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西暦前進2307年→

期間限定の機動戦士ガンダム00、刹那×マリナのテキストサイト。

刹マリSS(MS戦)

2008-02-10 15:33:05 | SS

















旧約聖書偽典エノク書は語る。


人に惹かれ、神の御業を人に授け、堕天使となった天使がいた。

それに怒った神の意を受け、大洪水の引き金を引いた天使がいた。


文明の名の下に、神を否定し、軌道エレベータと言う名の神に弓引くバベルの塔を築き上げた神亡き大地に機械の体を以って舞い降りた天使達。



人類に齎すのは、救済か。粛清か。








滾る血はまるで沸騰しているようだった。
操縦桿を握る手にこれ程までに力を込めた事はない。
その感情は刹那個人の憎悪ではなく、もっと深くに根付く所にある人としての尊厳そのものを踏み躙る行為への人としての純粋なまでの怒りだった。

宗教、人種、貧富、エネルギー、イデオロギー。
人が人と争う数多の理由に“否”を突き付ける為に始めた、戦争根絶の為のラグナロク。

痛みを無くす為に痛みを齎すその矛盾を考え続け、それでいいのかと心の何処かで迷いながらも、それでも、と力を振るっていたのは刹那だけではないと確信を持って言える。
その迷い、戸惑いながらも、それでも、前へと進んでいけるのがガンダムマイスターである、と。

だが、こいつらは違う。

戦争根絶という言葉を建前以外のものにしかしていない。振り撒くのはただの痛み。そこから先など望めない破滅的な苦痛にしか過ぎない。


「エクシア、目標を補足。三機のガンダムスローネを紛争幇助対象と断定し、武力介入を開始する」


やっている事は同じなのだ、と。お前らも変わらないのだ、と。

例え、世界にそう告げられたとしても、断固として否と答えなければならないのだと刹那はその双眸を険しくした。
ここでこいつらをガンダムだと――神だと認めてしまえば、何にも応えず、存在すら示さなかった神の下、その幼い命を散らせるしかなかった少年の真っ直ぐの眼差しにまた何も応えられず、ただ悪戯に命を失わせる暗い彼岸へと見送る事しか出来なくなる。

世界の歪みを問われ、その答えに手は届かなくとも、『それでも』と言えるだけの強さを持って、手の伸ばし続ける事が大切なのだと言った人がいた。

今ここで、座して見て見ぬ振りをし続け、心の中で俺はあいつ等とは違うと唱えるだけでその眼差しに応える事が出来るとは刹那には思えなかった。

それでいいとは決して頷いてくれず、悲哀が似合い過ぎる儚さが秀麗さを色濃く薫らせるマリナ・イスマイールの容貌を脳裏に溶かした刹那は神の意を駆る天使に向かって、否の声を向けた。


「エクシア、目標を駆逐する……!」


吹き入れた躍動に応えるようにエクシアは、闇の帳を切り裂き、顕現した陽光にその白色の機体を輝かせながら、彼女の蒼い瞳を移した空の色を濁す血の色の悪意を撒き散らす天使へと挑んでいった。




神を否定した神亡き大地で、堕ちた天使と神の意を代る天使が剣戟を響かせた。








next……?








18話ラストの余りの刹那の格好良さに一気に書いてしまいました(笑)

もう、本当に刹那頑張れ……!!

初・刹マリ的MS戦と言えるかも知れません。


刹マリSS(シリアス)

2008-02-10 00:28:17 | SS




















月夜が照らす薄い帳の淵を揺らした気配にマリナは慌ててその姿を追った。
寝室の窓はあの日と同様に開け放たれている。
それは、祈りや願いにも似ていたのかも知れない。再び、彼が自分の前に姿を現して欲しいという祈り。
彼らの遣り方、戦争によって戦争を止めようとするその行いや思想には決して賛同は出来ない。
だが、それでもわたしは――彼に、刹那にもう一度逢いたいと願ってしまう。

