焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ (49)
「1600Kmバイクひとり旅/6(宮城県大崎市→石巻市~仙台市)」
[バイク旅6日目] 2016.7.31
AM10:00
宮城県大崎市のホテルを
チェックアウト時間ぎりぎりで飛び出し、
石巻へ向かう。
石巻市役所前でしばし休憩。(石巻駅向かい)
PM12:00
石巻市街を淡々と走り抜けて、ちょうど昼頃、石巻港に到着した。
今回の旅でこの石巻は、どうしても訪ねたい場所だった。
あ、そうか、今日は日曜日か・・
港に着いて、そんなことに気付いた。
港に人影はなく、復旧工事の槌音もない。
停めたバイクの傍らで、
埠頭に転がっていたコーヒーの空き缶が、
海風に吹かれるたびにカランカランと音を立て、せわしなく移動する。
まるで、僕に向かって何かを話し掛けているようだ。
海鳥やカラスが、
停泊している船のマストにとまっては又飛び立って行く。
日差しの中の石巻港は、なんだろう、今はただ穏やかで、
静か過ぎる時間の中にあった。
2011.3.11
あの当時はここまで来る事が出来ず、
この石巻に向けた救援物資を、地元の市役所で輸送トラックに積み込む作業をした。
時が止まっているかのよう
あの大震災の翌年だったか、
僕は石巻に関して書かれた一冊の本を手にした。
東北学院大学の学生達によるリポート「呼び覚まされる霊性の震災学」
「深海に棲む魚は、おそらく最後まで水というものに気づかないだろうという。
何かの偶然が水面に運び、大気に触れさせない限り、
彼は水というものの存在を意識しないであろう」(パースナリティーの文化的背景)
この引用書き出しから始まる本著の<第一章・・死者たちが通う街>では、
大震災後に東北の被災地で、怪奇現象の体験談や噂話が相次ぎ、
特にこの石巻市でそれが突出して多い事が挙げられている。
もちろんこの本は、所謂、オカルトやホラーなどの類の物ではない。
東北学院大の教授や学生達が、現地で数多くの取材を行い実態を考証する中で、
『震災』というものを、これまでタブー視されていた「死」への直視、
または「霊性」という新たな観点から真摯に探ろうとするものだ。
石巻・気仙沼のタクシー・ドライバーの「霊を乗せた」複数の体験証言と、
その裏付け調査が紹介されるが、そのほとんどは30代までのまだ若い世代の(霊魂)だという。
彼ら、彼女、または子供達は、皆たいていが冬服姿のまま手を挙げ、家までの行き先を告げる。
タクシーの中では、ドライバーとの短い会話のやりとりもし、そして着くと消えている。
印象的なのは、取材をする学生の口からポロっと出た「幽霊」という言葉に対して、
「幽霊なんて蔑むように言うんじゃない」「幽霊とはちょっと違うかもしれないね」
と諭すドライバーや市民が多い事だ。
「霊を乗せる」という体験をしたドライバーの多くは、恐怖心を引きずってはいない。
無念にも、突然の震災で亡くなった霊を「畏敬の心」で受け取っている。
リポートをした学生が書いている。
「心というのは宿している肉体がなくなっても残り続けるものであると、
今回の調査を通じて改めて考えさせられた」と。
僕はこの本の中で、あるタクシー・ドライバーの言葉が特に心に残った。
「これからも手を挙げてタクシーを待っている人がいたら乗せるし、
たとえまた同じようなことがあっても、途中で降ろしたりなんてことはしないよ」
(その他の章では、震災後の被災地で起きる様々な問題を掘り下げ考察していて、
このリポート本はとても貴重な著書だと思う。)
5年前、さっきまでここで、いつものように当たり前の日々を営んでいた壮年やご婦人や、
お爺ちゃんやおばあちゃんや、若者や子供達、大勢の人々が、
容赦なく襲いかかる波に次々と呑み込まれていったのだ。
誰もいない埠頭で1時間ほど佇み、僕は静かに合掌して石巻を後にした。
PM1:30
ここもまた津波が真っ先に襲った通りだ。
色々な思いを巡らせながら、黙々と走り続けた。
国道45号線
やがて突然、人だかりの多い横断歩道が見えて来た。
観光客で賑わう松島駅前だった。
初めて訪れる松島
その松島駅前をゆっくりと走り過ぎ、一本の山道を入って行くと、
友人から「松島に行ったらぜひ寄ると良いよ。牡蠣が絶品だから」と
教えられていた田里津庵があった。
バイクを停めて店を覗くと、日曜日のせいか店内は満席状態。
有名店らしく予約をしておかなければ無理らしかった。
ふと、駐車場の上を見ると・・
松島へ抜ける山道らしい。
「少し道が悪いですが、眺めよく松島方面へ行けます」と。
松島湾を見下ろす。晴れていて絶景!(写真撮ってません(^^;)
PM3:00
松島を発ち、塩釜港に到着。
修復された道路。引かれた白線ライン。
「よくここまで・・」という思いと、「まだこれが現状なのか」という思い。
釣り人が数人、物思いに耽りながら静かに釣り糸を垂れていた。
地名は分からないが、途中の市街地を走っていて目にした
プレハブの仮設住宅が立ち並ぶ一画。
仮設住宅のすぐ向かい側には、新築の戸建て住宅が並んでいた。対象的な光景だった。
時間が掛かるのは仕方がないのかも知れない。
それでも、もう5年以上も経っているぞ。そう思った。
PM7:00
仙台の宿泊ホテルにイン。 前日に予約していたホテルは、仙台市・名取川の上流に建っていた。
あの日の夕方、テレビ中継をみて驚愕した、
全てを呑みこみながら内陸へ突き進む津波映像。
あれはこの辺り、名取川上空からの映像だったと知る。
この日の夜は、かなりの疲労感を感じて過ごす。
天気予報は明日から再び大荒れの予報で、
仙台はすでに強い雨が降り始めていた。
<この日の走行ルート>
宮城県大崎市古川→石巻・松島・塩釜・仙台(走行距離158Km)
<次回>は、天候大荒れで仙台に一日足止めの後、福島県郡山へ。
何て旅だっ!は続く。
星空Cafe、それじゃまた。
皆さん、お元気で!
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