ホトトギスのきょうだい (奈良県)
ホトトギスはむかし、おとうととふたりぐらしやってんと。ある日のこと、いっしょにヤマイモをほりにでかけたけど、とちゅうで用をおもいだしたもんやから、
「さきにいんで(かえって)、イモをたきかけてくれんか。」
ちゅうてたのんだんやてな。ほんで、ホトトギスのおとうとは、うちにかえって、ヤマイモをあろうて火にかけたんやて。そやけど、にいやんは、なかなかかえってきよらん。そのうちに、だいぶにえてきたみたいやから、
「もう、はし立つかしらん。」
と、ついてみると、イモは、いいぐあいににえとるや。
「おそいなあ、にいやんはなにしとんかいなあ。アア、はらへった。」
おとうとは立ったりすわったりしたけど、しんぼうたまらんようになって(がまんできなくなって)、ちっちゃいイモをひとつ食うてみた。ほんならまあ、ヤマイモはほっくりにえて、したがとろけるみたいや。
「こらうまいがな。もうひとつ、ちっちゃいのをたべたろ。」
また食うた。それでもにいやんは、かえってきよらん。
「そうや、どうせふたつにわけて食うのや。おれのぶんだけさきに食うても、おこれへんやろ。」
おとうとは、なるべくつるくびのもむない(おいしくない)ところばっかりよりわけて、ええところを、にいやんのぶんとして、のこしといたんやてな。
やっとして、にいやんのホトトギスがかえってきて、
「ヤマイモにえたか。」
と、きくもんやから、
「うん、にえたよ。だいぶまっとったんやけど、はらへってしゃないさかいに、おれのぶんだけ、さきに食うた。」
おとうとは、のこしてあったうまいイモをだしてんと。ほいたらにいやんは、こわい顔していうのや。
「たったこんだけか。」
「うん、ちょうど半分にわけたら、そんだけや。」
にいやんのホトトギスは、むっとふくれてひと口たべてみたけど、はしをほうりだしたんやと。
「なんやねん、このイモは。もむないところばっかりのこして、どういうこっちゃ。うまいところは、みんなおまえが食うてしもたんやろがな。」
「そんなあほな。ええところばっかりのこしたつもりやで。」
「うそたれっ、だまされるかいな。」
ぼろくそや。しまいにはおとうとも、しゃくにさわるわな。
「そうか、そんくらいおとうとを信用でけへんのやったら、おれのはら、たちわってみてくれ。うそいうてるか、いうてへんか、すぐわかるがな。」
にいやんはむしゃくしゃまぎれに、おとうとのはら、たちわったんやて。ほんならどうや、やっぱしおとうとのいうたとおり、中にはくずイモばっかりはいっているがな。
「しもた、えらいことした。」
にいやんは、じだんだふんだが、もうあとのまつりやった。
そやからホトトギスは、いまでも、
「オトトかわいや、ホーロンかけたか。」
ってなくのやて。それもまい日、八千八声ずつなきつづけるんやて。ないとるとちゅうで、人がまねでもすると、またはじめからやりなおすねんと。たとい、あとひと声でおわりちゅう、八千七声までいってても、やりなおすらしいわ。
ほいでむかしから、ホトトギスのないているのをきいたら、まねしてやるな、いうねんて。はじめからやりなおすのは、あんまりかわいそうやもんな。
なきつづけになくもんやから、木にとまってるときは、口ん中があこう見えてる。赤いのは、なきすぎて血ぃはいてるせいやそうや。 (再話・川村たかし)
【ふるさとの民話十四「奈良県の民話」 日本児童文学者協会編 偕成社】
ホトトギスはむかし、おとうととふたりぐらしやってんと。ある日のこと、いっしょにヤマイモをほりにでかけたけど、とちゅうで用をおもいだしたもんやから、
「さきにいんで(かえって)、イモをたきかけてくれんか。」
ちゅうてたのんだんやてな。ほんで、ホトトギスのおとうとは、うちにかえって、ヤマイモをあろうて火にかけたんやて。そやけど、にいやんは、なかなかかえってきよらん。そのうちに、だいぶにえてきたみたいやから、
「もう、はし立つかしらん。」
と、ついてみると、イモは、いいぐあいににえとるや。
「おそいなあ、にいやんはなにしとんかいなあ。アア、はらへった。」
おとうとは立ったりすわったりしたけど、しんぼうたまらんようになって(がまんできなくなって)、ちっちゃいイモをひとつ食うてみた。ほんならまあ、ヤマイモはほっくりにえて、したがとろけるみたいや。
「こらうまいがな。もうひとつ、ちっちゃいのをたべたろ。」
また食うた。それでもにいやんは、かえってきよらん。
「そうや、どうせふたつにわけて食うのや。おれのぶんだけさきに食うても、おこれへんやろ。」
おとうとは、なるべくつるくびのもむない(おいしくない)ところばっかりよりわけて、ええところを、にいやんのぶんとして、のこしといたんやてな。
やっとして、にいやんのホトトギスがかえってきて、
「ヤマイモにえたか。」
と、きくもんやから、
「うん、にえたよ。だいぶまっとったんやけど、はらへってしゃないさかいに、おれのぶんだけ、さきに食うた。」
おとうとは、のこしてあったうまいイモをだしてんと。ほいたらにいやんは、こわい顔していうのや。
「たったこんだけか。」
「うん、ちょうど半分にわけたら、そんだけや。」
にいやんのホトトギスは、むっとふくれてひと口たべてみたけど、はしをほうりだしたんやと。
「なんやねん、このイモは。もむないところばっかりのこして、どういうこっちゃ。うまいところは、みんなおまえが食うてしもたんやろがな。」
「そんなあほな。ええところばっかりのこしたつもりやで。」
「うそたれっ、だまされるかいな。」
ぼろくそや。しまいにはおとうとも、しゃくにさわるわな。
「そうか、そんくらいおとうとを信用でけへんのやったら、おれのはら、たちわってみてくれ。うそいうてるか、いうてへんか、すぐわかるがな。」
にいやんはむしゃくしゃまぎれに、おとうとのはら、たちわったんやて。ほんならどうや、やっぱしおとうとのいうたとおり、中にはくずイモばっかりはいっているがな。
「しもた、えらいことした。」
にいやんは、じだんだふんだが、もうあとのまつりやった。
そやからホトトギスは、いまでも、
「オトトかわいや、ホーロンかけたか。」
ってなくのやて。それもまい日、八千八声ずつなきつづけるんやて。ないとるとちゅうで、人がまねでもすると、またはじめからやりなおすねんと。たとい、あとひと声でおわりちゅう、八千七声までいってても、やりなおすらしいわ。
ほいでむかしから、ホトトギスのないているのをきいたら、まねしてやるな、いうねんて。はじめからやりなおすのは、あんまりかわいそうやもんな。
なきつづけになくもんやから、木にとまってるときは、口ん中があこう見えてる。赤いのは、なきすぎて血ぃはいてるせいやそうや。 (再話・川村たかし)
【ふるさとの民話十四「奈良県の民話」 日本児童文学者協会編 偕成社】