夜気を揺らして現れた少年は逸らす事を知らない真っ直ぐとした視線を月夜の中でも輝かせ、マリナへと注いでいた。
あの日の夜の何ら変わらない刹那の様子に熱い安堵が込み上がり、その突然の心の暴虐に戸惑い、抗う裡に容貌に似つかわしくない低い男性的な声が「……何で、泣くんだ?」と呟いていた。
戸惑い、声を上げて自身の頬に触れれば、湿った感触が指先に走り、マリナは慌てて涙を拭った。

「あ、あなたの事を心配しちゃ、いけないの……!?」

照れ隠しの抗弁についそんな言葉が口を吐いたが、刹那の感情の色を灯さない瞳に一瞬、困惑の色が走り、真っ直ぐにマリナを見詰めていた視線がその時、初めて外された。

「……馬鹿だ、あんたは」
「……馬鹿はないと思うけど」
「馬鹿だ。俺は……俺達は否定され、滅びる為にあるのに」

何処か自嘲気味な暗い声と不穏な言葉にマリナは、ソレスタルビーイングに対する世界のアレルギーにも似た際限を知らない憎悪と怒りを思い出す。
タクラマカン砂漠での戦闘から明らかにその熾烈度を高めたガンダムに対する危機感を背景にした憎悪と怒り、そして恐怖を。
ガンダムを絶対悪と断じる事によって手を取り合おうとする世界は彼が語ったように歪んでいるのだろう。利害関係や損得勘定でしか、他者を信じられない偏屈さとそれ故に加速度的に変わっていく世界の様相は、人はそんな風にしか変わっていけない事を如実に突き付けているようで哀しかった。

「俺はあんたの敵だ。だから――俺の事は忘れろ。そうすれば、二度と俺はあんたの前に姿を現さない」

一方的に告げてくる別離の宣告にマリナは柳眉を寄せた。
悲哀よりも苛立ちにも似た憤懣の方が強く、マリナは思わず、「……いやです」ときっぱりと告げていた。
硬質な常の刹那の気配がまた一つぐらりと傾いだ感触に彼もそれを心の奥底では望んでいないという身勝手な願望を頼りにマリナは言葉を重ねる。

「あなたが信じる神をわたしは信じる事は出来ない。でも……わたしは刹那、あなたと分かり合いたい」

伸ばした手の指先が彼の手に触れる。まるで焼け火鉢に触れたようにびくりと大きく身体を震わせて、その手を引っ込めた刹那は「俺に……触れるな」と小さく吐き捨てた。
何処か泣いているような、震える声で。


「刹那」


分かり合いたい。彼に手を伸ばしたい。
傷付いて、臆病で警戒心の強い野良犬のような少年。それは人の愛情を知って、それが裏切られたからこんなにも臆病なのだろうか。
その感情は女性が持つ母性愛故なのか。
ただ、孤独に凍え、それでも大丈夫なのだと震える身体を必死に制しながら暗闇の中で佇む少年に一人ではないのだとただそれだけを伝えたかった。それで差し出された手に噛み付かれても、手酷く叩かれる事になったとしても構わないと思える程に。

彼の孤独を埋めるのは、自分でありたいとマリナは強く想った。


再び触れた指先は今度は拒絶される事はなかった。微かに震える指先と冷え切った指先に切ない愛しさが込み上がり、ゆっくりと二人の温度が同じになる位の遅々とした速度で指を絡めていく。

「……俺に……触れ、るな。触れ……ない、で……」

隠す事の出来なくなった涙で濡れた刹那の声が熱を伴ってマリナの心にも伝播して、瞳の裏側から溢れた熱が涙に変わって頬を伝って落ちていった。

「わたしは……刹那にここにいて欲しい。例え、誰かがあなたにここにいてはダメだって言われたとしても、わたしはあなたにここにいて欲しいわ」
「……マリナ」

初めて、自分の名前を呼んでくれたような温かな声。絡み合った指先に初めて彼の方から希求の想いが強く絡んだ指先から伝わってきて、マリナは小さく微笑みを浮かべた。








Fin



一応、17話の「俺に触るな!」と対のつもり。
やっぱり、まだ刹那の事が良く分からないから突っ込んだお話じゃない……

ちょっとキララクっぽくし過ぎたかも知れない(苦笑)







