場合の条件を未だに確信している。

 大戦でドイツが完敗したのはクルスク戦車戦としており、作戦の実現性を軍上層部も疑っていた。前年の第6軍が包囲全滅したので戦車戦にて同様に突出部を包囲殲滅することを至上とした。はっきり言ってソ連軍戦術の模倣であったと思う。新型戦車についてもソ連戦車のコンセプトをドイツは模倣している。業務が遂行しえない事業について知ってはならない軍隊の、敗北の端緒なのだ。自由を持って不自由を得た国の、哀れなる狂った偶像とそのおもちゃの兵隊の末路なのである。

 グデーリアンやルーデルなどの著名な戦術家たちは戦後直後に自己の戦場についての体験を記している。著者は老いて死に直面し、過去の死の戦場を勝利した時を回想するのだ。他者からは無意味な苦労と、どうしようもないことの才能の発露と認定されるだろう。著者は幸運にもロンメル将軍やら、バルク将軍やら、モーデル元帥と違って歴史に記録されることはない。死に直面し体を支えることも難しくなっていても、過去の記憶だけは鋼鉄の装甲を纏った虎戦車を駆っていた頃と、何も変わってはいないのだ。それが、変わり得ることのない人間の、本質なのだから。