あ可よろし

「あきらかによきこと」は自分で見つける・おもしろがる
好奇心全開日記(不定期)

別格の時代物

2019-12-25 | 本(文庫本)
宮部みゆきさんの『この世の春』を読みました。
本作は宮部さんの作家生活30周年記念の作品です。メモリアル作品であることに加え、宮部さんの作品の中でも私の好きな時代物。さらに長編。期待度がぐいぐい高まった状態で読み始めました。そして期待以上の面白さに、ほぼ一気読みでした。

江戸時代の中期。下野北見藩で若き六代藩主・北見重興(しげおき)の押込(おしこめ=強制的な隠居、監禁)という政変が起きる。領内の長尾村で隠居生活を送っていた元作事方組頭・各務(かがみ)数右衛門と娘・多紀にも政変の余波が及び、数右衛門が没した後、多紀は従弟の田島半十郎に藩主の別荘である神鏡湖畔に佇む五香苑へ連れて行かれる。そこで多紀を待っていたのは、重篤な心の病を得て強制的に座敷牢に監禁された重興と、北見藩元江戸家老の石野織部、医師の白田登たちだった。

物語は、重興の病と向き合って快癒の道を探る中で、藩内で起きたいくつもの事件が深く関わっていることが判明、根本からの解決をしなければ重興の心の病を癒すことはできないと、多紀たちが立ち向かう姿を描きます。かなりヘビーなテーマでいろいろなエピソードがあっても、最後にすっと収まっていく流れが見事でした。
時代小説なのでどこにも書いてはありませんが、重興は明らかに解離性同一性障害でした。今でこそこの病名で表されるけれど、江戸時代にだって、それ以前の時代にだってこの病を得てしまう人はいたはず。まったくの別人格になってしまう姿に「死霊に憑りつかれた」と判断するしかなかった時代は当然あったはずです。
重興がそうなってしまった原因や背景に潜む闇が深すぎて辛くなりますが、重興の近くにいる人たちがみんな素敵なキャラクターばかりだから救われます。優しくてどこか可愛くて、ひとりひとりの姿がはっきり・くっきりと描かれ、そのひとりひとりから、その時代の空気感も土地の香りもしっかり感じられる。そこが宮部さんの時代物の魅力なんですよね。
そしてタイトルの『この世の春』。最初からずっと「この世の春」感がなかったところで、最後に遠くに見える桜の木に花がポロポロっと咲き始めるのを見るような、そんな「この世の春」を匂わせながら結ばれます。いつも宮部さんの作品を読んだ後に感じることですが、この方の時代物作品は別格。本当にお見事でますますファンになってしまうのでした。

今年最後の読書記録は本作でよかった。また来年も幸せな読書がたくさんできますように。

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