刹マリSS(シリアス)

2008-01-20 10:05:52 | SS




どうかしている、と。

そう自分を罵ってみた所でエクシアの操縦桿を握る両の手からは引き返そうとする意思は欠片も込められていなかった。
エクシアに搭載されている他のMSを遥かに凌駕する各種の電子的欺瞞装置を用いれば、中東の小国に過ぎないこの国の防空網に探知される事なく、侵入する事は酷く容易だった。
地上と空の光の量が太古から逆転して久しい今の時代で、それでもまだ空で瞬く星々の輝きの方が地上よりも強いこの国の寂しさをモニターから見詰めながら、それでも光の多い都市部へとエクシアを降下させる。
アザディスタン王宮付近に電子的・視覚的欺瞞を施しながら着地したエクシアから降りた刹那の闇色に同化した黒髪をアザディスタンの乾いた夜風が撫でていく。
自身の母国を滅ぼした国の風のはずなのに、それを心地良いと感じている自分を必死に否定しようとしている内奥の葛藤に瞳を細め、刹那は王宮へと足を踏み入れた。
前と同様にテラスへと続く大窓は開かれ、レースのカーテンが夜風に弄ばれ、揺れていた。
扉が閉められていたなら、戻ろうと考えていた最後の一線も脆くも崩れ、刹那はどうして、と問いたくなった。
前回訪れた時から全く変わっていない温い警備体制は財政が逼迫しているアザディスタンの現状を鑑みれば考えられない事ではないものの、当の本人は何故、こうも無用心なのか。
来たのが刹那ではなく、彼女の命を狙う保守派なり、超保守派だったならどうするつもりなのか、と彼女の安否を慮って、苛立ちを覚えている自分に刹那は拳を固めた。
苛立ちを覚える謂れなどないはずなのに。
自分の母国を亡国にした仇国の皇女として、憎む事も容易いはずなのに。現に初めて彼女と出逢った時、その口から語られる小奇麗な理想論に苛立ち、彼女を傷付けるために己の素性を語ったのではなかったのか。


自らの手で彼女を傷物にし、立ち直れない程に傷付けてしまえば――

憎んで貰えれば、離れられる。


暴力を纏った夢想で心を焦がしながらレースのカーテンを掻き分け、彼女の寝室へと足を踏み入れた刹那はベッドで眠るマリナの姿に軽く息を呑んだ。
ポーカーフェイスの鉄面皮を常にしている刹那にそれだけの動揺を与えられる程、瞳に映ったマリナの姿は美しかった。
扇情的に広がった黒絹のような艶やかな髪が月光を受けて輝き、それ以上に彼女の肌理の細かい肌は白々と輝いていた。
刹那の乾き、荒んていた無感動で占められていた心にすら感慨という潤いを与え、美しいと思わせるマリナの姿に刹那の唇は知らず知らず、「……マリナ」と彼女の名をうわ言のように呟いていた。

「…………せ、つな……?」

彼女の瑞々しい唇が動き、呼ばれた自分の名に刹那は瞳を瞠る。
閉じられた瞼は未だ起きる気配を見せていないというのに、その唇は微かに笑んでおり、酷く嬉しそうな表情に見えて、逆にそれが刹那には苛立たしさを募らせた。

何故、憎んでくれない。
憎んでくれれば、嫌ってくれれば、離れられるのに、忘れられるのに。

だが、心の淵で煮える想いとは別にそうすればマリナにとっての“特別”になれると誰かが囁いた。

マリナを傷付けたいと願う癖に、自分以外の誰かが傷付けるのは赦せない。

こんな遣り方でしか、他者と深く繋がる術を知らない、と嗤ったのは仲間を全て殺され、敵を全て殺して来た少年兵時代から培って来た乾き切った心が搾り出した灰燼で造られた執着だったのかも知れない。

