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1600Kmバイクひとり旅/3(秋田県由利本荘→大館編)

2021年08月01日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ

焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ  (49)

「1600Kmバイクひとり旅/3(秋田県由利本荘→大館編)」



[バイク旅3日目]
    2016.7.28 

AM7:30   

「あ~、テスト、テスト、只今マイクのテスト中。
 え~、こちら「北海道で待ってるよー!早くおいでふかがわ班」
の幸田です。
 感度良好・感度良好。え~応答願いまっすー」


なんだお?どうした?


「んとな、明日な、函館の方からバイクで廻ってくるんだべ?

    さっきちょうどナ、あっち行ってるヒロカズ(息子さん)から電話あってな、
    あっちナ、大沼とかナ、あちこち通行止め入ってるとさ。土砂だあ。
    苫小牧から廻ってもナ、室蘭辺りでも駄目だナ。天気しばらく駄目だナあー。
    あさってからこっち(札幌)も大雨予報出てるっしょ。
 高速道も止めるんでないかい?
   
 花火大会もナ、この分だと中止かも知れんナ。
 あのナ、今
年は無理しないほうがいいんじゃないかい」

うーむ、そっかあ。最近の天気予報は当たるしなあ。

「だけどナ、なんでこの時期来たのよー。 
 もうちょっと待ってれば良い季節になるべさ」

「なんでこの時期って、花火大会に合わせたんっしょ!」
「ウハハハハ。そっか、そうだったなあ~。んでもナ、
 天気ホントしばらく悪いぞぉ。無理すんなー」


朝、北海道の旧友からそんな電話が入った。
高校時代から「感度良好・感度良好」が口癖で、何故かそれは今も変わらない。むはは。
深川で久しぶりに再会するのが楽しみで、今回の旅の前からずっとやりとりをしていたのだ。
向こうでは他に、何人かの旧友とも花火大会でおち合う事になっていた。

その電話のあと、僕はいつものようにホテルの部屋のTVを点けて、
天気予報をチェックし始めた。
これほど毎日の天候を入念にチェックするのは
初めてかも知れない。
秋田・青森は午前中は晴れ間も覗くようだが、
午後からはまた各地に大雨洪水雷の予報が出ている。
しかも、このドデかい雨雲はこれから北海道へ向かって移動して行き、
函館・室蘭・苫小牧、そして札幌、旭川方面をノロノロと通過して行くらしいのだ。

「うっひゃっ~!
 まさに北海道に渡ってからの予定走行ルートそのものではないの!

 こんな事ってあるのかお~!」

元々、台風上陸の少ない北海道のインフラ整備は脆弱だ。あそこら辺は大体想像がつく。

しばらく大雨が続くと、すぐに土砂崩れや冠水になってしまうだろう。
北海道に渡っても、この大雨雲が
「ほほーい!先に行って待ってるよーん!  早くこっちに来なちゃいねー!」と、
意地悪そうにニカニカ笑ってるようだ。


今日は、夕方には青森のホテルに到着してそのまま宿泊し、
明日の朝、青森フェリー港7:30発の函館行きフェリーに乗る予定だ。
チケットはもう手配済みだし、青森はここからそう遠くないので十分に余裕がある。

さて、そろそろホテルのチェック・アウトの時間が近づいて来た。
とにかく僕は、天候の行方が気になりながらも、予定通り青森へ向けて出発する事にした。

AM9:30   
「お世話になりました!」と挨拶をして、本荘グランドホテルを出発。
まずは『日本海東北自動車道バイパス』を抜けて、7号線を海岸沿いに北上した。
やがて、交通量の多くなった秋田市街地を通り抜け『秋田自動車道』に入った。
時々気持ちのいい晴れ間が覗く。「おおっ、晴れ間だっ!」思わず呟いた。

そう言えば昨日、この由利本荘市手前の『酒田バイパス』を抜ける時のことだった。
そろそろバイパスの入り口に差し掛かろうとした頃から、また強い雨が降り出して来た。
そして、やや傾斜の続くバイパスを走っていた時、
突然、恐怖心のようなものが沸々と心に湧いて来たのだ。

「この先に、またいくつかトンネルがあるんだろうな。濡れてるんだろうな」

                     
そう思うと、あのスリップ事故を思い出し、
怖くてたまらなくなった。
別に昨日の事故は、雨でスリップしたわけじゃない。原因は路上の油だ。

そう言い聞かせても、得体の知れない恐怖心はどんどん大きくなって行き、
遂に僕は、バイパスの途中の出口で降りてしまった。


 「マズイなぁ」 
変なトラウマが突然襲って来た感じだった。
しばらく僕は、降りてしまった海沿いの町を只ぐるぐると走り回った。

「このままだとバイク乗れなくなるぞ。どうすんだ・・」

  本気でそう思った時、僕は意を決するように、再び「エイヤッ!」とバイパスに突入して行った。
そしてしばらくの間、怖がりながらも濡れた路面にだけ集中して走り続けた。
幸い、そのバイパスはクルマも空いていて、それぞれが十分な車間距離を取って走っていた。
いつの間にか雨も上がり、路面も乾いて行った。
ほどなくしてそのバイパスは、穏やかな田園風景を眺めながらの、
緩やかで気持ちの良いルートに感じられて来た。
「トラウマ克服!」
僕はまるで、生まれて初めてバイクに乗った若者のように、
メットの中でそう叫んだ。
「よっし、大丈夫だ。OK,OK!」


 秋田平野を過ぎた五城目街道にて

 しばし休憩。PS250快調!


