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大襲来の夜

2021年02月02日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ

     焼き芋みたいな
     エッセイ・シリーズ (24)
     『 大襲来の夜 』


      今から10年ほど前の、熱帯夜真っ盛りの夏の夜。

      突然リビングの方から女性の悲鳴が聞こえた。

      「
キヤぁっー!!

      妻の声だった。

      んっ何事っ!?
      僕は階段を駆け下りた。

      そこに、

      ビニール袋を持った(当時)小3の息子が
      何とも嬉しそうにニヤニヤして立っていた。

      「見て!公園で収穫したんだ」

      
        大量のセミの抜け殻。
 
        
ほら!
      近くの公園でわんさか拾い集めて来たらしい。

      驚いて声をあげた妻は、セミの抜け殻が苦手なわけではない。

      いきなり見せられたのでびっくりしたらしい。
      彼女は普段、散歩中に遊歩道に落ちている抜け殻などを見つけると、
      せっせと拾って雑木林の方へ移してあげるくらいなのだ。
      「あっ、ここにもいる。踏まれちゃうでしょ。
      どうして道の方に出て来るんだろ?」と言うけれど、
      脱皮するセミだって、どこが道なんだか分らないよな。

      さて、話はここで終わりじゃない。

      この後、恐怖の長い夜が訪れる事など、
      その時は誰も思ってもみなかった。


            次回に続く。
      (って、続かないよ。このまま書くよ。むはは)


      やがて、息子が床に新聞紙を広げ、
      大量の抜け殻を大きい順に並べ始めた時だった。


            

      息子の部屋のベランダに3,4匹のセミが飛んで来て
      一斉に鳴き始めたのだ。


      ミーンミーンミーン!!

      窓を開けると、いきなり一匹のアブラゼミが部屋に飛び込んで来た。

      続いて隣の洋間の窓ガラスがガツンゴツンと体当たりされる音。
      何匹もいる。まるで窓ガラスを叩き割るかのような凄い勢いだ。


      ドン!ガン!ガツ!ゴツ!

      その内、リビングの窓も攻撃され始めた。


                        

      ドン!ガツン!ゴツン!

      明らかに我が家を狙い襲っている!セミの数は次第に増えている。
 
      ガン!ガツン!ゴツン!バタバタ!     

      息子が持ち帰った大量のセミの抜け殻から、何か臭いを感じたのだろうか。
      子供がさらわれたと思い、救出に来たのだろうか。
      ちょっとでも窓を開けようものなら、すかさず飛び込んで来そうな勢いだ。

      突然、襲撃がピタッと止んだ。
      僕は外の様子を見ようと窓を開けようとした。


      「ダメっ!お父さん!そこに隠れてる!」


      息子の声で慌てて閉めた。

      窓枠の下の方に身をかがめて、セミが飛び込むチャンスを狙っていた。
      これはもう何だかまるで、人間とセミ軍団の頭脳バトルじゃないか。

      セミくん達よ、僕は決して君達の平和を乱そうなどと思っているわけではないかんね。
      君達の人生を幸福に過ごして欲しいと願う者だかんね。
      空に壁はないんだかんね。(むはは。何のこっちゃ)

      セミ軍団の子供救出突撃大作戦はその後1時間ほど続いた後、突然ぱったりと止んだ。
      軍団が目の前の公園の森の方へ羽をばたつかせて飛んで行くのが見えた。

      いやはや、恐怖だった。何とも言えぬ恐怖感だった。

      ヒッチコック映画の「鳥」を思い出した。

      その後、風呂に入りながら、
      息子が「さっきの事、作文に書くよ」と、

      今までに見たことないような、
      神妙な顔つきでポツリと言った。





               星空Cafe、それじゃまた。
                   皆さん、お元気で!




                   おいっ、抜けガラ返せ











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