そうこれはただの醜い執着なのだ。決して――――ではない。

彼女を傷付けていいのは自分だけなのだ、と心の中で震える名前を付けられない感情をそんな言葉で慰めて、彼女の白く小さな手にそっと自身の手を重ね合わせる。
血塗れの自分の手と彼女の白く綺麗な手を繋げば、少しでもその穢れが彼女に伝播すればいい、と言い訳のように呟いて。
未だ起きない眠り姫の喉下に噛み付く獣のように容貌を近付けた刹那は、そっと唇を開く。
まるで、誓言のように。


「……俺を憎め、マリナ・イスマイール」








Fin.




何が書きたかったんだろ……(汗)
せっくんがまだ良くつかめませーん(涙)

刹マリSS(シリアス)

2008-01-11 21:46:33 | SS



















開いたコクピットの中から現れたのは深蒼のパイロットスーツを着た人だった。ヘルメットのフェイスシールドは光が反射しているのか暗幕処置が施してあるのか、その人の容貌を判別する事は出来なかった。だが、マリナの脳裏に先日の外遊先で出逢った少年の容貌がそのフェイスシールドの闇の奥に見えたのは恐らく気のせいなどではないだろう、という漠とした予感があった。
同郷――否、自分の祖国が滅ぼした亡国の少年。今も戦っていると語った容姿に似合わない低い声が鼓膜でない何かを震わせる。そして、心も。
彼のあの瞳は漆黒のフェイスシールドの裏でまだあの色を称えているのだろうか。
炎のような怒りと氷のような決意が渦を巻きながら互いを喰い合い、滅ぼすように混在して、ただ、酷く哀しいとしか形容の出来ない瞳の色を。
そんな彼の瞳が映した世界の姿は余りにも哀しく、余りにも酷薄で、余りにも無慈悲だから、彼は戦い続けるのだろうか。
だが、そうだとしたら、何の為に――?
武力による紛争の根絶……戦争を戦争で解決しようとする矛盾が今、世界を痛みで悶えさせているのに。


『――話し合っている間に人は死ぬ』


彼が語った言葉はこの世界を遍く覆う強力で生硬い真理なのかも知れない。しかし、だからと言って、力に力を向け合った先に彼らが言う理想郷があると言うのか。
地に堕ちた天使はそんな遣り方で楽園へと回帰出来ると信じて、世界に痛みと憎しみの怨嗟を撒き散らしながら矛を向けるのか。

だが――本当にそれだけならば、何故、彼はその願いを成就させる為に信奉する武力を捨て、非武装でここへと来たのか。
何故、鋼鉄の堕天使から降りて、人の身で自分の前に立っているのか。

何らかの作戦、思想によるものなのだろうと脳裏に囁いたのはマリナに僅かにでも残っていた知性なり、理性だったのかも知れなかったが、彼女の心はそれだけではない、と首を振っていた。
向けられる人々の憎しみと怒りを全身で受け止め、向けられた銃口と砲撃という圧倒的な暴力の前にそれでも前へ、前へと歩んだその姿は作戦や思想などというものではない気がした。
あの鋼鉄の機体が信奉するはずの武力を持たず、向けられる暴力にも屈せず、ただ前だけを見据えて歩いたのはそれに乗る目の前の彼の想い――彼の信念に通じる何かだったのではないか。


保守派の指導者が解放され、王宮のSPに警護されながら王宮内へと行くのを見送った彼は再び機体へと乗り込むためにその背を向けた。
その後姿を見た瞬間、マリナの中でただ知りたい、と想いが全身の血を駆け巡り、気が付けばSPやシーリンの静止も聞かずに駆け出していた。

「刹那・F・セイエイ……!」

彼がコードネームだと語った名が自然と唇から零れる。
上空を旋回するヘリの音が空気を掻き乱し続けているものの、マリナの声は彼に届いていたのだろう。背を向けていた彼がゆっくりとマリナへと振り返る。
近くで見れば、更に彼が刹那と名乗った少年の面影と重なっていく。