気持ちのいい『秋田自動車道』を抜けて国道103号線に移り、
青森県十和田湖手前での休憩中、札幌の幸田に電話を掛けた。

「そっちどうなってる?」
「んだな、やっぱりナ、明日からひどくなりそうだわ」

この電話で僕はすんなりと決断した。直感もあった。

「うん、分かった!今回は残念だけどさ、あきらめるわ。
 色々とありがとうな・・」


このまま無理して大雨に突入して行っても心配かけてしまうだろうし、
向こうで何かあったら、皆に迷惑もかけてしまうだろう。
それに、ブレーキ・レバーがひん曲がったままである事も気掛かりだった。
30年ぶりに観る故郷の花火大会はきっぱりとあきらめて、
また次の機会にした方が良さそうだ。

 決断!今からUターンして岩手に向かう!

北海道行きが無くなって、正直少しどこか気が抜けた。
今回は色々と準備万端で臨んでいたから、残念で寂しい気持ちもあった。
けど仕方がない。今回は素直に「直感」に従うことにした。


午前中、初めて訪れる秋田市街を通る頃は、空も良く晴れていて暑かった。
コンビニに寄っておにぎりをほおばり、それから思いついたように
バイクショップのS君に電話を掛けた。

「昨日、油でスリップしちゃったよ」
「うわわ、大丈夫でした?油は怖いからなあ」
「一瞬で持ってかれたわ」
「あ、タイヤしっかり拭き上げておいて下さいよ。油がまだ付着してたら
 雨でまたイッちゃうかも知れないので」
「おっと、そうだね。そうするわ。ありがと!」
「気を付けて!良い旅を!」
「ほほーい」

S君のアドバイス通り、電話の後、僕はさっそくコンビニの駐車場で
バイクのタイヤを濡れたウエスでごしごしと拭き上げた。
「秋田空港」の標識を覚えているから、きっとその辺りのコンビニだったと思う。


その後、延々と走り続けた秋田平野の田園風景には圧倒された。
夏の日差しと緑に萌える田んぼが、左右の地平線の遥か向こうまで広大に続いていた。
この時は良く晴れていたし、素晴らしい田園風景にバイクごとすっぽり包まれているようで、
走りながら感動しきりだった。

「これだよこれ!これがツーリングだあ!
 しっかしここ、北海道より広いんじゃないか」


晴れの秋田平野は、ホント素晴らしかった。またいつか走ってみたいと思う。




 
山の途中でみつけたCafe&レストラン。
立ち寄ってみたけど、中はガランとしていて誰もいなかった。
 


PM7:30  
秋田県大館市に到着。
 「ホテル・ルートイン大館駅南」

  
HONDA PS250、今日も一日お疲れさんナ。ゆっくり休んでナ。

 大館の夜は暗かった

シャワーを浴びたあと、ベッドに寝そべりながら札幌の幸田に電話を掛けた。
話しながら、向こうで再会するはずだった旧友たちの話題になった。
ああ、トンチにも会いたかったなあ・・。
トンチは高校時代、UFOに凝っていて、家のベランダにUFO観測所なるものまで作った奴だ。


電話の向こうで幸田が言った。

「あ、トンチな。あいつ、この前も音江山でUFO呼ぶ会みたいのやったんだわ」

「へっ!?まだやってんのか?」

「なんかナ、最近またやり始めたんだわ」

「へー、それで?UFO来たの?」

「いや。来ない」

ぷははは!。僕と幸田は笑った。
相変わらずのトンチの好奇心旺盛な姿を想像して、僕は何だか嬉しくなった。

「来年集まろうよ」
「そだな。元気でな」

そう言って僕らは電話を切った。

ベッドに横たわりながら「ここ何処だっけかな?えーと、あ、大館か」・・
そんな事を思っている内に、僕はいつの間にかそのままぐっすりと眠ってしまっていた。

<この日の走行ルート> 秋田県由利本荘→大館:(走行距離187Km)


<次回>は秋田県大館市から岩手県盛岡市へ。何て旅だっ!は続く。




       星空Cafe、それじゃまた。
      皆さん、お元気で!


    
                










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