「本当に……本当に、あなたなの……?」
「……マリナ・イスマイール。これから次第だ」

肯定も否定もせず、彼は初めて逢った時と同じ感情を排斥したような硬い口調で告げてくる。確かに刹那と名乗った少年の声と同じ耳障りの声に下腹がきゅっと絞り上げられる。

「俺たちがまた来るかどうかは」

彼が――ソレスタルビーイングが再びこのアザディスタンに現れる事は即ち、戦火がまた国土と人心を蹂躙する事に他ならない。
彼が自分の素性を名乗った時にも別れ際で告げられたのと同じ言葉。そして、その忠告通り彼は現れた。戦火が国土を陵辱し、それ以上に人心を怒りと憎しみで染め上げてしまった。
自分の力が足りない――何もする事が出来なかったが為に……!


「戦え」

――え?


耳朶を打ったその言葉の余韻を上空のヘリのローター音が細切れにして霧散させていったとしても確かにそれを聞いたマリナの心の中には残っていた。
剣呑な言葉とは裏腹の、初めて聞いた彼の――刹那の優しげな声。
見えないはずの漆黒のフェイスシールドの裏側で微かに彼の唇が柔らかく微笑んだように視えた――そんな気がした。

「お前の信じる神の為に」

その言葉を最後に背を向けた刹那の背中に向かって、「刹那……!」と叫ぶ。
また一際強く耳朶を掻き回したヘリのローター音にマリナの声は掻き消され、刹那の耳に届かなかったのか、それとももう自分と話す事はないのか。理由は分からず、ただその背中は鋼鉄の天使――ガンダムの中へと消えていく。
まだ、聞きたい事、話したい事が沢山ある。
だが、今はそれ以上に伝えたいたった一言の言葉がある。
アザディスタンの皇女として、平和を目指す者として、争いを持って争いを制しようとするべき者に向けるべき言葉ではないと頭ではマリナは理解していた。まだ為政者として未熟者であり、それが誰かに聞かれれば政争の道具として使われるかも知れない。
だが――否、それ故に為政者としては半人前の部分――ただの人としての心が言ってしまえとマリナの背中を急かすのだ。
どんな理由と思惑であれ、紛争の火種を消してくれたのは彼なのだから――だから。


「刹那……ありがとう……!」


マリナの声はヘリの爆音とガンダムが飛び立った際の人々の喧騒の声で掻き消され、マリナの言葉を聴けた者はいなかった――唯一人を除いて。




**




「刹那……ありがとう……!」

エクシアの従来のMSの遥か上を行く高感度センサーの恩恵と言うべきか。
その声が刹那の耳朶を震わせた瞬間、思わずモニターへと視線を向けてしまっていた。モニターの先にはテラスの突端でその長い黒絹のような艶やかな長い髪を風に揺らしているマリナの姿があった。
儚さが色濃く香るその容貌に酷く似合う綺麗で哀しげな――それでも微笑みを浮かべるマリナの容貌に刹那の胸に久しく感じる事のなかった、ちくりと微細な棘が刺さったような痛みが走った。
その痛みの原因を探る前に慣れ親しんだ身体は既にエクシアをアザディスタン王宮から離脱させるよう操縦しており、モニターに映っていたマリナの容貌は一瞬にして掻き消えた。
それで刹那は単純に気のせいなのだと思う事にした。

――ただ、本当に何処までお人好しなのだろうか、と思った。

ただ同郷というだけで自分に手を差し伸べ。
理想は描けても、現実にはそれは訪れないと理解しながらも、決してそれを捨てる事は出来ずに。
傷付き、倒れる誰かが必ずいるのだと知っている振りをして、その癖それに心を痛めるような。

そして、きっと憎んでいたであろう自分に対して、それでも「ありがとう」と言ってしまえるような。

だが、それでも。
優しさでは何も救えない、争いはなくならない。


彼女の信じる神には一生自分は赦されないだろうと漠然と刹那は思った。

だが、それも当然なのだろう。
自分はすでに六年も前に神を失った。神はこの世界にはいないのだと圧倒的な人の力によって思い知らされたのだから。


だが、信仰は――信念は……


彼女の――マリナ・イスマイールの信奉する神と自分が信奉する神――否、ガンダムは決して重なる事はない。



運命の歯車がそれこそ、神の悪戯か、それとも悪魔の計略で廻り始める他には。



そして、大地へ堕ちた鋼の天使は蒼い彼女の瞳のような空へと昇っていく。
その身の象徴である信奉する力そのものである七つの剣を持たないまま、放逐された楽園への回帰を望むように光の衣を纏って、何処までも――何処までも。







Fin.



刹マリSS(ギャグ)

2008-01-11 21:44:41 | SS



せっくんとマリナさん(クリスマスver)













深々と舞い降りる雪。吐いた息が白んで底冷えする空気に掻き回されて消えていく。
マリナ・イスマイールはここで彼を待っていた。
しばらくすると、深々と降る綿雪の薄いヴェールを被り、闇の中から同じ闇色の頭髪をした年齢より余程幼く見える少年が姿を現した。
しかし、そんな容姿とは裏腹にその瞳は何かを諦めているように、何かを悟っているようにとても深く、感情を決して読ませない。

「……刹那君」

彼の――刹那・F・セイエイの名前を呟く。彼の薄い唇が微かに動いて――

「……俺がガンダムだ」

お決まりのアイ・アム・ガンダムな彼。
初めて逢った時もそう言っていた――そんな回想の間に既に二十回はガンダムと口走っているちょっと病んでる彼は不意に腕を掲げる。その手には――拳銃が握られていた。

「マリナ・イスマイール。お前は知り過ぎた」

聞いてもいないのに一方的に自分の事を話して来たはずなのに拳銃の銃口を向ける理不尽よりも彼が始めて自分の名前を呼んでくれた事の方が嬉しかった。
↑このお姫様も結構病んでます(笑)

「だから、俺はお前と――――ガンダムだ」
「ねぇ、刹那君。今日は何の日か知ってる?」
「ガンダムだ」
「そうね、今日はクリスマス・イブよね」

ふふ、と笑うマリナの様子に刹那は内心で聞いてねぇと突っ込んだ。だが、「だから、今日は刹那君にプレゼントがあるの」と呟き、次いで刹那の目の前に差し出されたものを見詰めて、刹那は固まった。
刹那が見た物は――



1/60エクシアガンダム……!(ガンプラです)



かたかた、と拳銃を握った手が震える。
何故、エクシアがここに……?否、何故、マリナがエクシアを持っているのか。マリナもガンダムだと言うのか……!?

「はい、刹那君。メリー・クリスマス」

差し出されたエクシア(ガンプラ)を思わず手に取り、手が震える。
これで――これでエクシアに乗っていなくても、俺はエクシアと一緒にいられる。俺はガンダムだ!

「ク、クルジスを滅ぼしたのはアザディスタンだ!(ツンデレ)」
「気に入って貰えた?」

ふわりと柔らかく微笑むマリナの笑顔に息を呑んだ刹那だったが、箱に描かれたエクシアの雄姿にきゅんとなって、こくりと頷いてしまっていた。

「良かった」

そう言って微笑んだマリナの微笑みが少し強張っている事に眉根を寄せれば、その手が寒そうに震えている事に気付いた。
だからだろうか。
刹那はそっとその手を握り締めていた。それに驚いたように瞳を丸くするマリナ。

「せ、刹那君?」
「俺はガンダムだ…………俺はガンダムだから……(あんたを守る)」
「……刹那君……チョコレートケーキ、食べない?」
「……食べる」










ティエリア「絶望したぁぁあぁぁぁっああ!!!!」

ロックオン「ちょ、おまっ!?空気読め、空気!!」

アレルヤ「ふー……やり過ぎだよ、全く……」









Fin










刹マリSS(ギャグ)

2008-01-11 21:43:16 | SS



せっくんとマリナさん(第八話より)










マリナは少々後悔していた。
爆弾テロによって、滞在先を変えようと専用車で移動していた矢先、車窓を何とはなしに眺めていたマリナの瞳に飛び込んできた自分と同じ肌をした少年の横顔。
同郷意識もあり、彼が何か問題に巻き込まれている様子に見兼ねて手を差し出してしまったのだが……


「俺はガンダムだガンダムだガンダムだ俺はガンダムだ俺はガンダムだ」


何を話し掛けてもずっとこの様子である。

「わたしはマリナ・イスマイール。あなたは?」
「俺はガンダムだ」
「あなた、アザディスタンの出身でしょう?」
「俺はガンダムだ」

同郷意識から声を掛けてしまったものの一向に会話が成り立たず、溜息を吐き出そうとした時、マリナははっと何かに気付いて息を呑んだ。


そうだ。きっとこの少年は戦争か何かで辛い事があって……←正解。
「俺はガンダムだガンダムだガンダムだガンダムだ」
それで、きっとその辛い事の恨みを晴らしてくれるガンダムに憧れて……←正解……?
「俺はガンダムだガンダムだ俺の存在そのものが……ガンダムだ」


そうだとしたら、ここで自分がソレスタルビーイングのやっている事を否定して何になると言うのだろうか。この傷付いた少年の心に更に塩を塗るような真似をして良い通りがあるというのだろうか。
――ガンダムの文句の繰り返す少年の横顔を見詰め、マリナはふわりと微笑んだ……思い込みが激しいお姫様である。


「そう、あなた、ガンダムなの」
「!?」


ふわりと微笑んだマリナの言葉に無表情だった少年の容貌に一瞬、驚きが走り、そして、酷く眩しいものを見詰める無垢な輝きを宿した瞳を向ける少年の容貌にマリナはどきりとした。

か、可愛い……!

無垢でとても愛らしい少年の容貌に見惚れていたマリナだったが、はっと何かに気付いたのか少年は容貌を俯ける。

「ク、クルジスを滅ぼしたのはアザディスタンだ……!(ツンデレ)」
「ねぇ、僕、チョコレート食べる?」
「チョコ……!?」

何処かウキウキとした瞳で酷く暴力的なまでに優しい瞳で尋ねてくるマリナと名乗った女性に刹那は内心で呻いた。

何としても目標(チョコレート)は奪取したい。
だが、俺はガンダムだ。ガンダムはチョコレートを食べない――いや、もしかしたらチョコレートを食べるかも知れない。
エクシアだって、エクレアみたいな名前だ。一文字しか違っていない。だったら、俺もチョコレートを食べていいはずだ。
否、ガンダムならば食べるべきだ……!
目標(チョコレート)は駆逐(完食)しなければならない……!

「……食べる」
「良かった。はい、どうぞ」

もっきゅもっきゅ。
甘い……エクシアみたいに甘い……

んくっと甘みを飲み下し、至福感にとろんと夢見心地でいた刹那だったが、はっと何かに気付きマリナを見詰める。マリナはとても生温いような優しいような不思議な瞳で刹那を見詰めていた。

「ねぇ、チョコレートパフェ食べる?」

チョコレートパフェ……!?
な、何ていう懐柔手段に訴えてくるのだ、この女は……!?
絶望的な気持ちで愕然となった刹那だったが、チョコレートパフェの誘惑にぐっと堪え、きっとマリナを見据える。

甘く見るな……!俺はガンダムだ、ガンダムだ、俺の存在そのものがガンダムだ!

「俺のコードネームは刹那・F・セイエイ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ……!」
「そう、刹那君って言うの。ソレスタル・ビーイングごっこなんてしてちゃダメよ」

くっ、この女信じていない!

だけど、この女は俺をガンダムだと言ってくれた……初めて、言ってくれた人だ。

「……紛争が続くようなら、いずれアザディスタンへも向かう(あんたを助けに)」





刹那 運命の人と 出逢う





Fin